M&Aアドバイザーや士業に支払う報酬は、成功報酬もしくは成果報酬で計算されることが多い。いずれも仕事の質に応じて報酬を計算するが、実はこれらの報酬体系は異なるものである。本記事では成功報酬・成果報酬の違いや、導入時の注意点などを解説する。
目次
成功報酬と成果報酬の違いは報酬条件の範囲
成功報酬と成果報酬は、報酬発生の条件(対象の業務や成果)が異なる。
完全成功報酬は、あるプロジェクトの「成功」に対してのみ報酬が支払われる。一方で、完全成果報酬ではプロジェクト自体が完遂しなくても、一定の成果が出た時点で報酬が発生する。
依頼側から見た完全成功報酬・完全成果報酬のメリットとデメリットは、以下の通りである。
<完全成功報酬のメリット>
・プロジェクトが成功しない限り、報酬を支払う必要がない
・報酬条件が分かりやすい
・納品物の品質など、結果にコミットしやすい
<完全成功報酬のデメリット>
・完全成果報酬に比べると、プロジェクト単位の報酬が高い
・支払い先(従業員や外注先)のモチベーション維持が難しい
・プロジェクトが失敗すると時間的なコストが無駄になる
<完全成果報酬のメリット>
・一定の成果が出ない限り、報酬を支払う必要がない
・支払い先のモチベーションを刺激しやすい
<完全成功報酬のデメリット>
・報酬条件の設定が難しく、契約が複雑になりやすい
・固定報酬に比べると報酬が高額になる
いずれの報酬体系にもメリット・デメリットがあるため、シーンに合わせて使い分けることが重要になる。
完全成功報酬とは?
完全成功報酬とは、あるプロジェクトの「成功」に対してのみ報酬が支払われる仕組みだ。ケースによって報酬条件は異なるが、基本的には成約や売上などの結果につながらない限り、報酬が支払われることはない。
つまり、仮説検証や市場分析、商談、テストマーケティングなどの段階では、報酬が発生しないことになる。
M&A仲介会社、弁護士業界では一般的
完全成功報酬が多い業界としては、M&A仲介会社や士業(弁護士など)が挙げられる。特にM&Aでは多くの仲介会社が完全成功報酬を採用しており、基本的には「レーマン方式」と呼ばれる方法で報酬が計算されている。
なお、完全成功報酬ではなく「成功報酬」と記載されているケースでは、着手金や中間金などが発生することもある。成果報酬・成功報酬のいずれも、頭に"完全"という文字がついていない場合は、ほかの報酬体系と組み合わせた仕組みであることが多い。
完全成果報酬とは?
完全成果報酬とは、「一定の成果」に対してのみ報酬が支払われる仕組みのこと。成果として認められる範囲は契約によって異なり、完全成果報酬では仮にひとつのプロジェクトを完遂しなくても、成果をクリアすればその時点で報酬が支払われる。
営業代行をイメージしてみよう
完全成果報酬については、営業代行会社をイメージすると分かりやすい。中には成約数のみを成果とするケースも見られるが、営業代行会社では「アポイント獲得数」や「商談機会の創出数」を成果にしているケースが多く存在する。このような場合は、最終的に成約に結びつかなかったとしても、アポイントや商談機会をつくるだけで報酬が発生する。
そのほか、アフィリエイトやウェブ広告なども分かりやすい例だろう。たとえば、ブロガーが自身のウェブサイトなどに掲載するクリック報酬型の広告では、成果の条件が「ネットユーザーからのアクセス」に設定されている。つまり、商品の購入につながらなくても、成果となるクリック数さえ稼げれば、一定の報酬が発生することになる。
完全成功報酬・完全成果報酬に共通するメリットとデメリット
固定報酬と比べた場合、完全成功報酬と完全成果報酬にはどのような特徴があるのだろうか。以下では、2つの報酬体系に共通するメリット・デメリットをまとめた。
<固定報酬と比べた場合のメリット>
・成果や結果が出ないなど、依頼のリスクを抑えられる
