2度目の緊急事態宣言が出され、鉄道各社が終電時間の繰り上げに動いた。売上減は免れないが、一方で終電時間帯は乗客が元々少ないことから、繰り上げにより利益率は向上する。終電時間の繰り上げは、鉄道各社にとってマイナス面ばかりではないのだ。

2度目の緊急事態宣言の内容

鉄道各社
(画像=telkamix/stock.adobe.com)

2020年4月の発出に続いての今回、2度目の緊急事態宣言が出された。新型コロナウイルスの感染者の増加に歯止めが掛からない中、日本政府は1月7日に東京・埼玉・千葉・神奈川を対象に発出を決め、1月13日には、大阪・京都・兵庫・愛知・岐阜・福岡・栃木を対象に追加した。

今回の緊急事態宣言における対策の柱は、「飲食店の午後8時までの営業時間短縮」「テレワークによる出勤者数7割減」「午後8時以降不要不急の外出の自粛」「スポーツ観戦、コンサートなどの入場制限」であり、緊急事態宣言の決定に関する記者会見で、菅義偉首相は鉄道各社に対する要望は語らなかった。

しかし、鉄道各社には国土交通省や自治体から終電時間の繰り上げに関する要請があり、それを受け、JR東日本や首都圏の私鉄各社が続々と終電時間の繰り上げを決定した。

元々深夜時間帯の乗客は少なく、コロナ禍でさらに減少

国土交通省の公式ホームページで以前から公表されている資料では、利用時刻別の鉄道利用者数の推計が紹介されている。その資料によれば、終電時間帯は始発時間帯と同じかそれ以上に乗客数が少ない。そのため終電時間を繰り上げれば、売上減のダメージよりも人件費などの削減効果の方が大きくなる可能性が高く、長期的にみれば鉄道各社の利益率が上がると考えられる。

さらに最近では、新型コロナウイルスの感染拡大によって在宅勤務(テレワーク)が増え、仕事が終わったあとに居酒屋やバーなどに寄って帰る人も少なくなっていた。つまり、以前に増して深夜時間帯の利用者が減少傾向となっていたわけだ。

鉄道各社は昨年から終電時間の繰り上げを決めていた

このような背景がある中、鉄道各社は国や自治体から終電繰り上げの要請を受ける前から、終電時間の繰り上げに向けて計画を立てており、2021年の春のダイヤ改正で各社が終電時間を繰り上げることを決めていた。

そのため、今回の終電時間の繰り上げは、以前からあった計画の実施を前倒ししたという形になり、鉄道各社にとっては決して突然降って湧いたような対応ではない。具体的には、JR東日本や私鉄の各社は終電時間を最大30分程度繰り上げる計画を立てていた。

では具体的には、今回前倒しで実施する終電時間の繰り上げとはどのような内容なのか。

具体的には終電時間をどの程度繰り上げるのか

JR東日本は1月20日から当面の間、11線区の計42本(土祝日は計40本)を対象に運転を取りやめる。対象となるのは、山手線や京浜東北・根岸線、埼京・川越線などで、繰り上げる時間幅は8~32分程度だとされている。

例えば山手線外回りの場合、東京駅における終電はこれまで午前1時3分発だったが、その1本前の午前0時55分発の電車も無くなり、終電時刻は午前0時51分となる。繰り上げの時間幅で言えば12分だ。

大手私鉄もおおむねJR東日本と同様の繰り上げ幅で、終電時間が14~30分程度早まる。西武鉄道の場合は、池袋線と新宿線などで1月20日から終電の繰り上げを行い、例えば、池袋駅の保谷行の終電はこれまでは午前0時45分発だったが、午前0時33分発が最終となる。

一時的には減収によって鉄道各社の業績は悪化するが

終電時刻の繰り上げは、長期的にみれば鉄道各社にとってはメリットが大きい。しかし短期的にみれば売上減となるため、コロナ禍によって業績が悪化している鉄道各社にとって、一時的には減収によって業績がさらに悪化することになる。

例えば、JR東日本が2020年10月に発表した2021年3月期第2四半期の連結業績(2020年4~9月)では、売上高が前年同期比48.2%減の7,872億9,700万円まで減少しており、最終損益も1,885億3,400万円の黒字から2,643億7,900万円の赤字に転落している。

1月20日からの終電繰り上げは、2021年3月期第4四半期(2021年1~3月)の業績に影響するが、どれだけ売上高を落とすことになるのか注目が集まりそうだ。

長期的に見ればメリットが大きい終電時刻の繰り上げ

この記事では、緊急事態宣言と鉄道各社の終電時間の繰り上げについて解説してきた。結論を言えば、終電時間の繰り上げは昨年からの既定路線であり、長期的にみれば各社の業績に良い影響を与えると考えられる。また、日本では少子高齢化などの影響によって働き手が減少しており、鉄道各社も採用活動では苦労してきた。終電時間の繰り上げによる営業時間の短縮は、そのような課題も緩和するかもしれない。

ちなみに鉄道各社の終電の繰り上げについては、国土交通省の公式サイトで詳細を確認できる。詳しくは「鉄道各社の終電繰り上げについて」(https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk1_000059.html)を参照してほしい。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)