本記事は、大澤希氏の著書『先代は教えてくれない 二代目社長の生き残り戦略: 今あるものを「捨てる」覚悟 「守る」使命』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています

二代目になって幹部や社員がゴッソリ辞める本当の理由

社長
(画像=PIXTA)

社長が代替わりした途端、役員や管理職がバタバタと辞めていくというのはよくある話です。なぜ、幹部が辞めてしまうのでしょうか。大きな理由は2つあります。

1つ目は、幹部たちは「変わる」ことを恐れており、変わりたくないからです。二代目が会社を受け継いで、自分が本当にやりたいことを始めたとします。すると、今までのやり方が変わることに対して、幹部たちは抵抗感を抱くのです。

人は今、自分がやっていることを変えたいとはなかなか思いません。新しいことに対して不安を抱きます。変わりたくない幹部たちは、二代目についていけず辞めていきます。

2つ目は、働きたくない幹部が辞めていくからです。つまり、楽をしたい幹部や社員は辞めていきます。きちんと経営しようとすると、彼らは楽ではなくなるのです。

わが社は先代のころ、社員たちに不満はあったかもしれませんが、はっきり言って楽な会社でした。朝礼もない、やりたいようにやれる、自分の作業が終わったら帰れる。そうしたことを良しとする人たちにとって、新たに朝礼を始めること自体が苦痛です。

ちゃんとした経営をしようとすると、楽をしたい幹部や社員は辞めていきます。

赤字社員には辞めてもらっていい

代替わりによって新しいことを目指そうとしていくならば、必ず一定数の社員は辞めていきます。わが社は私が採用した人間も含めて、7~8割が入れ替わりました。

変わることに関して人は抵抗するものだ、ということを前提にしなければなりません。会社を変革する過程では、どうしても方向性が合わない人たちが出てきます。これはやむなしです。

逆に、代替わりしても誰も辞めないほうが問題ありとも言えます。改革しようと思って進めているのに、反発する人もおらず辞める人も出ないというのは、まだ改革をやれていないということに他なりません。辞める社員がいるかどうかは、改革が行われているかどうかのバロメーターである可能性が高いのです。社員が辞めないのは、正しい経営ができていないからと思ったほうがいいでしょう。

社員が辞めることを覚悟しなければ、自分がやりたいことはできないのです。事業を承継して、社員が辞めないならば、むしろダメ社長です。今まで通りの楽な仕事を続けたいだけで、利益を生み出さない赤字社員には、辞めてもらったほうが組織は強くなります。

一方で、赤字社員どころか「こいつに辞められるとヤバいかもしれない」という有能な人材が中にはいるでしょう。そうした人材が辞めたとしても、受け入れるぐらいの度量も二代目には必要です。

幹部社員が何人か仲間を連れて独立して、お客さんごともっていってしまうという話も聞きます。そういう事態も覚悟するべきです。とはいえ、もちろん、辞めさせない工夫や努力も必要です。これからの時代は、人の採用が厳しい時代でもあるからです。

しかし、社員が辞めるのを恐れて、変化していく決断をしないことは、人が辞めていく以上に大きなリスクであるということも、認識しておく必要があるのです。

残ってくれる幹部は貴重な存在

少子化が進み、人口が減っていく時代となるこれからは、人手不足が深刻化して、人を採りにくくなっていきます。いかに有能な社員を辞めさせないかも考えなければ、経営は難しくなります。今後は、離職を極力抑えないといけません。

何かを変えようと思った時、ある程度、社員が辞めるのは覚悟しないといけませんが、そのうえで有能な社員を辞めさせないためにはどうしたらいいか、考えなくてはいけません。そのために欠かせないのが、変えていく理由です。なぜ、会社を変えていくのか。WHYをしっかり社員に伝えていくべきなのです。社長という役割で会社を率いるのではなく、WHYを語る経営者自身が人として社員を魅了しなければなりません

ところが、二代目は社員教育には熱心でも、自分の魅力を高めることに意外と目を向けません。入社した時から社長候補で、そのまま社長に就任しているのが二代目です。社長という立場や役割だけでマネジメントしているため、社員たちがついていきません。

一方、WHYを語ったり、自己研鑽したりする姿をしっかりと社員に見せ、人間的な魅力を高めている社長は、社員たちからついていこうと思われるのです。

わが社の場合、私が幹部時代に今の企業理念を一緒につくり上げたメンバーが2人残ってくれています。わが社が傾いてきた時、「どうするのですか?」と言ってきたので、「だったら、一緒に理念づくりからやるか」と言って、理念をつくり、介護事業を立ち上げ、新卒採用を始めました。

そんな2人が辞めずに残ってくれていることはありがたいかぎりです。2人は、わが社がまだ小さな家業だった10年、20年前を知っている貴重な存在でもあります。かつての会社から今の会社にどのように変わったか。当時がどれだけひどくて、今がどれだけいい方向に向かっているのか。こうしたことを語れる証人でもあります。彼らはわが社にとっては大きな財産なのです。

こういったメンバーを大切にし、彼らが活躍できる環境を整えていくこと、そういったことも二代目社長には必要です。

先代は教えてくれない 二代目社長の生き残り戦略: 今あるものを「捨てる」覚悟 「守る」使命
大澤希(おおさわ・けい)
株式会社フィールドプロテクト代表取締役社長。1971年生まれ。埼玉県狭山市出身。中学、高校と野球に熱中し、高校3年時の夏の甲子園大会に捕手として出場。明治大学に進学し、六大学野球を経験。卒業後も東芝府中で社会人野球の選手として活躍。1996年、株式会社フィールドプロテクトに入社し、古紙の回収業務やビルメンテナンスなど、現場の仕事を覚えることからスタート。父で先代社長である譲司氏の片腕として会社を支える傍ら、地域活動にも精力的に取り組む。2007年には狭山青年会議所理事長として、子どもたちの生きる力を育む「むさし100km徒歩の旅」を立ち上げ、青少年育成に11年間取り組む。2009年には青年会議所の埼玉ブロック協議会会長、2010年からは青年会議所の国際資格であるJCIトレーナーとして地域の経営者のリーダーシップなどの研修活動を行う。2016年4月、現職の代表取締役に就任。アソシエイトの資格をもつ「エマジェネティックスⓇ」や研修経験を生かし、人材育成と仕組み化に取り組み、多角的経営にチャレンジしている。普段の自分が通用しない世界で自分をコントロールする力を学べることから3年前よりスキューバダイビングを始める。座右の銘は自身のモットーである「今の自分で勝負する」に通じる「This is me!」。愛読書は小説の『イリュージョン』。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)