【第3回】精度の高い事業計画は必要?市場のニーズやペインはどこまで掘り下げるべきでしょうか?
(画像=THE OWNER編集部)

THE OWNER特別連載「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」第三回目は「事業計画において市場のニーズやペインをどこまで掘り下げるべきか」という経営者のお悩みについてお答えします。

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【ご質問】
精度の高い事業計画はそこまで必要ないということでしたが、前提として市場のニーズやペインがどうあるのかといった調査をする必要もあると考えています。その辺りの精査はどこまで掘り下げるべきでしょうか。

【ご回答】
御社の取り得るリスクと手持ち資金の大きさに依ります。テストマーケティング・試験販売の結果が出るまでの資金が手元にあり、尚且つそのコストが回収できなくても構わないという状況であれば、ニーズやペインの調査よりも、テストマーケティングを実施した方が迅速な事業展開が可能です。

ご質問、ありがとうございます。仰る通り、最近では綿密な市場調査を行うより、テストマーケティングや試験販売で迅速に結論を出した方が良いという考え方が主流です。成熟市場の中で顧客、特に一般消費者の嗜好が多様化していること、新たに提案されるビジネスモデルが複雑化し、市場反応の予測が難しくなったことがその原因です。

そこで本稿ではニーズ・ペインの調査が必要な場合、不要な場合を考えてみたいと思います。

杉野 洋一(すぎの よういち)
杉野 洋一(すぎの よういち)
(同)Initiatives代表。IT系企業、会計ファームにて広くクライアントを支援する傍ら、韓国・インドにて教育・指導・通訳に従事するなど多様な文化・企業環境において活躍。中小企業診断士として独立後は中小企業を中心に「真にクライアントに寄添う経営支援」を信条とし、目標制度や管理会計に取り組んでいる。▶https://initiatives.jp/

ニーズ・ペインの調査が必要な場合とは?

テストマーケティングまでの費用リスクを取ることが難しい

市場調査の目的は、新商品や新事業のリスクを低減することにあります。一般的に事業開発は、事業・商品企画、市場調査・競合調査、デモンストレーション版や試作品開発、テストマーケティング・試験販売という順番を採ります。例えば、市場調査・競合調査を充分に行わず、テストマーケティング・試験販売を行った後に強力な競合が見つかった場合、事業が中止になってしまうと、その前に使った費用は永久に元を取ることができません。

例えば、事業開発開始からテストマーケティングまでに1,000万円掛かる見積りだったとしましょう。この1,000万円が全く戻ってこなくても大きな影響はない、或いはテストマーケティング後に機能要件やビジネスモデルの変更があったとしても十分対応可能な資金力があるという場合には、ニーズ・ペインの調査より迅速な市場投入が良い結果をもたらすこともあります。逆に、この1,000万円をなるべく大事に使いたい、テストマーケティング後の計画修正に備えて少しでも余裕を持ちたいという場合には、ニーズ・ペインの調査をしっかり行うことでリスクを下げることができます。

但し、ニーズ・ペインの調査をどんなにしっかり行ったからといって事業リスクはゼロにはなりません。そういう意味では保険と似ているかもしれません。ただ、ニーズ・ペインの調査は、その結果から得られる知見を事業計画に対してフィードバックすることができますので、この点では保険よりだいぶ有効と考えられます。

融資ではなく出資による資金調達を検討している

上記と関連しますが、出資による資金調達を行う場合には、はやりニーズ・ペインの調査が必要になります。何故かというと、具体的なビジネスモデルがはっきりしない段階では、事業家がニーズ・ペインを明確に示すことで、投資家にリスクの低さを訴求することができるからです。

投資家が関心を持つのはリスクとリターンですので、市場分析を綿密に行ってリターンの大きさを示します。既に確立していない市場の場合には、ニーズ・ペインの調査を行い、市場規模を推定します。例えば、既存市場はこれだけの規模があり、新しい機軸で訴えたとして、その内?%の人が顧客になり、年で○○円使うと、○○円の売上高が想定されるという形式が良く使われます。なるべく説得力を持たせ、投資家を納得させることが出資の重要事項です。

ニーズ・ペインの調査が不要な場合とは?

上記以外の場合となりますので、手元資金に余裕があるか、または固まったビジネスモデルで融資による資金調達を計画している場合です。例えば、よほど特殊な例を除き、飲食業であればある程度ビジネスモデルが固まっています。例えば出店までの費用が300万円掛かるとして、そこまでの費用が最悪回収できなくても困らないという状況であれば、ニーズ・ペインの調査は不要と考えます。

ご参考になったでしょうか。説明が不足している点、お気づきの点がございましたら、質問を受け付けております。遠慮なくご一報いただければ幸いです。(提供:THE OWNER

文・杉野洋一((同)Initiatives代表)