鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

コストダウンは多くの企業にとって、優先的に対処すべき重要な課題の一つだ。コストダウンを戦略的に行えば、確実にムダを省き、生産性を上げることができる。今回は、効果的なコストダウンの手順や、見直すべきコスト、コストダウンに有効な3つの方法について紹介する。

コストダウンには何故戦略が必要なのか

コストダウン
(画像=yumeyume/stock.adobe.com)

コストダウンには戦略が必要だ。それは何故なのか。戦略を立て、計画的に実行しないと次の3つの弊害が生じるからだ。

1.やみくもなコストカットは社員の士気を下げる

コストダウンに計画性を持たず、やみくもにコストカットを行う企業がある。懇親会や福利厚生を取り止めたり、適用ルールを厳しくするなど、効果を検証せずに行う無闇なコストダウンは逆効果だ。

コストダウンの理由や効果も説明されずに、一方的に決められたコストダウンを押し付けられれば、社員は納得しない。納得できないものを無理に実行していれば、当然だが社員の士気は下がる。結果、労働生産性も落ちてしまう恐れがある。

2.コストダウンの目標達成には協力が必要

コストダウンは企業のトップだけが行うものでは意味がない。企業全体、部署全体で協力しすることでやっと効果が生まれる。コストダウンの際に明確な数値を策定し、トップダウンで取り組みを宣言した後は、ボトムアップ的な活動を行うなど、一致団結しないと達成できないのだ。

3.ムダを放置すると生産性が下がる

無計画なコストダウンは長続きしにくい。結局、中途半端なコストダウンに終始し、途中で中断してしまうことになりかねない。ムダを放置すれば、当然生産性は下がり、単なる損益の問題ではなく企業存続の問題につながっていく恐れもある。

コストダウンの効果を高めるプロセス5つ

コストダウンに戦略が必要なことは理解いただけたであろうか。ここでが、効果的なコストダウンの流れを見ていこう。手順は次の5つになる。

コストダウン手順1.現状の業務とコストの把握

コストダウンを行う際に、最初に必要なのが現状把握だ。このとき、対象業務のコストだけでなくその内容も含む。比較的コストがかかっている業務であっても、主要な業務か否かで対処が変わる。

主要な業務であるならば、そのコストでどれだけの効果や利益が生じているのか洗い出さなくてはならない。さらに、業務に時間を要していたり、特定の社員への依存度が高ければ、生産性の低下につながるため、その点も明確化する必要がある。

また、主要でない業務のコストも慎重に洗い出そう。何らかの形で主要業務に関連していたり、それなりの利益を生み出しているのなら、必要コストなのかもしれない。業務の内容、コストの中身を一つ一つ洗い出し、本当にムダなものがどれかを突き止めよう。

コストダウン手順2.コストダウンプランの作成

業務とコストの分析によってムダを洗い出したら、次は削減プランを作成する。項目毎に具体的な数値・期間を設けて、コストダウンの目標値を設定する。それにより、企業全体のコストダウンの意識が高まるだけでなく、コストダウン目標を達成しやすくなる。

コストダウンの目標指標として用いたいのが「売上原価率」と「経費率」だ。売上原価率は売上に占める売上原価の構成比率を指し、経費率は売上に占める販売管理費の構成比率をいう。いずれも、コストダウン効果を押し上げる数値目標として有効活用しやすい。

なお、売上原価率と経費率の計算式はそれぞれ次のようになる。

売上原価率=(売上原価率÷売上)×100
経費率=(販売管理費÷売上)×100

コストダウン手順3.プランの共有・実施

次に行うのは、コスト削減プランの社内共有と実施だ。コストダウンに関わる社員全員が削減プランを共有し、それぞれの担当を把握した後にコスト削減を実施していく。

コストダウン手順4.実施結果の分析・検証

コスト削減プランを実施したら、実施前後の変化を分かりやすく把握するために、実施後1ヵ月・3ヵ月・6ヵ月・1年など測定する時点を定めてコストダウン実施結果を検証していく。

コストダウン目標を達成できていないのなら、その原因を人・環境・時期・取引先など、外部・内部別に要因を分析して改善につなげていく。コストダウン目標に未達だとしても、担当する社員や部署を責めても改善にはつながらない。全員で一緒に対処を考えていく姿勢が大事だ。

また、コストダウン目標の数値やプランそのものに無理があった可能性もある。このような時は、企業の現状から達成しやすいプランや数値を再設定する。コストダウンはダイエットと同じで、短期間に一気に削減しようとすると反動が出やすい。

コストダウン手順5.改善の実行

コストダウン実施結果の検証で得られた課題を元に改善プランを策定して、再度コストダウンを実行する。

コストダウンで着目すべき経済的コスト4つ

コストダウンの目標数値として、「売上原価率」と「経費率」を挙げたが、特に定期的に支出することが当たり前になっていて、固定費化しているものほど見直しが必要になる。

次の4つのコストのムダを削減していくと、コストダウン効果を高めやすい。

1.売上原価・製造原価

売上原価や製造原価は、ムダの洗い出しを丁寧に行わなくてはならない。一旦決めた材料や製造方法を変更するのには不安が伴い時間も必要なため、見直しを行うことなく必要以上にコストをかけてしまいがちにもなる。

