本記事は、星野雄滋氏の著書『Amazon,IKEA,Appleから学ぶ企業成長の方程式~独自経営モデル』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋・編集しています。
強い企業はユニークな経営指標をもっている
独自性確立の裏には、独自の経営指標があります。つまり、独自性と経営指標は表裏一体です。これから、マーケットの絶大な支持を獲得し飛躍的な成長の起点となった経営指標を紹介します。
それは、一言で言えば、
「理念・ビジョン直結の経営指標」であり、「常識外れのユニークな経営指標」です。
IKEAの経営指標
IKEAの経営指標は、なんと「平均販売価格の値下げ率(年平均2~3%値下げ)」です。現に、1999年から2009年までの10年間で販売価格を20%下げる目標を立て、実際に実現させました。
一般的には、売上や利益の拡大目標(売上高、利益、利益率)というのが通常でしょう。
また利益や利益率を目標にする場合は、他社との厳しい競争に打ち勝つために、顧客満足を高め、付加価値を向上して、販売価格を維持・向上するといった方針や目標をとるのが一般的かもしれません。
では、なぜこんな常識外れの経営指標を打ち立てるのか?
これは、IKEAがビジョン・理念を実現するためです。
「より快適な毎日を、より多くの方々に」。これがIKEAのビジョンです。
そして「優れたデザインと機能性を兼ね備えたホームファニッシング製品を幅広く取りそろえ、より多くの方々にご購入いただけるようできる限り手ごろな価格でご提供する」がビジネス理念となっています。
このビジネス理念は1972年までに確立され、ビジョンは1976年にまとめられました。
ビジョンとビジネス理念が確立されて以降、低価格を実現するため︑原価を削減する方法を粘り強く探しました。そして、コスト削減した分は、すべて販売価格の値下げという形で顧客に還元しました。これが普通の会社と異なるIKEAの大きな特徴です。
一般的には純利益を第一に考えるために、原価を削減した場合、販売価格の値下げを最低限に抑え、利幅を増やします。しかし、IKEAは理念・ビジョンが第一でありそれがすべての行動指針となるため、価格の値下げを最優先させ、原価の削減はすべて消費者に還元したのです。
では、どうやって、この経営指標を実現しているのか。
IKEAは、低コストであるアジアの国を含め、グローバル調達(現地に仕入事務所を設置)を行っています。1999年から2009年までの10年間で、仕入価格を20%下げました。
しかし、
- グローバル調達だけで、20%ダウンが達成できるのか?
- 仕入価格の値下げが続けられるのか。また値下げだけで、販売価格の値下げが継続できるのか?
読者の皆様の疑問には、第2章で詳細(当記事は書籍の抜粋になります。詳細は本誌にてご覧ください)を説明します。
Amazonの経営指標
次に、Amazonの経営指標はなんと「製品販売で低利益率を維持する(利益を出さない)」です。これは指標ではないと言われるかもしれませんが、経営の意思を表した経営指標です。
これには2つの意味があります。
低利益利率にする(利益を出さない)ということは、具体的にはどういうことなのか。
Amazonのマーケットプレイスの自社製品の売上原価率(※)はどのくらいだと思われますか?
※売上原価率=売上原価/売上
実は、なんと・・・ 2019年度、103%です。
2000年マーケットプレイス開始、10年後の2010年、売上原価率は86.3%でした。そこから、毎年、売上原価率は上がり続け、2019年、とうとう売上原価率が100%を超えました。もうおわかりだと思いますが、売上原価率が100%超えるということは何を意味するのか?
1年間平均して、赤字で販売された、ということです。
どうしてこんな数値で、マーケットプレイス事業がやっていけるのか、Eコマース市場でリーダーシップを勝ち取ることができたのか、詳しくは第2章で説明します(当記事は書籍の抜粋になります。詳細は本誌にてご覧ください)。
驚愕の売上原価率103%の意味は、ズバリ、Amazonの企業理念を実現した結果であり、ビジネス戦略を実行した結果です。
企業理念
「地球上で最もお客様を大切にする企業(最も顧客中心の企業)を目指す」
1997年株式公開時の年次報告では、次のように記載されています。
「顧客に魅力的な価格を提供することは、そのビジネス戦略の重要なコンポーネントと考えています。つまり、低価格と低い配送料の組み合わせにより粗利益を減らした価格設定プログラムを保持するため、製品の粗利益率が比較的低くなります。」
IKEAもAmazonも理念・ビジョンを実現するために、一番シンプルで、端的にわかりやすい、誰もが覚えられる経営指標を設定したのです。
経営指標からして、すごくユニークだなと思われたでしょう。