人口の増加や環境汚染の深刻化などの影響で環境や社会などに配慮した「エシカル消費」の重要性が広まりつつある。製品を供給する企業側には、広がるエシカル消費の動きに対応することが求められているのだ。そこで今回は、エシカル消費の意味や注目される背景、エシカル消費普及の流れを受けて企業ができることを解説する。

エシカル消費とは

エシカル消費
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

まず「エシカル消費」という用語が持つ意味合いを確認しておこう。

「エシカル」の意味

エシカル消費の「エシカル」は、英単語の「ethical」のことで、和訳すると「倫理的な」「道徳上の」「道徳的に正しい」という意味だ。倫理的とは、「人として守り行うべきこと」「善悪・正邪の判断で使われる普遍的な規準にしたがっているさま」を意味する。一方で道徳的とは、法律などに関係なく善悪をわきまえて正しく行動するさまをいう。

エシカル消費の定義

エシカルの語源を踏まえると、エシカル消費とは「倫理的な消費」という意味になる。つまり、法律の規定とは別に、普遍的に正しいとされる価値基準にもとづいて行われる消費だ。では「普遍的に正しいとされる消費行動」とは何だろうか。消費者庁では、エシカル消費を「地域の活性化や雇用なども含む人や社会、環境に配慮した消費行動」と定義している。

要するに、他の人や社会全般、環境がより良いものとなるように消費を行うことをエシカル消費と呼ぶわけだ。

参考:~あなたの消費が世界の未来を変える~ 消費者庁

エシカル消費が注目される背景

近年エシカル消費が注目される背景には、以下の要因があると考えられる。

世界中で環境や人権などに関する問題が深刻化している

エシカル消費が注目される背景には、近年世界中で環境や社会などに関する問題が深刻化していることがある。例えば、環境においては、産業活動の活発化によりメタンや二酸化炭素といった温室効果ガスの量が増加した。その結果、地球温暖化による異常気象で風水害などの災害が多発し、人々の生活に大きな影響を与えている。一方で、社会においては途上国を中心とした貧困、人身売買などの問題や安い賃金で働く障がい者雇用の問題もある。

このような諸問題の根底には、環境や社会、人権を犠牲にしてでも消費を重視する現状があると言える。そこで環境や社会、人権などの問題を解決するために、エシカル消費の重要性が高まっている。

持続可能な開発目標(SDGs)におけるゴールと密接に関わっている

2015年9月の国際サミットで採択されたSDGs(エス・ディー・ジーズ)と密接に関連している点も、エシカル消費が注目される理由の一つだ。SDGs(持続可能な開発目標)とは、持続可能な社会を実現するための目標を意味する。地球環境の改善・保全やあらゆる社会・人権問題の解決により、今後も長く持続可能な社会を作り上げるのがSDGsの趣旨だ。

SDGsには、持続可能な社会の実現に向けた17の目標が定められている。17ある目標の達成において「エシカル消費の考え方が密接に関連している」というわけだ。具体的には、12番目の目標である「つくる責任 つかう責任」や10番目の目標である「人や国の不平等をなくそう」の解決にエシカル消費が役立つ。

つまりエシカル消費は、SDGsの実現に向けて消費者が実践できる対策の一つなのだ。

参考: SDGsとは? 外務省

エシカル消費の具体的な取り組み5つ

消費者庁では、エシカル消費の具体的な取り組みについて「環境」「社会」「地域」「人」「動物福祉」という5つの領域に分けている。この章では、消費者庁が公表している内容をもとにエシカル消費の具体的な取り組みについて解説していく。

1.環境に向けた取り組み

環境に向けた取り組みとしては、エコ商品(環境に配慮した商品)を積極的に購入することが有効だ。具体的には、リサイクル素材を使った商品やエコマーク商品(環境への負荷が少なく環境保全に役立つと認められた商品)の利用が挙げられる。日本でも2020年7月にスタートしたレジ袋を有料化・マイバックの使用を推奨する取り組みも、この環境に向けた取り組みの一つである。

他にも、再生エネルギーや自然エネルギーを使用した商品・サービス、オーガニック製品の利用も有効なエシカル消費の一つだ。

2.社会に向けた取り組み

社会に向けた取り組みとしては、フェアトレード商品を選ぶのが有効である。フェアトレード商品とは、発展途上国との適正価格での取引により作られた商品のことだ。フェアトレード商品の普及により途上国の人たちが、先進国や新興国と同じ水準の収入を獲得でき、結果的に格差の是正につながると言われている。

また、購入代金の一部が社会問題の解決に向けて寄付される商品を選ぶことも、エシカル消費につながる。

3.地域に向けた取り組み

地域に向けた取り組みとしては、その地域で生産された商品を購入する施策が推奨されている。なぜなら、地域で生産された商品を購入することで、地域の経済が活性化する効果を見込めるからだ。また、商品の輸送にかかるエネルギーの削減や、エネルギー消費の削減による温室効果ガスの削減にもつながる。

