本記事は、星野雄滋氏の著書『Amazon,IKEA,Appleから学ぶ企業成長の方程式~独自経営モデル』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋・編集しています。
経営の根幹
普遍的な三大要素(経営理念・顧客・強み)
経営理念
最初にお話しておきたいのは、会社の大小問わず、すべての会社にとって、一番大事にしなければならないのは、経営理念です。
Amazon、IKEA、Apple、そして日本企業の事例においても、経営理念、ビジョンの重要性について、繰り返し説明してきました(当記事は書籍の抜粋です。詳細は本誌をご覧ください)。
改めて、経営理念とは、その会社が世のため人のため果たすべき使命をいいます。
「我が社はいったい何のために存在しているのか」
存在意義を端的に表すものです。
理念があってもそれを朝礼で唱和したところで、お金にならないという声も聞くことがありますが、それは会社経営に対する根本的認識が違うことから出てきてしまう声です。つまり、経営理念のない会社やお題目だけでないに等しい会社は、存在理由のない会社になります。
企業は、社会の公器といわれる存在であり、世のため人のため、社会のために役立つために存在しています。そしてそのお役立ちの結果である価値を生み出す原動力は人の力です。その原動力は、すべての従業員が、自分は何のために働いているのかという内発的動機が生み出すものです。時に業務が忙しく、我を忘れて働くことがあるでしょう。そんな時は体が疲れてヘトヘトになりますが、家路に着く途中でふと思うこと、我に返るという経験はありませんでしょうか。「自分は何のために働いているのだろうか」と。経営理念とは、間違いなく、そんな一生懸命働いている従業員の明日への仕事の原動力になるものです。
したがって、経営者は、全身全霊をかけて、経営理念を従業員の心に刻み込まなければなりません。そして理念が従業員の心に刻み込まれた瞬間に(理念という言霊が従業員の心に入った時に)、使命感が生まれます。
経営理念は、経営者の言葉ですが、使命感は従業員が実感する言葉です。
すべての従業員に使命感が宿り、使命感に燃えた集団ができれば、会社はとてつもなく強くなります。どんな困難にも耐え、環境の激変という大嵐にも立ち向かい、進むべき航路を正しく進むことができます(図7・1)。
経営の巨匠といわれるドラッカーは、この経営理念(ミッション)について次のように述べています。
「ミッションとは、経営上の困難を克服するための信念である。全人的な献身と信念がない限り、必要な努力も持続するはずがない。」
- 全身全霊を傾けられる本気で本音のミッションが必要
- ミッションがあればリスクは怖くない⇒変化はチャンス
- ミッションがあるから、人がついてくる⇒組織が動くさらに続けます。
「ミッションは、行動本位たるべきものである。さもなければ、単なる意図に終わる。ミッションとは、組織に働く者全員が、自らの貢献を知り得るようにするものでなければならない。」
例えば、病院の救急治療室のミッションは、「患者を安心させること」であり、そのためには、1分以内に診察しなければなりません。それがミッションであり、ミッションに基づく行動でもあり、患者を安心させる唯一の道だったという事例です。
企業理念に少しでも迷いが生じたら、図7・2のように自問自答してみましょう。
経営理念は︑経営にとって最重要の根幹です。
次に日本における理念経営の著名企業の事例を確認してみましょう。
〈伊那食品工業株式会社〉
年輪経営
結果として、前人未踏の48年連続増収増益を達成。かんてんぱぱシリーズ製品をはじめとした多くの独自製品を展開する開発型研究企業
◆社是 『いい会社をつくりましょう』~たくましくそしてやさしく~
◆経営理念 企業は社員の幸せを通して社会に貢献すること~企業は企業のためにあるのではなく、企業で働く社員の幸せのためにある~
顧客や取引先、地域住民等のすべての関係者からいい会社だねと言われる。そういう会社をみんなで創ろうと経営され、現にいい会社を創られています。いい会社だねと言われることが、社員の幸せや喜びにつながっているのではないかと思います。創業者の塚越最高顧問は、「会社の喜びも悲しみも1つだよ」「あなたたち皆の生活は全部会社が保障しますよ」という姿勢で経営されており、社員の幸せを心底願っていることがよくわかります。結果として、社員は会社を自分の家だと思えるようになり、力を発揮してくれます。
社是と経営理念が、社員のロイヤリティ(忠誠心)・社員満足を実現しています。
〈未来工業株式会社〉
経営理念:「常に考える」
創業以来55年間黒字&高利益率を継続
- まず顧客と社員を喜ばせ︑感動させることを常に考えるべき。
- それができれば儲けや売上はついてくる。
- 無電柱化を推進する画期的な新製品をはじめ独自製品が多く、製品数は2万点を超えると言われている。社員の自主性に任せる経営でユニークなしかけを導入しています。
- ほうれんそう禁止(〝管理〟の始まりを遮断︑社員のアイデア最優先)
- 原則残業禁止(常識を捨てる・仕事の段取りを効率的に考え無駄を省く)
- 営業はパソコン禁止(顧客と直接会って話し雑談を大事にする)
- 上司の部下への命令禁止︑部下の上司へのお伺い質問も禁止
原則残業禁止に加え、年間休日数が約140日あり、ホワイト企業の代表格と言われています。これらすべて「常に考える」の実践といえます。社員全員が「常に考える」集団になれば、社員満足と顧客満足を実現し、イノベーション(製品開発)も実現し、生産性も向上します。結果業積も向上します。