近年国内市場の規模縮小を受けて、大企業のみならず中小企業の海外進出も増えている。海外進出を検討している経営者も多いだろう。海外進出には、販路拡大や人件費・原材料費削減などのメリットがある一方で、人材管理の難しさ、カントリーリスクなどのデメリットもある。この記事では、海外進出のメリットとデメリットを徹底的に解説していく。
海外進出の理由とは?
最初に、企業が海外進出をする理由について見ていこう。
国内市場の規模縮小
海外進出を検討する日本企業が増えている第一の理由は、国内の市場規模が縮小しているからだ。下のグラフは、日本の人口の推移を示したものである。2015年までが実績で、2020~2060年は推計値となっている。
グラフを見るとわかるとおり、日本の人口は2005年をピークに、その後減少していくと見られている。2020年現在は1億2,410万人だが、2050年には1億人を下回るのだ。65歳以上の人口割合である高齢化率も、2020年現在は29%だが、2060年には40%になるという。
人口減少と高齢化の進行は、国内市場の縮小を意味する。それに伴って少ない顧客を奪い合い、競争も激化していくだろう。日本企業の海外進出は、国内市場の規模縮小と競争激化が大きな理由と言える。
海外の市場規模の拡大
日本企業が海外に進出する第二の理由は、海外の市場規模は拡大が見込まれているからだ。日本の人口は減少しているが、世界の人口は増加している。
2020年現在世界の人口は約78億人だが、2050年には97億人になると見込まれている。地域別に見れば、ヨーロッパのみ減少傾向で、アジア、北アメリカ、南アメリカ、アフリカ、オセアニアはいずれも増加傾向。2050年時点で人口が多くなると見込まれる国のトップ5は、1位がインド、2位が中国、3位ナイジェリア、4位アメリカ、5位インドネシアだ。
このように、世界的に見れば市場はまだまだ拡大していく。この海外市場の拡大も、日本企業が海外進出する大きな理由となっている。
人件費の安さ
日本企業が海外に進出する第三の理由は、人件費の安さである。発展途上国は、日本などの先進国と比較して人件費が安い。発展途上国の人件費は、日本国内の20%程度と言われている。日本の人件費は、生産人口の減少により、今後さらに高くなっていくと考えられる。
以前は中国が人件費の安さから「世界の工場」と言われ、多くの外国企業を集めていた。しかし近年、中国では経済発展に伴って人件費が高騰し、撤退する企業も増えている。そこで今度は東南アジアの新興国に、日本を含めた多くの企業が進出するようになってきたのだ。
日本企業(中小企業)の海外進出動向
次に日本企業、特に中小企業の海外進出動向を見てみよう。下のグラフは、小規模製造業と中小製造業の中で、輸出を行っている企業数と全体に占める割合を示したものだ。
【規模別に見た輸出企業数と割合の推移(製造業)】
グラフを見ると、中小企業においても輸出企業が増えていることがわかる。ただし、輸出をする企業の全体に占める割合は中小企業でも3.5%、小規模事業者では1.4%であり、中小企業の海外進出はまだ一般的ではないことがうかがえる。
輸出をする中小製造業の業種構成を示したのが下のグラフだ。
【輸出企業の業種構成】
輸出をする中小製造業の業種は、生産用機械などの機械器具関連が中心だ。
今度は、海外の子会社を見てみよう。下のグラフは、大企業と中小製造業、中小企業全体で海外子会社を持つ企業の割合を示したものだ。
【規模別 海外子会社を保有する企業の割合】
グラフを見ると、大企業のみならず中小企業でも、海外子会社を持つ企業の割合が増えていることがわかる。
下のグラフは、大企業および中小企業が海外子会社を置く国や地域を示したものだ。
【海外子会社を置く国・地域】
グラフを見ると、大企業・中小企業ともに、2003年頃は過半数だった中国が減少し、ASEAN(東南アジア諸国)の割合が増加していることがわかる。
このように、大企業のみならず中小企業で海外進出する企業は増えている。ただし、全体に占める比率としては、まだまだ一部の企業にとどまっているといえるだろう。
海外進出のメリット3つ
ここからは、海外進出のメリット・デメリットについて見ていこう。メリットは、以下のとおりだ。
販路の開拓・拡大
海外進出の第一のメリットは、販路を開拓・拡大できることである。縮小する日本市場から海外へ目を向ければ、人口78億人の巨大な市場が広がっている。東南アジアやアフリカなどの新興国は目覚ましい経済発展を遂げており、今後も市場規模の拡大が見込める。
日本では当たり前の商品やサービスが海外市場にはない、というケースは多い。参入すれば大きなビジネスチャンスとなる可能性は十分ある。海外進出に成功すれば、国内市場だけをターゲットにする場合と比べて、何倍もの利益を得ることができるだろう。
人件費・原材料費の削減