もう一つ有効なエシカル消費となるのが、被災地の商品を選ぶことだ。災害などで疲弊した地域の商品を購入すれば、その収入により復興が促進されたり被災者の精神的な支えとなったりする効果が期待できる。

4.人に向けた取り組み

消費者庁は、人に向けた取り組みとして「障がいを持つ人が生産した商品の購入」を推奨している。健康な人と比較して、障がい者は「働きたくても満足に働けない」「働き先がない」などの課題に直面することが多い。そこで、障がい者が作った商品を積極的に購入すれば、障がい者の雇用促進や労働量の増加につながり、結果的に経済面から生活を支援したことになる。

5.動物福祉に向けた取り組み

消費者庁は、動物福祉に向けた取り組みとして「MSC認証(海洋の自然環境を護りながら獲られた水産物に与えられる認証)」や「FSC森林認証(適切に管理された森林資源を使用した商品に与えられる認証)」などのある商品を選ぶことを推奨している。これらの認証がある商品を選ぶ消費者が増えれば、それだけ自然やそこに住む動植物に優しい商品が作られるようになる。

参考:エシカル消費リーフレット 消費者庁

エシカル消費の実現に向けて企業ができる3つのこと

長期的に消費者から商品やサービスを使ってもらうには、普及しつつあるエシカル消費への対応が不可欠だ。エシカル消費の実現に向けて企業ができることは主に以下の3つの施策である。

1.環境に配慮した製造や販売等の実施

環境に配慮した製品の製造や販売、販促活動などを実施すればエシカル消費への対応が可能となる。具体的には、以下のような施策があるだろう。

  • 再生エネルギーの使用
  • オーガニックを中心とした商品ラインへの変更
  • プラスチックで作られたレジ袋やストローを廃止する

このような施策を行えば、環境への負担を軽減できるだけでなく生態系の保全にもつながるため、環境と動物福祉への取り組みを同時に実現できる。

2.サプライチェーンの透明性を高める

社会や人の観点から考えると、サプライチェーンの透明性を高めることがエシカル消費への対応策として効果的だ。サプライチェーンとは、商品の原材料を調達してから実際に販売するまでの一連の流れを意味する。サプライチェーンの透明性を高めるには、具体的に人権や社会問題に配慮した健全な過程を経て供給されているという情報を公開する施策が効果的である。

例えば、労働者に対する人権侵害を行っていない企業と取引したり、取引先の企業を公開したりするなどフェアトレードを行っている旨を消費者に知らせることも方法の一つだ。

3.地産地消の推進

地域に向けたエシカル消費の取り組みには、地産地消を積極的に推進する施策が効果的である。例えば、店舗がある地域で作られた原材料を使えば、その地域で生計を立てている生産者を経済的に支援することとなる。また、地産地消の商品をメインで取り扱うことで消費者に地産地消の重要性を認識してもらうきっかけとなり、結果的に地域全体にエシカル消費を普及できるだろう。

企業がエシカル消費に取り組むメリット3つ

エシカル消費に企業が取り組むことで、以下のような3つのメリットを享受できる。エシカル消費に取り組む重要性やメリットに疑問を感じる人は、参考にして欲しい。

1.イメージアップにつながる

エシカル消費を意識することは、環境問題や人権問題など世界中のあらゆる課題に取り組むことを意味する。そのため、エシカル消費に主体的に取り組む企業は、社会的に意義がある活動を行っているとして消費者に良いイメージを与える。消費者の自社に対するイメージが向上すれば、エシカル消費に取り組まない場合と比べてより自社製品・サービスが選ばれやすくなるだろう。

2.投資の対象となり企業価値が高まる

近年投資家の間では、環境(Environment)や社会(Social)、企業統治(Governance)といった「ESG投資」に重点的に取り組む企業を高く評価する傾向にある。そのため、エシカル消費に取り組む企業は、投資の対象として積極的に選ばれやすくなり、その分だけ企業価値が高まることが期待できる。

3.新たなビジネスチャンスや競争力を得られる

多少は普及しつつあるものの、依然としてエシカル投資の重要性を認識する企業は少ない。そのため、エシカル投資を重視した形でビジネスモデルを構築すれば、他社との差別化による競争優位性を確立できる可能性がある。また、オーガニックや再生エネルギーなどこれまで取り扱ってこなかった領域に着手することで、新たなビジネスチャンスを創出できる可能性もでてくる。

以上のように、長期的な収益源の確保につながる可能性がある点でも、エシカル消費に取り組むメリットは大きい。

成長を目指す企業こそエシカル消費への取り組みを

消費者の間で普及しつつあるエシカル消費に取り組むメリットは、非常に大きい。企業の間で重要性が理解されていないタイミングだからこそ、取り組む意義は大きいと言える。これまで以上の成長や上場を目指す経営者は、ぜひエシカル消費への取り組みにも注力してみてはいかがだろうか?(提供:THE OWNER

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)