他の業界の例に漏れず電力業界でも再編の動きが進んでいる。業界の再編とは、M&Aなどにより業界内のプレイヤーの関係が変化するというように、業界内の構造が大きく変容することである。そこで今回の記事では、電力業界の再編をめぐるこれまでの動きや今後再編がどのように進むかについて解説する。
電力業界の特徴
まず電力業界がどのような特徴を持っているか確認しておこう。
電力業界の市場規模
業界動向サーチ.comによると2019~2020年度における電力業界の主要企業12社の売上高合計が21兆4,141億円に上るとのこと。2018~2019年の建設業が16兆6,893億円、不動産業が14兆7,659億円であることを踏まえると電力業界の市場規模は他の市場と比べても大きいと言える。2009年度からの推移を確認すると一時的に縮小した時期はあったものの全体的に若干市場規模は拡大傾向だと分かる。
また前年比で市場の成長率は+4.4%、利益率は+3.4%となっており2020年時点では市場の見通しは明るい。
電力事業者の種類
電気事業法では、電力事業者を以下の5種類に大別している。
・小売電気事業
消費者に対して電気を供給する事業。
・一般送配電事業
自ら維持・運用する送電用および配電用の電気工作物を用いて供給区域において託送供給や発電量調整供給を行う事業。
・送電事業
自ら維持・運用する送電用の電気工作物を用いて一般送配電事業者に振替供給を行う事業。
・特定送配電事業
自ら維持・運用する送電用および配電用の電気工作物を用いて特定の供給地点で小売供給または小売電気事業、一般送配電事業に使用するための電気に関係する託送供給を行う事業。
・発電事業
自ら維持・運用する送電用および発電用の電気工作物を用いて、小売電気事業や一般送配電事業、特定送配電事業に使用するための電気を発電する事業。
なお新興電力会社の大半は、小売電気事業者として電力業界への新規参入を果たしている。
電力業界の市場シェア
電力業界は、少数の大手電力会社により大半の市場シェアが閉められているのが特徴的である。前述した業界動向サーチ.comによると、2019~2020年度の電力業界の市場シェア(売上高)ランキングは以下の通りだ。
順位 | 会社名 | 売上高 | 市場シェア |
---|---|---|---|
1位 | 東京電力HD | 6兆2,414億円 | 29.1% |
2位 | 関西電力 | 3兆1,842億円 | 14.9% |
3位 | 中部電力 | 3兆659億円 | 14.3% |
4位 | 東北電力 | 2兆2,463億円 | 10.5% |
5位 | 九州電力 | 2兆130億円 | 9.4% |
ランキングからは、上位5社だけで約78.2%の市場シェアを占めていることが理解できるだろう。
電力業界の再編が進む理由
電力業界では業界の再編が進行しており、その背景には以下の3つの理由があると言われている。
原子力発電のリスク上昇
まず1つ目の理由として挙げられるのが原子力発電に関するリスクの上昇である。2011年に発生した東日本大震災により、従来日本で主流となっていた原子力発電に対する安全性に疑問が呈されるようになった。例えば2016年には、関西電力高浜原子力発電所の3、4号機をめぐって滋賀県の住民が運転の差し止めを裁判所に求めた。
その結果、大津地裁は同原子力発電所の運転を認めない判決を下し、運転停止に追い込まれることに。こうした事態により、ハイリスクな原子力発電に依存する電力会社が他の発電方法に強みを持つ電力会社とのM&Aや業務提携を模索する動きが加速しているわけだ。
電力をめぐる法制度や規制に大幅な変更が生じている
電力をめぐる法制度や規制に大幅な変更が生じていることも近年の電力業界の再編に大きな影響を与えている。例えば1995年の法改正では、特定電気事業制度(特定地点における需要に対して電力小売事業者の参入を認める制度)や料金規制の見直しが図られたのだ。2000年には、規制部門における料金引き下げに関して認可制から届出制に緩和されるなどの動きが見られた。
2016年4月には、電力の小売が全面自由化され、あらゆる業者が自由に電気を消費者や事業者に販売できるようになった。
このように電力業界では、頻繁に法制度や規制に大幅な変更が生じ続けている。例えば2020年4月には「発送電分離(送配電事業と発電事業を別会社にするように義務づける制度)」が開始された。制度が大幅に改正し続けることで新規参入や業態変換、M&Aなどの動きが加速しているのである。
再生可能エネルギーに対する需要の増加
