派遣社員は、柔軟な働き方ができる一方で正社員と比べて年収が少ないなど、待遇面などの労働条件に問題も抱えている。この派遣労働の欠点を解消するため、派遣法の改正が幾度か行われてきた。ここでは、派遣社員についての基本はもちろん、派遣法の制度の特徴や派遣法改正のポイントについて詳しく説明する。

派遣社員とは?

派遣法
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派遣社員とは、「雇用契約を締結した会社とは別の会社で働く労働者」のことであり、雇用契約を結んでいる会社からその労働者が実際に働く会社へ派遣されるため、「派遣社員」と呼ばれている。

一般的に、派遣社員が雇用契約を締結している会社は、「派遣会社」あるいは「人材派遣会社」と呼ばれ、派遣社員が仕事をする会社は「派遣先企業」と呼ばれている。

派遣社員の仕組み

例えば、派遣社員A、派遣会社B社、派遣先企業C社があるとする。派遣労働者として働く場合、Aは派遣会社Bと雇用契約を締結してB社の社員となる。Aは、派遣先企業Cで働くが、給料はAと雇用関係にあるB社から支払われる。また、Aは、社会保険や福利厚生の提供をB社から受けることになる。

ただし、Aが実際に勤務するのはC社であるため、C社に出勤してC社の上司から仕事の指示・指導を受ける。このようなAとC社の関係を「指揮命令関係」と呼ぶ。また、派遣会社B社と派遣先企業C社は、「派遣契約」を締結しなければならない。

派遣労働の関係を金銭の授受の視点で見ると、C社はB社に対して人員の派遣を依頼し、B社はAを派遣する対価として、C社から派遣料金を受け取るという関係になる。

派遣社員の特徴と問題点

ここでは派遣社員の特徴と問題点について紹介する。

派遣社員の4つの特徴

派遣先企業で働く派遣社員には、大きく4つの特徴がある。

(1)ライフスタイルや仕事観にあった職場で働ける

派遣社員の仕事内容は、派遣会社と派遣先企業との契約によって細かく決められる。従って、契約に記載されていない業務を行う必要はない。そのため、仕事と生活のリズムを調整しやすい。

(2)人気の大手企業などで働くことでできる

派遣社員が派遣先企業で働きたい場合、派遣会社から直接派遣されるため、基本的に選考試験などはない。従って、派遣社員は、正社員として採用されることが難しい大手人気企業でも、派遣会社が契約をしている会社であれば働くことができる。

(3)キャリアアップの機会が得られる

派遣社員の仕事は、特に今までの経験を問わない会社が少なくない。そのため、自分がキャリアを構築したい業界の派遣会社に登録すれば、キャリアアップできる可能性が高い。

(4)派遣会社からサポートを受けられる

派遣社員は、登録した派遣会社でPCスキルやビジネスマナーなどの研修を受けることができる。これによって、多くの職場に対応できるスキル、キャリアを身に付けることができる。

また、キャリアカウンセリングを受ける事もできるため、自身の職業生活設計についてのサポートを受けることもできる。

派遣社員の2つの問題点

派遣社員にはメリットがある一方で、デメリットもある。

(1)勤務条件や収入が不安定になりやすい

派遣社員の雇用条件は、派遣会社と派遣先企業の契約によって決まる。

つまり、雇用条件について派遣社員は発言権がなく、雇用契約が終了した時点で派遣社員の勤務も終了する。従って、派遣社員の雇用条件や収入は不安定な状態にある。

(2)責任ある業務に携わりにくい

派遣先企業からすれば、責任を伴うような重要な仕事を任せる際には、派遣社員ではなく正社員にすることはある意味当然だ。従って、いくらスキルや能力があっても、派遣社員に責任ある仕事を任せられるのは難しいであろう。

派遣法の成立と改正

派遣法に関しては、派遣社員に関する法律が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」として、1986年7月1日から施行された。

派遣法は、2020年までに3回改正されている。これは、派遣社員は自分のライフスタイルに合った柔軟な働き方ができる一方で、正社員に比べて雇用条件が不安定といったデメリットがあるためだ。