・依頼先のモチベーションを刺激しやすい
・結果にコミットしやすい
・成約までの期間が短縮される
<固定報酬と比べた場合のデメリット>
・報酬が高額になりやすい
・契約次第ではコストパフォーマンスが悪化する
完全成功報酬・完全成果報酬をうまく活用すると、プロジェクトが失敗するリスクを抑えつつ、依頼先のモチベーションを刺激できる。そのほか、納品物の品質や結果にコミットしやすい点や、成果が出るまでのスピードアップを図れる点もメリットだろう。
しかし、報酬条件の設定を誤ると、高額なコストが発生したりモチベーションの刺激が難しくなったりする。固定報酬よりコストパフォーマンスが下がることもあるので、目的やシーンに合った報酬体系を選ぶことが重要だ。
完全成功報酬のメリット・デメリット(依頼側)
ここからは、完全成功報酬のメリット・デメリットを見ていこう。前述でも触れたが、近年では多くのM&A仲介会社が完全成功報酬を採用しているため、特に事業承継を検討している経営者はしっかりと理解しておきたい。
完全成功報酬のメリット
完全成果報酬と比べた場合、完全成功報酬のメリットとしては以下の点が挙げられる。
- プロジェクトが成功しない限り、報酬を支払う必要がない
- 報酬条件が分かりやすい
- 納品物の品質など、結果にコミットしやすい
最大のメリットは、結果が出ない限り報酬を支払う必要がない点だ。無駄なコストが発生しない報酬体系なので、依頼側の企業はリスクを抑えやすい。
また、完全成功報酬を採用しているM&A仲介会社などは、結果を出すことに自信を持っているケースが多い。つまり、優れたノウハウや知識、技術を有している可能性が高いので、完全成功報酬は結果にコミットしやすい傾向がある。
完全成功報酬のデメリット
完全成功報酬のデメリットとしては、次の点が挙げられる。
- 完全成果報酬に比べると、プロジェクト単位の報酬が高い
- プロジェクトが失敗すると時間的なコストが無駄になる
- 支払い先(従業員や外注先)のモチベーション維持が難しい
完全成功報酬は依頼リスクが低い分、結果が出たときの報酬は高額になりがちだ。依頼される側からすると、結果を出さない限りは利益が一切発生しないので、結果を出したときの報酬金額は高く設定せざるを得ない。
また、依頼したプロジェクトが失敗したときには、時間的なコストが無駄になることもある。金銭的なコストは発生しないものの、場合によっては数ヶ月単位の時間が無駄になるので、依頼先は慎重に選ぶ必要があるだろう。
完全成果報酬のメリット・デメリット(依頼側)
完全成功報酬と比べると、完全成果報酬にはどのような特徴があるだろうか。以下では、依頼側から見た主なメリット・デメリットを紹介する。
完全成果報酬のメリット
完全成果報酬のメリットは、以下の点である。
- 一定の成果が出ない限り、報酬を支払う必要がない
- 支払い先のモチベーションを刺激しやすい
完全成果報酬では、依頼先が何らかの成果を出さない限り、報酬を支払う必要がない。自社にとって「プラスになる結果」に対してのみ報酬が発生するので、無駄なコストを削減できる可能性がある。
また、程よい報酬条件を設定すると、依頼先のモチベーションを刺激できる点もメリットになる。依頼された側は、報酬を獲得するために積極的な行動を起こすため、成果の質についてもある程度は期待できる。
完全成果報酬のデメリット
一方で、完全成果報酬には以下のデメリットがある。
- 報酬条件の設定が難しく、契約が複雑になりやすい
- 固定報酬に比べると報酬が高額になる
たとえば、報酬条件が厳し過ぎると仕事を請け負う先が見つからないことも考えられる。しかし、だからと言って報酬条件を緩くすると、無駄なコストが多く発生してしまうだろう。また、双方に利益がある契約を結ぼうとすると、報酬条件が複雑になる場合もある。
賃金を成功報酬・成果報酬で支払う際の注意点とは?
