本記事は、坪田充史氏の著書『総理大臣の通訳が教える! マルチリンガルになるための”英語”最速マスター術』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています

遠まわしな言い方を好む文化的背景

英語,勉強
(画像=exopixel/Shutterstock.com)

なぜ日本人が英語を話せないのか、その理由の1つに日本人の持つ文化的マインドがあると思います。

あなた自身も、無意識のうちにマインドセットしていることがあるはずです。たとえば次のようなことです。

・人に迷惑をかけてはいけません
・その場の空気を乱してはいけません
・みんなの列からはみ出してはいけません
・人前ではみっともないので、きちんとしなさい
・嫌なことがあっても、我慢して最後までやりなさい

すべての日本人がこうしたマインドセットがあるとはいいません。ただ、こうした傾向があるということです。

集団の中では、波風を立てないようにする意識が日本人にはあるように思います。

「お前、空気読めよ」

と責められたことはありませんか?

空気の読めない人は、日本では嫌われて仲間外れにされてしまいます。実際、居酒屋でみんなで飲んでいるときに、フーテンの寅さんみたいな人がいて、自分の自慢話ばかりやってしまい、人が話しはじめても、すぐに自分の旅のことや家族のことに持っていってしまったらどうでしょうか?おまけに、口ごたえをしようものなら怒り出して、「貴様、表へ出ろ!」となるのです。

すると、次の飲み会のとき、「寅さん、来るの?」と聞かれるようになるでしょう。そして「ごめん、私、寅さんが来るんだったらパス」という人が出てくるのではないでしょうか。

日本人は、ストレートな言い方をして角が立つことを恐れるのです。空気を読まない人は敬遠されます。京都では「そろそろお茶漬けにしましょうか?」というのは「そろそろ帰ってくれ!」という意味ですよね。

ストレートに「帰ってくれ!」というと角が立ってしまい、相手の気分を害してしまいます。そこで「お茶漬けはいかがですか?」と言うわけです。これは日本人の持つ素晴らしい配慮と気遣いととらえることができますが、一方で「言いたいことをはっきり言わない」という欠点にもなってしまいます。

夫婦間でも以心伝心が美徳とされています。何も言わなくても食後にはお茶と新聞が出てきて、「おい、あれ」と言えば、すぐにいつものお菓子が出てくるわけです。こんな夫婦、ひと昔前はたくさんいたそうです。

ボクがアルバイトでガスの配管工事の仕事をしていたときのことです。老朽化した家屋のガス管を新しいものに取り換えるための作業で、毎日、同じことの繰り返し。ですから、現場に着くと、誰も何も言わずに、穴掘り担当の人が穴を掘り、道具を持ってくる担当の人は次々と必要な道具を運び、残土を処理する人は穴から出てきた土をネコ(一輪車の手押し車)で運び、手際よく働くのです。作業中は終始無言です。一切、言葉を発しません。

そして、親方が「おう」と言えば昼の休憩です。みんなも「12時を回っているし、作業もほとんど終わりに近づいているので、そろそろ休憩だな」と思っているので、何も言う必要がないのです。そして昼食後には、2つめの現場に移動して黙々と作業をするわけです。

まさに以心伝心です。見事なほどでした。

均一な作業をするとき、こうした以心伝心は力を発揮します。同じ作業をより早く、より正確にするには、以心伝心のできるチームが最強でしょう。

しかし、新しいものを作り出す商品開発とか、新しい市場を開拓する営業などの部門では通用しません。

ボクは26歳のとき、外国人ばかりで構成するプロジェクトに参加しました。ちょっとしたイベントを開催することになり、どんな内容にするのかという会議がはじまりました。すると、海外の人たちは、自分の意見をどんどん出します。議論が白熱して喧嘩っぽくなるシーンもありました。ボクはみんなの意見を聞くばかりで黙っているしかありませんでした。タジタジです。

日本人だけの会議だと、司会者が概要を説明し、一人ひとりを指名して話を引き出しますが、海外ではそんなことはしません。黙っている人は置いてきぼりです。

ボクはまさに蚊帳の外のような疎外感さえ抱きました。日本人なら、このときのボクの心境が理解できると思います。あなただって、周囲が外国人ばかりだったら、何も話せないのではありませんか?

会議が終わって、海外メンバーの友人が「お前はバカなのか?」と言ってきたのです。

「え!?どうして?」

とボクが尋ねると、

「自分の意見を持たない人間はバカだろ。何も話さないのは考えていないのと同じだ」

と言うのです。

ボクたち日本人は小さいときから、自分の意見を話す教育を受けていません。無意識のうちに、自分の意見を言葉にしてはいけないというマインドセットがあるのかもしれません。これは語学を習得するうえで最も大きな障壁といえるでしょう。

あなたの中に人前で自分の意見を言えないような心のブロックがあるとしたら、一刻も早く、そのブロックを外してください。語学には必要のないものです。

総理大臣の通訳が教える! マルチリンガルになるための”英語”最速マスター術
坪田充史(つぼた・あつし)
コロンビア・ハベリアナ大学国際関係学部大学院修士課程卒。一般社団法人ことばインターナショナル代表理事。プレジデンシャルアカデミー校長。安倍総理とコロンビア大統領の拡大首脳会議同時通訳(2014年)、高円宮妃殿下、各国大使、大臣などの通訳経験を生かし、語学の習得だけでなく、語学スキルを仕事にして世界で活躍する方法を教えるプレジデンシャルアカデミーを立ち上げる。その後、わずか3年で、日本全国はもちろん世界18ヵ国で5万人以上(スペイン語では日本一)の会員数に。現在、各国大使館の信頼を得て、多岐にわたる事業を積極的に展開。日本と世界を結びつける事業の一方で、オリンピックをはじめとする国際イベントでの通訳の育成・輩出を行っている。2020年東京オリンピック・パラリンピック:コロンビア、アルゼンチン選手のスポンサー。2020年東京オリンピック:日本政府内閣官房ホストタウンアドバイザー。

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