良い睡眠で70代以降の「健康貯金」を貯めよう

睡眠やメンタルの悩みを抱える働き盛りの世代の方々に、私から一つだけアドバイスさせていただくとしたら、これからの人生は「自分を知ること」を大切にしてほしいということです。

仕事だけに追われていると、自分の本心や可能性に気づく余裕を失ってしまいます。目前の仕事しか見えていないから、そこに心が支配されて、視野が狭くなる。おのずと呼吸が浅くなり、自律神経が乱れて、ストレスを抱え込んでしまうのです。

日本企業の多くは定年制度がありますが、これがますます働く人を息苦しくさせています。50歳になったら、あと15年。もう40歳のときのようには働けないな――そんな思い込みを生む元凶になっているのです。

私に言わせれば、年齢は錯覚でしかありません。40歳も50歳も実は変わらない。違いを生むのは、自己実現のゴールを65歳としているのか、あるいは80歳や90歳の寿命年齢にしているかだけです。

仮に今、50歳ならば、人生の時間はまだまだ30年以上たっぷりあります。その間、自分は何を成し遂げられるかを真剣に考え出すと、見える風景が変わり、ルーティンが変わり、行動が変わってくるはずです。

私の父は、89歳で得意の数学を生かして家庭教師をこなし、食欲も旺盛で現役バリバリです。父を見ていると、人間の活力に年齢は関係ないと感じさせられます。

もし関係があるとしたら、足腰の強さかもしれません。病院でご高齢の患者さんに多く接していると、足腰が弱ることで脳や全身の働きも急激に悪化していくように感じられます。

私は朝1時間のウォーキングに始まり、生活のあらゆるシーンで歩いています。駅でも病院でも階段をどんどん利用します。疲れたときほど、元気になるために歩きます。

歩くことは、全身の血行をよくし、メラトニンのもとである幸福物質セロトニンを活性化し、よく眠れる安眠体質を作ってくれます。日常生活で積極的に歩くだけで身体は確実に変わります。そして、歩くことで「70歳以降の健康貯金」がどんどん貯まっていきます。

40代以降、積極的に良い睡眠を心がけることは、よりよく生きるための最強の生存戦略です。そのためには、自律神経のバランスを整える「熟睡ルーティン」を生活の中に組み込んでいくこと。そうすることで「睡眠が変わる=人生が変わる」変化があなたにも訪れるはずです。

小林弘幸(順天堂大学医学部教授・日本体育協会公認スポーツドクター)
(『THE21オンライン』2020年12月09日 公開)

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