本記事は、大澤希氏の著書『先代は教えてくれない 二代目社長の生き残り戦略: 今あるものを「捨てる」覚悟 「守る」使命』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています
「社長は孤独」という現実から目を背けない
アメリカにサバイバル教室を運営するトム・ブラウン・ジュニアという人がいて、日本でも彼の考え方や活動が紹介されています。彼は幼いころ、ストーキング・ウルフという名の古老のネイティブアメリカンに育てられたそうです。ストーキング・ウルフは、動物などの足跡からその動物の動きはもちろん、それ以外の情報までを読み取ることができる力をもち、その力は「トラッカー」と呼ばれています。
トム・ブラウン・ジュニアは、ネイティブアメリカンのトラッカーの技術を伝承した人なのです。彼が記した本には「自分にとって最高のパートナーは自分。自分というパートナーと出会えれば、孤独は存在しない」というような話が書かれています。
自分をいかに信じられるかが大切であり、「自分は自分とともにある」という感覚をもてる人は強いのです。とはいえ、なかなかそんな感覚を得るチャンスはないでしょう。
私自身は、半ば強制的にスウェットロッジやビジョンクエストという信じられないような体験を通して、この「自分は自分とともにある」という感覚を実感することができています。
私のメンターである秋山ジョー賢司さんは、自分の内面について、コアセルフとセルフという分け方をしています。自分はセルフですが、その自分の中には本当の自分=コアセルフというものがいて、それが自分を生かしているということをイメージしましょう、と言うのです。私は、トム・ブラウン・ジュニアの言っていることと秋山さんの話は同じことだと思っています。
自分自身をどう理解し、どう自分の中に取り込んでいくか。これができていないとどうなるか。色々な不安を抱えている経営者は、それを解消するために社員に好かれようとしてしまいます。もちろん、好かれること自体は悪くはありません。
しかし、経営者と社員では見ている視座が違います。経営者の視座に立って判断することが経営者の仕事であり、時には社員には理解できない決断をしなければならない時もあります。それなのに社員に好かれようとしてしまうと、経営判断を誤ってしまいます。
そういう意味で、経営者は確かに孤独です。しかし、孤独という現実から逃げるわけにはいきません。大切なのは、他人に依存するのではなく、自分に依存できるようになること。そうすれば、強い自分でいられるのではないでしょうか。
失敗してなんぼ。挑戦し続けることが会社の歴史をつくる
私の祖父は、茨城でパチンコ店を開いて大儲けした時代があったそうです。そのころ、100円札を燃やしてすき焼きを食べたという逸話も残っています。書店を経営し、これも大当たり、ライカの高級カメラを買っていたこともあれば、一転して路上で靴磨きをやったり、山谷で日雇労働者だったこともあるそうです。
祖父は、驚くほど浮き沈みが激しい人生を送り、チャレンジ精神が旺盛な人だったそうです。しかし、そんな型破りなことばかりやっていては、会社がつぶれるに決まっています。祖父は大成功した時期もあるのだから、もう少しちゃんと経営していれば、私は大きな会社の跡取りだったかもしれません。じいさんは何をやっているんだ、と思ったこともありました。
しかし、いざ自分が社長になって会社を経営してみると、祖父は自分の可能性にチャレンジしたのだということがよくわかるようになりました。
一度の失敗で挫折する経営者もいます。それなのに、祖父は何度も失敗しては立ち上がりました。日雇労働や靴磨きをして細々と生計を立てながら、命がけで生き延びて、また事業を興して、今の会社を残してくれました。
きっと、祖父は何かを守ろうなんて気持ちは、これっぽっちもなかったでしょう。失敗したら、またやり直せばいい。挑戦あるのみ。そんな気持ちで生きてきたのではないかと思います。守ろうと思っていたら、守れなかった時点できっと挫折していたでしょう。守ろうという気持ちがみじんもなかったから、今の会社があるのです。
チャレンジというのは、何も新しい事業を始めることだけではありません。今やっている事業の中にもチャレンジはあります。
例えば、「はじめに」で触れた星野リゾートが好例です。元々は旅館業でしたが、今はリゾート運営業になっています。旅館業の延長線上にはあるけれども、運営の手法についてチャレンジしているわけです。
和菓子の老舗である虎屋がカフェを始めたり、お茶の福寿園がペットボトル入りのお茶を始めたりしているのも、まさにチャレンジだといえます。
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