海外進出の第二のメリットは、人件費・原材料費を削減できることだ。東南アジアの新興国に進出すれば、人件費を20%程度に抑えることができると言われている。原材料や資材、設備などの調達費用も、日本国内より大幅に安い。
同じものを製造するなら、人件費や生産コストが安いほうが多くの利益を得られる。東南アジアなどの新興国に生産拠点を移すことには、大きなメリットがあると言えるだろう。
節税効果
海外進出の第三のメリットは、節税効果が高いことだ。日本の法人税率は、2020年8月時点で23.2%。海外にはタイや台湾、シンガポール、香港など、法人税率が日本よりも低い国が多い。
海外では、外資の優遇政策を設けている国も多い。例えば中国やタイ、マレーシア、インドネシアなどでは「経済特区」を設けており、そこに進出する外国企業の法人税が大幅に減らされる。
企業にとって、法人税は大きな負担になる。海外進出をすると、法人税の大幅な節税効果も期待できるのだ。
海外進出のデメリット3つ
海外進出のデメリットは、以下のとおりだ。
人材管理
海外進出のデメリットとして、まず人材管理の難しさが挙げられる。諸外国には日本とは異なる文化や言語、慣習がある。例えば、遅刻がそれほど悪いことと思われていない国もある。また、給与などの待遇面で有利な別の職場がある場合、積極的に転職するのは多くの国で一般的だ。
そのような国で現地人を雇用し、管理・育成することは、困難が伴う上にコストもかかる。日本式の人材管理法が現地社員の反発を招いたり、せっかく育成した現地社員がすぐに辞めてしまったりすることも珍しくない。海外進出における人材管理は、細心の注意を払って行う必要があるだろう。
カントリーリスクや為替変動リスク
カントリーリスクや為替変動リスクも、海外進出のデメリットだ。新興国は、政治・経済情勢が不安定なところが多いる。ある日突然戦争が勃発すれば、ビジネスどころではなくなるだろう。デフォルト(債務不履行)によって、国の経済が破綻してしまうこともあり得る。
戦争やデフォルトは起こらないとしても、新興国の通貨は変動幅が大きい。為替レートが変動すれば、日本円で得られる利益も変動する。1ドル100円が110円になっただけでも、企業にとっては一大事だ。海外進出にあたっては、カントリーリスクや為替変動リスクについても万全な備えが必要だろう。
人件費の上昇
東南アジアの新興国では、最低賃金が上昇し続けている。このことも、生産拠点を海外に移転する際のデメリットになる。経済成長に伴って、新興国の賃金は今後も上昇することが見込まれるため、人件費の削減を目的とした海外進出は困難になるだろう。
しかし、賃金が上昇することは購買力が高まることも意味する。したがって、販路開拓・拡大を目的とした海外進出では、人件費の上昇はむしろメリットになるのだ。
海外進出を成功させるポイントと条件
海外進出を成功させるポイントと条件を見ていこう。
- 日本の経営手法を海外向けにローカライズ
海外進出をする際は、日本での成功体験にとらわれず、マーケティングや人材管理、成長戦略などを現地向けにローカライズする必要がある。
- 商品やサービスを現地のニーズに合わせる
商品やサービスについても、日本とまったく同じものが売れるとは考えにくい。現地市場のニーズを調査し、ニーズに合致した商品・サービスを一から開発することも必要だろう。
- 現地企業との連携
海外進出は自社だけで行おうとせず、現地の商慣習やニーズを熟知している現地企業と連携して行うようにしたい。
海外進出する際はコンサルや支援に頼むべきか
前述のとおり、海外進出の際は日本での成功体験にとらわれず、ローカライズした方法で経営を行い、商品・サービスも新たに開発することが重要だ。その際、アドバイスや支援が必要になることもあるだろう。海外進出専門のコンサルタントに支援を依頼すれば、無駄な時間やコストを削減できるはずだ。
海外進出の際はM&Aも検討しよう
海外進出の際は、M&Aも有力な選択肢となる。自社で一から販路開拓や組織構築をするには、膨大な時間と労力が必要だ。すでに販路を持っている現地企業を買収すれば、その時間と労力を大幅に削減できる。近年は、海外進出にあたって中小企業が海外企業を買収することも珍しくなくなった。
海外進出はメリット・デメリットを慎重に検討しよう
日本の市場規模が縮小していることで、中小企業の海外進出が増えている。海外進出には、販路拡大や人件費抑制などのメリットがあるが、人材管理の難しさ、カントリーリスク・為替変動リスクなどのデメリットもある。メリット・デメリットを考えて、慎重に検討することが重要だ。コンサルタントに支援を依頼し、M&Aを実施するのも、海外進出のリスクを減らすためには有効だろう。(提供:THE OWNER)
文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)