本記事は、大澤希氏の著書『先代は教えてくれない 二代目社長の生き残り戦略: 今あるものを「捨てる」覚悟 「守る」使命』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています
二代目社長の9割は「守り型」経営
あなたがもし二代目社長なら、会社を承継した時にどんな思いが頭をよぎりましたか。
「絶対につぶせない」「自分がこの会社を守れるのだろうか……」「うまくいって当たり前だと見られている」。そんなプレッシャーを感じたのではないでしょうか。
すでにあるものを失うのは、誰だって怖い。二代目は、会社が存在している状態からスタートするので、経営が守りに入ってしまうのが宿命です。
私は44歳の時、父が急逝したことから、会社を承継しました。それ以来、うまくいって当たり前というプレッシャーと常に闘っていたかといえば、そんなことはありません。何かの拍子にそれを自覚するわけです。プレッシャーと闘っているというよりも、「守るのは当たり前」といった感覚です。
今あるものをどうしていくか。どうしたら利益を出せるか。どうしたら社員とうまくやっていけるのか。どうしたら社員がついてくるのか。会社を受け継いだ当初は、そんなことばかり考えていました。あのころは、守りの視点しかなかったような気がします。
中には、守りの意識がない二代目がいるかもしれません。しかし、それはごく少数派でしょう。私がそうだったように、二代目のほとんどは守りからスタートするのです。そして、そのまま「会社を守らなければ」という思いで経営を続けている二代目が、私が見る限り9割くらいを占めています。
世間の評価は1円の得にもならない
二代目は、とにかく先代と比べられてしまいます。それも、社内から、取引先から、世間から、そして家族から、あらゆる方面から先代と比べられて評価されます。
自分で起業した人であれば、少なくとも社内には比較対象となる人はいません。ところが、事業を継承した二代目は、身近に比較対象となる先代がいます。ですから、どうしても比較されやすいのです。
事業を承継した当初、私の耳にも色々な声が入ってきました。身近なところでいえば、母親の言葉です。母はどうしても夫である先代と息子の私を比べます。時折、母の口をついて出てくるのが「お父さんは〇〇だったのよ」という言葉。母は父と私を比べるつもりはなかったのかもしれませんが、私には「それに比べてあなたは」という言葉があとに隠されているような気がしたものです。
まわりが先代と比較するのは、何も悪意があってのこととは限りません。むしろ、悪気がない場合のほうが圧倒的に多いのです。私自身、私に対するマイナスの声ではないのに、自分で勝手にマイナスの評価だと捉えてしまうこともありました。世間の評価がどうしても気になってしまうのです。とりわけ事業がうまくいっていない時、まわりの声は自分を責めているようにすら感じられました。
それではなぜ、まわりの評価が気になるのでしょうか。それは、会社を守ろうとしているからです。守るとは、そのままの状態を維持するということ。守りに入ると、評価の物差しは「先代より良くなったか悪くなったか」にならざるをえません。
経営は、ずっとうまくいくことなどありえません。どの企業にも浮き沈みはあります。うまくいくかどうかなんて、誰にもわかりません。大切なのは、何かが起きた時、次の手を考えて打てるかどうか、大丈夫だと自分が思えるかどうかです。
うまくいかなくなったら、またチャレンジすればいいだけの話です。世間からの評価を気にすれば気にするほど、守ることばかり考えて萎縮してしまいかねません。チャレンジしなくなってしまいます。チャレンジしない会社は滅びるだけです。世間の評価を気にして守りに入るのは、1円の得にもなりません。それどころか、マイナスに作用してしまいます。
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