企業が従業員への賃金を完全成功報酬・完全成果報酬で支払う場合には、いくつか注意しておきたいポイントがある。特に以下で挙げる2つの点は、想定外のトラブルに発展する恐れがあるため、しっかりと理解したうえで報酬体系を変更することが重要だ。
1.場合によっては就業規則の変更が必要になる
就業規則に記載されている「報酬の算出根拠」と、今後新たに採用する報酬体系が異なる場合には、会社の就業規則を変更しなければならない。これは賞与についても同様であり、たとえば基本給はそのままで賞与のみを成功報酬に変更する場合であっても就業規則の変更は必要だ。
また、就業規則を変更した後には「労働基準監督署への届出」も必要になる。ちなみに、採用する報酬体系によっては、「不利益変更」とみなされたり法律に抵触したりする可能性があるので、不安な点がある場合には専門家に相談することも忘れないようにしよう。
2.公平な評価基準を設ける必要がある
固定報酬から成功報酬・成果報酬に変える場合は、すべての従業員を公平に評価することが重要だ。少しでも不公平な評価基準が含まれていると、一部の従業員には不平・不満が溜まってしまうため、会社全体の生産性が低下してしまう。
また、報酬体系を変更すると、従業員の生活も大きく変わる点はきちんと理解しておかなくてはならない。従業員によっては給与が大きく減ってしまう恐れがあるので、導入前には全従業員に対して十分な説明を行い、しっかりと理解を得ておこう。
3.成功報酬・成果報酬には相場がある
成功報酬・成果報酬の相場を知っておかないと、適度な報酬条件を設定することが難しい。報酬は高すぎても低すぎても弊害があるため、慎重な判断が必要になる。
たとえば、弁護士に法的トラブルを解決してもらう場合、成功報酬の相場は回収金額の20~30%程度といわれる。一方で、多額の資金が動くM&Aでは、基準価額の1~5%程度が成功報酬の相場だ。
前述のメリットを最大化するために、成功報酬・成果報酬の相場はきちんと調べておこう。
成功報酬・成果報酬型の人材紹介サービスも選択肢に
人材確保を目的にしている企業については、成功報酬・成果報酬型の人材紹介サービスも選択肢になる。このようなサービスは、人材の入社後に報酬を支払う仕組みであるため、無駄なコストを省ける可能性があるだろう。
ここからは、成功報酬・成果報酬型の人材紹介サービスを利用するメリット・デメリットを紹介する。
人材紹介サービスを利用するメリット
人材紹介サービスを利用するメリットは、以下の点である。
- 人材を確保するまでコストがほとんどかからない
- 条件にマッチした人材のみ選考できる
- 条件にマッチした人材のみ選考できる
- 採用担当者の負担を減らせる
成功報酬・成果報酬型の人材紹介サービスは、人材を確保するまでのコストを抑えやすい。採用という結果・成果が出ない限り、基本的にはコストがかからない仕組みになっているためだ。
また、通常は職歴や学歴などの条件設定が可能であるため、要望にマッチした人材のみを選考できる。職務経歴書やエントリーシートなどの確認作業を省くことで、採用担当者の負担も減らせるだろう。
人材紹介サービスを利用するデメリット
一方で、人材紹介サービスには以下のデメリットがある。
- 専門人材ほど採用後のコストが高額になる
- 独自のノウハウが蓄積されない
採用後の成功報酬・成果報酬は、年収の3~4割程度が目安となる。しかし、専門人材ほど報酬が高くなるため、業種や職種によっては自社で採用活動を行うよりも、コストがかさんでしまうかもしれない。
また、人材紹介サービスを利用すると、採用面での独自のノウハウが蓄積できなくなる。サービスの利用を中止したときに、ノウハウ不足による弊害が生じる可能性もあるので、契約前には「いつまで利用するか」や「これまでのノウハウをどうするか」まで検討しておきたい。
成功報酬・成果報酬の導入前には、十分な分析や検討が必要
今回解説してきたように、成功報酬・成果報酬の仕組みは固定報酬とは大きく異なっている。導入時のメリットも変わってくるため、成功報酬・成果報酬をうまく活用できれば、さまざまな場面で高いコストパフォーマンスを維持することが可能だ。
ただし、いずれの報酬体系に関しても、「成果・結果の適切な条件」を設定することが必須となる。この前提をクリアしない限り、多くのコストや時間を無駄にしてしまう恐れがあるので、導入前には細かい部分までしっかりと分析・検討をするように意識しておこう。
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