電力業界の再編が進む背景には、再生可能エネルギーに対する需要増加も大きく関係している。再生可能エネルギーとは、太陽光や風力などの温室効果ガスの排出を伴わないエネルギーの総称だ。深刻化している地球温暖化を食い止める効果があるとして、再生可能エネルギーへの注目が高まっている。資源エネルギー庁によると日本における2011年の再生可能エネルギー比率は10.4%だった。
しかし2017年には16.0%まで増加にいたる。このデータからも再エネに対する需要増加が事実であると分かるだろう。再エネの需要が高まっている現状を踏まえて再エネの利用や提供を模索する電力会社が増加しており、これが業界再編の一因となっている。
これまでの電力業界の再編をめぐる動き
2020年にいたるまで電力業界では再編をめぐって目まぐるしく状況が変化している。この章では、主な業界再編の動きを3例紹介する。
東京電力と中部電力による合弁会社の設立
最初に紹介するのは、東京電力と中部電力による合弁会社「株式会社JERA」の設立事例である。株式会社JERAは、2015年4月に設立され2017年6月に合弁契約書が締結された。東京電力側は、商社に丸投げしている燃料調達を主体的に賄うことでコスト面での競争力を向上させる狙いで合弁に踏み切ったと言われている。
一方で中部電力は、首都圏という需要量が大きい地域に進出することが目的だ。大手電力会社2社による合弁の設立により株式会社JERAは国内発電電力量の約3割に相当する電力量を発電。液化天然ガス(LNG)の年間取扱規模が世界最大級となる巨大企業となった。
大手電力会社による小売電力会社の買収
従来の電力業界の再編では、大手電力会社による小売電力会社の買収が多く見られた。例えば中部電力は、東京電力エリアおよび中部電力エリアでの電力の販売を行うダイヤモンドパワーを買収。また関西電力はビルや工場への電力供給を行う中央電力との資本業務提携を行った。こうした大手電力会社による小売電力会社の買収・提携は、注力する範囲を小売にまで拡大することで、たび重なる法律や制度の改正による市場の変化に備える目的があると考えられる。
電力の小売全面自由化による新規参入の増加
2016年4月の電力小売全面自由化により、新規参入の事業者が増加したことも大きな動きの一つだ。資源エネルギー庁によると2016年4月時点では小売電力事業者の登録数は291者であった。しかしその後着実に小売事業者が増加したことで2018年7月には496者にまで登録数が増加したのだ。新規参入が増加したことで電力市場における競争は激化の様相を見せている。
今後電力業界の再編はどのように進む?
今後電力業界の再編は、どのように進むのだろうか?ここでは、今後の法改正などをもとに予想される電力業界再編の動きを3つ説明していく。
大手電力会社同士による合併や買収の増加
旧来の大手電力会社の中でも実はどのような発電方法を強み・弱みとしているかは異なる。例えば関西電力は原子力発電に強みを持っている一方で中国電力は石炭火力発電に強みを持つ。こうした事情から原子力発電への依存から脱却したいと考える関西電力が石炭火力に強みを持つ中国電力との合併や買収を検討する可能性は十分考えられるだろう。
また前述した東京電力と中部電力の事例のように販路拡大やシナジーの獲得を目的としたM&Aが実施される可能性も少なくない。
他業界の新規参入による複合サービスの増加
電力の小売が完全に自由化されたことで電力の販売事業への新規参入を果たす企業が増えている。それに伴い今後増えると予想されるのが他業界からの参入企業が複合的なサービスを提供することだ。例えば東京ガスでは、ガスと電気をセットで契約することで電気料金を割引するサービスを提供。他にも携帯電話やリフォームなどあらゆるサービスとセットで電気を販売するサービスも続々と現れている。
今後も他業界からの新規参入が増えることで、こうした複合的なサービスは増加すると考えられるだろう。
差別化されたサービスを提供する小売電気事業者が生き残る
電力業者が増えることで将来的にはさらに電力業界の競争は激化する可能性が高い。競争が激化した環境下では、差別化されたサービスを提供する小売電気事業者が生き残ると推測される。例えば前述したセット割を提供する会社や再生可能エネルギーに特化した小売事業者などが考えられる。他の業界と同様に電力会社は「いかにして差別化を実現していくか?」という視点が求められるようになるだろう。
電力業界は今後再編が進む?
たび重なる法改正により電力業界の再編は急速に進んでいる。今後も新規参入や再エネの促進などにより電力業界の再編は大きく進むと考えられる。特に小売の分野では、差別化による生き残りや大手による買収などによりその傾向が顕著に表れるだろう。(提供:THE OWNER)
文・鈴木 裕太(中小企業診断士)