売上原価や製造原価を削減するなら、材料を「より安く仕入れられるところがあるか」「仕入れ値を下げる余地はないか」という点から検討しよう。同じ材料でも、扱う業者によって価格が異なることがあり、条件をつけて交渉をすれば仕入値を下げることもできる。

また、製造原価については製造工程の見直しもコストダウンにつながるので、どの工程でどれだけ工数がかかっているか、また、歩留まり向上の余地がないかも確認しよう。

2.人件費

経費の大部分が人件費だという企業も少なくない。長年の功労者や成果を出している社員に報いたいというのは経営者としての率直な思いだろうが、給料や報酬の源泉となるお金は無限にあるわけではない。だからといって、やみくもに給与を下げれば従業員の離反が生じる。

人件費を削減するなら、残業をなくすのがもっとも効果的だ。残業代を収入の一部と見込んでいる従業員もいるかもしれないが、実際に残業で生産性が上がることはまずない。

独立行政法人労働者健康安全機構が発行している情報誌「産業保健21」第94号(2018年10月)には、年間総労働時間と労働生産性の相関グラフが掲載されている。これを見ると、日本は欧米諸国に比べて労働時間が長い割には労働生産性が低いことが分かる。

実際、残業は疲労や睡眠不足、ストレスを生む。付加価値の高いモノやサービスを生むことにはならないのだ。「働き方改革」でも、労働生産性の向上が目標として掲げられており、時間外労働の上限規制も行われている。「残業ありき」ではない働き方を構築していく必要があるだろう。

【参考】「産業保健21」第94号(2018年10月)

3.地代家賃

人件費と並んで2大固定費となるのが地代家賃だ。ある程度の規模の事務所やビル・工場、駐車場を借りていると、毎月多額のコストを支払うことになる。

地代家賃コストを見直す際は、単に使用しているかどうかだけでなく「この業務にこれだけのスペースは本当に必要か」まで考えよう。リモートワークの導入やサテライトオフィスの活用で、オフィスにかかるコストは減らすことができる。また、大都市圏から郊外に本拠地を移せば、それだけでコストダウンが可能だ。店舗販売事業の会社ならば、オンライン販売や移動販売で代用できないかも考えてみよう。

4.固定費化した経費

上記の他、水道光熱費や通信費、備品・消耗品もコストダウンの対象となる。変動費だからと見逃しがちになるが、定期的に見直さなければ固定費と同じだ。利用プランの見直しやペーパーレス化、クラウドサービスやITアプリの利用で削減を検討しよう。

コストダウンに有効な手法3つ

これまでコストダウンの手順や見直すべきコストについて説明してきたが、ここではコストダウンの手法として有効なものを3つ紹介しよう。

コストダウン手法1.標準化

標準化とは、属人的な業務を誰にでも行えるようにすることだ。原価計算や生産計画の策定、商品・製品の検査など、コストダウンに直接関わるような業務が特定の人しかできなければ、その人なしには部門内・部署内の業務が回らなくなってしまう。

現状把握の段階で業務ごとに重要度や共有可能性を検討する際に、共有できるにも関わらず特定の誰かに依存している業務の存在が判明すれば、マニュアル化やシステム化によって業務共有化が可能になる。

標準化は、業務の効率化と人件費の削減、そして労働生産性の向上につながるコストダウン手法なのだ。

コストダウン手法2.外注・アウトソーシング

属人的な業務に関しては、標準化によって社内で業務可能な社員を増やす以外にも、外注やアウトソーシングを利用するのも一つの手だ。社内リソースとのコスト比較を行い、アウトソースした方がコストダウンできるならば、検討の余地があるだろう。給与計算や経理処理など、固定費化しやすい人件費や設備費を変動費化できるのも魅力だ。

また、労働生産性の向上につながらない業務を外注・アウトソーシング化すれば、人材の有効活用やコア業務の強化につながる。コストダウンだけでなく、業務効率化や生産性の向上、ビジネスの再設計を行うための一助となるであろう。

コストダウン手法3.システム化・IT化

人の手への依存度が高い単純業務、遠方への出張、社内サーバでのデータ蓄積などは、コストの増大につながるだけでなく、環境や突発的な事故などの外部要因によって影響を受けやすいというリスクがある。ITツールやシステムを使えば、こういったムダを省ける可能性がある。

コロナ禍以降は、ITツールの活用が急激に増えた。テレワークやオンライン会議によって、対面の打ち合わせや出張は減少しただろう。この他、クラウドサービスを活用して経費精算や記帳代行を効率化した企業もある。「災い転じて福となす」というが、コロナ禍による業務のIT化で、人件費や通信費・交通費などを大幅に削減できた企業もあるだろう。

ITやシステムを上手に使えば、生産性の低い作業を効率化し、新たに生み出された時間を活用して、新たな製品・サービスの開発などの生産性の高い仕事に取り組むことができるのだ。

企業成長のためのコストダウン

的確にムダを洗い出し、意義のあるコストダウンを行えば企業は成長する。単にコストダウンを実現するだけでなく、コストダウンの実行プロセスの中で、IT化やアウトソーシングなど、さまざまな選択肢を実行していくからだ。

コストダウンの選択肢が多ければ、社員はサービスの向上や新製品の開発などの生産性の高い業務に注力できるだろう。また、コストダウンは社内の協力が必要となる。企業全体の一致団結と工夫の創出は企業の成長を促すことになる。(提供:THE OWNER

(文/税理士・税務ライター 鈴木まゆ子)