日本の職人やアーティストが世界で活躍できる土壌を作るべく、アメリカで和菓子ブランド「MISAKY.TOKYO(ミサキ・トーキョー)」を立ち上げた三木アリッサ氏へのインタビュー第四弾。

インタビューの中にたびたび登場する「平等」という理念。「差別や不平等に対して自分の意思を表現するのは当然のこと」と語る三木さんへ、これからの日本企業が考えるべき、社会のあり方についてお話を伺った。

美しい先の未来へ「MISAKY.TOKYO」のブランドメッセージ

NEW・日本の経営者たち〜サステイナブルな社会を作る挑戦〜
(画像=THE OWNER編集部)

永井 「MISAKY.TOKYO」の今後のビジョンを教えてください。

三木 和菓子ブランド「MISAKY.TOKYO」というのは、美しい先の未来という願いを込めて作ったブランドです。日本側の取材では、よく「伝統工芸品を世界に」という文脈をよく聞かれるので、その説明ばかりですが、実はその説明はアメリカ人には受け入れられません。それは、「マトリョーシカで世界を平和にします」とロシアの企業から言われても日本人にとってピンとこないのと同じです。

ですから、私はまずアメリカ人に向けたブランドストーリーを丁寧に作りました。まず、ビジネスでは「平等」を意識していますし、「美しい先の未来、平等な社会への願い」というメッセージを発信しています。そのため、商品は、ビーガン・グルテンフリーなどどのような志向の方でも等しく食べられるように設計しています。

ブランドメッセージ「平等」につながる2つの取り組み

三木 「平等」に向けた取り組みの1つが、製造現場には女性を可能な限り雇用し技術支援を行うこと。そして、ゆくゆくはマーケティングやファイナンスの知識も身につけて自分でビジネスを持てるくらいにまで育てることです。

また、「平等」を掲げるうえで、どのようにスモールビジネス同士を連携させるかということも大切だと考えています。フードビジネス業界ではまずありえないことですが、レストランには我々のレシピを公開し、弊社のお菓子の製造委託をしています。なぜなら、今のコロナショックのような危機が訪れたとしても、弊社が彼らの作ったお菓子を買い取れば、飲食店は収入が途切れずに済みます。現在では全体の2割ほどがこれらのレストランで製造されたものです。

お菓子作りを通した「平等」の実現

永井 最近では、Black Lives Matter(BLM)への取り組みもされていましたね。

三木 「平等」を掲げている弊社がBLMも支援するのは当然のことだと考えています。私たちは、人種にかかわらず女性やマイノリティーの人々を可能な限り雇用するようにしています。その取り組みの1つとして、BLM特別商品を作って、売上のすべてを寄付するなどの支援を行っています。

山本 アメリカとは異なり、日本ではまだまだ、経営者の信条やポリシーをコーポレートメッセージとして表明したり、支援するということはまだまだ少ないようです。

三木 そうかもしれません、アメリカに住んでいる私は、大坂なおみさんをはじめとする有名な方々が、BLMのサポートを表明したことに関しては、とても理解できます。

日本ではあまり知られていませんが、BLMの運動が起きる前には、「みんなが平等であるべき」考えと「黒人が優遇されるべき」だという考えがアメリカでは行ったり来たりしていたわけです。

わかりやすい例が、アメリカ国内の大学受験です。かつてアメリカの大学では、公平を期すために白人、黒人、アジア人それぞれに入学枠が設定されていました。人種による偏りがでないようにとの狙いがあり、こういった偏りが出ないための施策を「積極的差別是正措置」(アファーマティブ・アクション)と呼びます。しかし、これに対し「黒人ばかり優遇されているのはおかしい」と撤廃を求めた動きが出てきました。それにより、黒人への入学枠の優遇が撤廃されていた時期がありました。

しかし、入学枠を撤廃した結果、黒人の大学入学率が大きく下がってしまいました。白人、アジア人と比べ、黒人の家庭では子どもの教育に投資することが一般的ではなかったからです。一方、我々日本人やアジア人は、一般的に教育熱心で子どもへの教育に熱心です。また、もともとが勤勉な国民性もあり本人の努力の問題ではなく、そもそもの文化違いにより差が出てしまったのです。そういったバックグラウンドの違いによって生まれる格差を是正しよう、という意見が現在では一般的です。

私たちも「平等な社会」を目指してはいますが、そのような文化は、1日では変えられません。でも、私たちにできることがあるなら、会社として取り組もうというのが、弊社の考えです。その理念を弊社のファンの方々にもご理解いただけて、BLMをサポートする商品を発売した際にはたくさん購入していただいたりSNSで拡散していただくことができました。

「平等」はみんなで底上げしていかなければならないほど変われないこと、文化を変えることは難しいことなのだ、ということを知っていただけたら、と思います。

伝統を次世代につなぐための新しい形を模索

三木 アメリカではわかりやすく、黒人が対象となっているだけで、私はBLMと同じようなことが日本でも起きていると思うのです。たまたま、BLMはわかりやすく黒人に対する差別が問題となっていますが、LGBTQや肌の色が違う外国人などのマイノリティーに対する同様の問題は、日本でもあると思います。

山本 日本では、住んでいる黒人の方の数が少ないため、黒人に対する差別に関しては実感しにくいかもしれません。でも、見えないだけで日本でも差別は大いにあるとは思います。

三木 そうですよね。たくさんあると思います。私自身、国籍は日本人ですが、中身は幼少期アメリカにいたこともあってアメリカ人っぽいことから、周りと違うということで、いじめられて、不登校になった経験もあります。社会人になってからも、セクハラやパワハラを受けました。

山本 日本でも、外国人以外に男女間やさまざまなシーンで差別的な考えがありますよね。

三木 ありますね。このような話は、歴史的な背景や文化的なこともあり、とても難しい内容です。

日本の伝統を守るという観点においても、様々な価値観を受容するムードになればいいなと考えています。伝統を次世代につなぐためには100パーセント伝統文化、歴史に忠実な一派があってもいいけれど、一方でもう少し新しい形を模索する人がいても良いと思うのですよ。

違う考え方を持つ人を受け入れ、それぞれの考え方やバックグラウンドを尊重しながら、弊社ように伝統をつないでいく人が一人でも増えたらいいなと思いますね。(提供:THE OWNER