(本記事は、中川 祐治氏の著書『底地・借地で困ったときに最初に読む本』の中から一部を抜粋・編集しています)

土地の賃貸借と使用貸借について

底地・借地で困ったときに最初に読む本
(画像=andrey-popov/stock.adobe.com)

土地の貸し借りには大きく分けて2つの種類があります。賃貸借と使用貸借です。

土地の貸し借りという点では同じですが、大きな違いがあります。それは賃料の有無です。賃料を設定して貸し借りするのが賃貸借で、賃料の設定がない無償での土地の貸し借りが使用貸借となります。地主さんと借地人さんの間での土地の貸し借りでは、地代の授受がありますので賃貸借となります。一方で、実家の一部の土地を子に無償で貸し与え、子が自分で自宅を建築しているような土地の貸し借りは使用貸借となります。

さらにもうひとつ、大きな違いがあります。それは借地権の有無です。

借地権の条件は、建物の所有を目的とした土地の賃貸借となりますので、借地人さんの土地利用の権利は借地権として借地借家法で強く保護されます。しかし、使用貸借では借地権が認められず、借主が亡くなったり、地主さんの変更などで土地の明渡しを求められる恐れがあります。原則として使用貸借契約は借主の死亡で終了となります。

つまり、実家の敷地の一部を自宅の敷地として無償で借り受けていた次男家族も、借主の次男が亡くなってしまった場合、土地所有者の父や兄などから、土地の明渡しを求められる危険性があるのです。

家族の安心安全な生活を守るためにも、土地を利用する権利は地代を支払ってでも、賃貸借契約である方が望ましいといえます。いくら身内間の土地の貸し借りであっても、相続などで事情が変わることもあり得ると考え、土地の貸し借りの際は慎重に判断をしてください。

底地(貸宅地)

地主さんが所有する土地で借地権が付いている土地

底地とは、地主さんが所有する土地の上に、建物の所有・利用を目的とする借地権や地上権が付いている土地のことで「貸宅地」とも呼ばれます。

簡単に言うと、地主さんから土地を借り受けた人が、そこで自宅を建てて利用している土地を「底地」といいます。この時、土地を借りた底地上の建物所有者のことを「借地人」といいます。

底地上の建物は借地人さんの所有物なので、地主さんが土地を自己使用したいと考えても、借地人さんに土地を返してほしいと明渡しを強制したり、建物を勝手に取り壊したりすることはできません。つまり、底地は一度貸し出すと半永久的に地主さんの自由に使用収益ができない土地となってしまうのです。

第三者からすると、底地を貸せば地代が得られ、手放せば売却益も期待できる優良な資産と思えます。確かに、底地の場合は借地権付きとはいえ、土地を貸すだけなので、通常のアパートやマンション経営と違い、建築コストや修繕等のコストや手間がなく、良い収益物件のようにも見えるかもしれません。

しかし、底地から得られる地代は低額なのが一般的で、都内23区の一戸建て30坪程の敷地でも月に2〜3万円というのはザラです。一戸建ての土地を貸し出しても、駐車場1台分程度の収入しかありません。固定資産税を支払うことはできても、手残りは微々たるものとなります。アパート・マンション経営に比べると圧倒的に収益性は低くなります。また、売却しようにも、借地人さんが利用中の土地を購入する第三者はほとんどいないのです。さらに、序章で述べたようなトラブルに巻き込まれてしまうこともあります。法律や契約書でしっかりとした決まりがないことが多く、その曖昧さから、さまざまな問題が起きやすいのも特徴です。

また、底地は収益性が低いといって有効活用や相続対策を諦めている地主さんが多い中、土地の評価額だけは高額で、相続の際に予想もしない多額の相続税を課税されることもあります。

底地を多数所有される、昔からの地主さんからすると、とても頭の痛い話です。だからこそ、近年では地代や更新料、各種承諾料のトラブルに加え、底地の売却や有効活用など、底地に関する相談が増えています。

借地権

地主さんとの間で、毎月の地代等を設定し、建物保有目的で土地を利用する権利

借地権とは、自宅など建物を建てるために地主さんから土地を借り受け、使用料を支払い、その土地を利用する権利です。

仮に建物は建てず、駐車場や資材置き場のように、土地のみを利用するために借り受けている場合や、建物は建てるけれども、使用料を設定せずに無償で貸し借りする場合、この2つの場合には借地権は生じません。要するに、建物所有目的の賃貸借が借地権の条件となります。この借地権を得た借地人さんは、地主さんからの理不尽な立退き要求や、契約期間が満了したとしても、簡単には明渡しに応じる必要がないなど、最強の土地利用権を得たともいえます。

また、今日の借地権については、平成4年8月1日以降に新規に設定された借地権と、それ以前から継続している旧法借地権の2種類が混在しています。本書で取り上げる借地権は、戦後あたりから続いてきた旧法借地権のことをさし、昨今のトラブルのほとんどは旧法借地権関連だといわれています。

さて、借地権は低額な地代負担で土地利用が可能な反面、借地上の建物の建替え(増改築)や建物の売却(譲渡)の際には、地主さんの承諾と承諾料の支払いが必要になることがほとんどです。つまり、承諾を得られなければ、増改築や譲渡ができないという決定的な弱点があるともいえます。

しかし、この弱点も、裁判所の許可を得ることで増改築や譲渡が可能となる救済措置のおかげで、多少はカバーできるのですが、建替え費用や借地権の購入費用としての住宅ローンが利用できない場合が多く、更に売却時においては、裁判所の許可物件=トラブル物件となりますので、一般の方への売却が非常に困難になります。従って、地主さんからスムーズに承諾を得られるかどうかが、借地での増改築や譲渡の成功の鍵となります。

現在のところ増改築や譲渡の計画がなくても、将来の増改築や譲渡の承諾を得るためにと、普段からできる限り地主さんと円満な関係を保つことが大切です。具体的には、長い借地の関係においては、契約更新に伴う更新料や地代の値上げの話し合いがあると思いますが、これらの話し合いに応じないなど安易に拒絶するのではなく、インターネット上でも周辺相場の調査等を行い、地主さんの提示が不当な要求でないようであれば、将来の保険のつもりで、できる限り要求に応える姿勢が大切です。もちろん、更新料や地代は話し合いで決める余地がありますので、無理のない範囲で値下げ交渉は行っても良いと思います。

ただし、度が過ぎると地主さんの心証を悪くするので注意が必要となります。このように、借地権は地主さんとの関係次第で、将来の財産価値が左右される、大変珍しい権利ともいえます。

底地・借地で困ったときに最初に読む本
中川祐治(なかがわ・ゆうじ)
株式会社アバンダンス代表取締役。1979年生まれ。宅地建物取引士、相続診断士。
高校卒業後、建設業界にて地主さんを主な顧客とした土地活用の提案営業に従事。2006年、底地専門の不動産会社に転じ、地主さんに寄り添った底地売買や相続対策の経験を積む。2011年、底地と借地に特化した不動産会社、株式会社アバンダンスを設立。柔軟なコーディネートに定評があり、税理士などの士業事務所や大手ハウスメーカーと連携し、様々な不動産案件に対応している。2013年、税理士などの士業とワンストップで相続対策をコーディネートする、あいか相続対策研究所株式会社を設立。現在は、地主さん・借地人さん向けセミナーのほか、金融機関の行員向け、大手ハウスメーカーや保険会社の職員向けセミナーや勉強会も行っている。

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