ここでは、2020年改正よりも前に実施されてきた、2回の派遣法の法改正について詳しく説明する。

派遣法の成立と施行:1986年

人材派遣は元々、契約している派遣先企業の需要に応えるために、派遣会社と契約している労働者を派遣先企業に派遣し、派遣先の指揮命令の下で働かせる労働形態であった。

但し、このような形態は「職業安定法第44条」によって、「労働者供給」という禁止事項に抵触するため、自由に行うことはできなかった。

しかし、日本の高度成長期後の成熟した経済において、失業者に対する就業機会の増加、多様な人材を雇用したいという企業の要望などによって、人材派遣に対する需要が増してきた。

そこで、1985年に派遣法が成立した。この派遣法は、労働力の適正な調整を図ること、労働者派遣事業の適正な運営を確保することを目的として、1986年に施行された法律だ。この法律では、派遣社員の就業条件の整備、派遣先の労働現場での権利を規定している。

この法律の施行時には、専門知識などを必要とする13業種を対象とし、受け入れ期間は1年間に限定されていた。しかしその後、3業種が追加されて、トータル16業種が派遣対象となった。

しかし、16業種に限定されると、ニーズが高い一般事務を行う社員が派遣できないことになる。そこで折衷案として、一般事務に関しては、ファイリングや事務用機器操作(OA事務)という専門業務の名目で、派遣先企業に派遣する方法を取ることになった。

派遣法の改正のポイント:2012年

2012年に派遣法が改正され、併せて名称が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に変更された。

改正の大きな目的は、派遣社員の権利を保護することであり、改正のポイントは次の5つだ。

(1)派遣社員の賃金の適正化

2012年の派遣法改正によって、派遣先企業で同じ仕事に従事する正社員の給与水準と、派遣社員の職務内容・成果、意欲、能力、経験などを配慮することで、派遣社員の給与を決定することになった。

(2)30日以内の日雇い派遣の禁止

派遣社員で大きな問題になったことの1つに、「雇い止め」がある。2012年の派遣法改正によって、一部の例外を除き、日雇い派遣が原則的に禁止された。ただし、以下のような人は、引き続き日雇い派遣で働くことができる。

・60歳以上の人
・学生
・副業として日雇い労働を行っている人
・主たる生計者ではない人

(3)有期雇用から無期雇用転換への機会提供

派遣会社は、派遣社員の希望に応じて、雇用の期間が定まった派遣社員(有期期間が1年以上)を、期間の定めがない雇用へ転換するような努力義務が課せられることになった。

(4)待遇説明の義務化

派遣会社は、派遣社員と雇用契約を締結する前に、待遇面(賃金、労働時間など)について説明する義務が課せられることになった。

(5)派遣料金の情報公開を義務化

派遣会社は、ホームページなどを使用して、派遣先企業から派遣会社に支払われる料金(派遣料金)、派遣会社のマージン率、教育訓練費などを公開する義務が課せられることになった。

派遣法の改正のポイント:2015年

派遣法は、2015年に再度改正された。2015年の改正では、法律に条文に以下のようなことが盛り込まれるようになった。

・雇用の安定やキャリアアップ
・派遣会社にとって有益な情報、権利

2015年の派遣法改正のポイントは、以下の5つだ。

(1)キャリアアップ措置の実施

全ての派遣社員は、キャリアアップを目的として、段階的、体系的な教育訓練を派遣会社から受けることができるようになった。

(2)期間制限ルールの見直し

2015年の派遣法改正によって、有期雇用の派遣社員は、同じ部署で働くことができる期間が最長で3年になった。また、期間の制限がなかった26業種についても、最長で3年間に制限された。ただし、以下の派遣社員は対象外となる。

・派遣会社で無期雇用の社員
・60歳以上の派遣社員

(3)雇用安定の実施

3年間派遣される予定の派遣社員に対して、派遣先企業への雇用の依頼、派遣先の情報の提供など、雇用安定の措置を派遣会社が行うことを義務付けられた。

(4)均等待遇の推進

派遣法改正によって、賃金、教育訓練制度、福利厚生などの待遇面について、正社員との間に格差が出ないように、派遣会社は推進しなければならなくなった。

(5)派遣事業を許可性に一本化

2012年の派遣法改正までは、一般労働者派遣事業は許可制、特定労働者派遣事業は届出制に分かれていた。しかし、2015年の派遣法改正によって、派遣事業は全て許可制になったため、特定労働者派遣事業のみを扱っていた事業所も許可を得ることになった。

2020年の派遣法改正のポイント3つ

派遣法は、2020年(令和2年)に3回目の法改正が行われた。主な改正点は、次の3点だ。

(1)「同一労働・同一賃金」のための賃金決定方法2つ

今回の改正の大きな柱の一つが、「働き方改革」に伴う派遣社員の賃金是正のための措置である「同一労働・同一賃金」である。そのために、厳格な賃金の決め方が定められた。

派遣会社は、以下の2つの方式のどちらかによって、派遣社員の賃金を確保するように義務化された。

  1. 派遣先均等・均衡方式:派遣先の通常労働者との均等・均衡待遇
  2. 労使協定方式:一定の要件を満たす労使協定による待遇

一般的に、従業員の賃金や待遇などは、従業員(労働者)と使用者(会社)の間の話し合いによって決められる。しかし、さまざまな要素を考慮した上で賃金などの条件が決まるのが実情だ。その点を考慮して、上記の2つの方式のいずれかで、派遣社員の賃金を確保するように義務付けられたのである。

(2)賃金などに関する情報提供の義務付け

2020年の派遣法改正では、派遣先企業は「労働者派遣契約」を結ぶ際に、派遣会社に対して賃金などに関する情報を提供する義務を負うことになった。

これは、賃金の決定方法の「派遣先均等・均衡方式」を選択した場合に、派遣先企業から従業員の賃金などに関する情報がなければ、賃金が決められないからだ。「賃金などに関する情報」とは、派遣社員と同じ内容の仕事に従事している従業員(比較労働者)の賃金などのことだ。つまり、派遣先企業で働いている全従業員が対象ではない。

なお、派遣会社は、派遣先企業から賃金などに関する情報が提供されなければ、「労働者派遣契約」を結んではならないことも2020年の派遣法改正で盛り込まれた。また、派遣先企業で比較労働者の賃金が変更された場合も、遅滞なく派遣会社に情報提供する義務も課せられている。

(3)説明の義務付け

今回の改正では、派遣会社から派遣社員への情報提供も義務付けられた。提供する主な情報は、次の2つだ。

まず1つ目は、派遣社員を雇い入れる際、または派遣する際の説明義務です。以下の8点がある。

・派遣先均等・均衡方式によって、どのような措置を講ずるか
・労使協定方式によって、どのような措置を講ずるか
・職務の内容・成果、意欲、能力、経験、その他の事項を勘案した上で、どのように賃金を決めるのか
・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与(ボーナス)の有無
・労使協定の対象である派遣社員であるかどうか
※対象の場合は、労使協定の有効期間
・派遣社員から申出を受けた苦情の処理について

次に2つ目は、派遣会社は、派遣社員から、派遣社員と比較対象労働者の待遇相違の内容、理由などについて説明の求めがあった場合には、説明する義務が課された。

派遣先均等・均衡方式の場合は、以下の2点を説明しなければならない。

  1. 派遣社員と比較対象労働者の待遇を決定する際に考慮した事項について、相違があるかどうか
  2. 派遣社員と比較対象労働者の待遇の個別具体的な内容、派遣社員と比較対象労働者の待遇の基準

労使協定方式の場合は、以下の2つの内容に基づいて、決定されている旨を説明しなければならない。

  1. 派遣社員が従事する業務と同じ業務に従事する正社員の平均的な賃金と同等以上であるものとして、労使協定に定めたもの
  2. 労使協定に定めた公正な評価

派遣会社は、派遣社員が説明を求めたことを理由にして、解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。

派遣法の改正に着目しよう

派遣法は、派遣社員と派遣先企業の正社員との賃金等の格差を是正するために、施行された法律だ。2020年の働き方関連法の改正を合わせて、派遣法の改正が3回行われている。

2020年の派遣法改正では、「同一労働・同一賃金」という大きな変更点もあり、中小企業でも2021年から義務化される。派遣社員を雇用する際には、派遣法の改正にも着目した上で、既存社員との効果的な融和を図ってもらいたい。(提供:THE OWNER

文・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)