コロナ禍で人気急上昇中の米アプリ「Clubhouse(クラブハウス)」が、日本でも急激にユーザー数を増やしている。欧米では単なる次世代音声SNSとしてだけではなく、新たなビジネスツールとしての活用も進んでいるという。今回は開発からわずか1年という短期間で、時価総額10億ドル(約1049億5496万円)、ユーザー数200万人に急成長を遂げた人気の秘密とビジネス活用例を紹介しよう。
「Clubhouse」とは?
Clubhouseは2020年、サンフランシスコのスタートアップ、Alpha Exploration(アルファ・エクスプロレーション)がリリースしたアプリ だ。2021年2月14日現在もiOSのみ対応のベータ版であるにも関わらず、シリコンバレーのベンチャー企業(VC)を熱狂させ、瞬く間にエクゼクティブに欠かせないツールとして認識されるに至った。解析ツールベンダー、ユーザーローカルの伊藤将雄社長の試算によると、日本では2020年11月の進出以来、すでに推定50万人が利用しているという。
過去3回の資金調達ラウンドでは、米VC企業アンドリーセン・ホロウィッツから総額1.1億ドルを調達した。これほどメディアや市場が熱狂しているにも関わらず、Clubhouseの背景は未だ謎に包まれた部分が多い。
「インタラクティブなポッドキャスト」?既存のSNSとの3つの違い
Clubhouseが既存のSNSと一線を画す特徴は、主に3つある。
1つ目は、音声会話ライブをベースとする仮想空間であることだ。既存のSNSが画像やテキストなどのビジュアルを重視しているのに対し、Clubhouseはオーディオのみで他のメンバーと交流する。参加者は「ルーム(Room)」や「クラブ(Club)」と呼ばれる数千ものチャットルームを訪れ、主催者(Host)や話し手(Speaker)の会話を聞くことができる。主催者の許可を得れば、話し手として発言することも可能だ。さしずめ「インタラクティブなポッドキャスト」といったところだろうか。
自分でルームを立ち上げる際はオープン(全メンバー参加OK)、ソーシャル(アプリで直接リンクしているメンバーのみ参加可能)、クローズド(許可を与えたメンバーのみ参加可能)の3つのプライバシー設定から選択する。お気に入りのメンバーやトピックをフォローできるシステムは、既存のSNSと共通する。
2つ目は「完全招待制」であることだ。誰でもアプリをダウンロードしてユーザー名を登録することは可能だが、既存のメンバーから招待されるまでルームにアクセスできない。この「選ばれた者だけが参加できる」というスペシャル感が、Clubhouseの爆発的な人気を後押ししている理由の一つかと思われる。
3つ目は「FOMO(fear of missing out=取り残されることへの恐れ)」だ。SNSの世界では、現実の世界やSNS上で起こっている出来事に、自分だけが参加していないことに対する恐怖感や焦燥感を覚える。Clubhouseの会話は一切セーブ(保存)されないため、リアルタイムでチャットに参加した者しか聞くことができない。そのため「その場に居なければ有益な情報を聞き逃すかも知れない」という恐れや焦りが生じやすい。このような背景から、「Clubhouse中毒」という造語も生まれている。
Clubhouseのビジネス活用例4つ
もはやビジネスの常識となったSNSだが、活用されているのはFacebookやInstagramなど、ビジュアルやテキストをベースとするものが圧倒的に多い。しかし、Clubhouseのように音声ベースのSNSも、使い方次第ではコミュニケーションからコラボレーションまで用途が広がる。ここではClubhouseのビジネス活用例を4つ紹介しよう。
1 ビジネス・ネットワーキング
ネットワーキング(人脈作り)は、ビジネスの成長に欠かせない重要な要素である。すでにLinkedin(リンクトイン)に代表されるビジネス特化型SNSが、人材発掘からマーケティングまで多様なネットワーキングに利用されているが、Clubhouseはライブでコミュニケーションを図りながらネットワーキングを行える点がメリットだ。賢く利用することで200万人のユーザーから厳選された、有益なネットワークを構築することができる。
2 ラーニング、インスピレーション
Teslaのイーロン・マスクCEOやFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOなど、大企業のエクゼクティブや業界の著名専門家にアクセスできる点も、Clubhouseの大きな魅力だ。日常生活では接点がない世界のエクゼクティブから、ビジネスの成長に役立つ貴重な体験談やアイデアをリアルタイムで聞いたり、直接質問したりすることもできる。ただし前述の通り、参加や発言には主催者の許可が必要だ。
3 マーケティング
Clubhouseは自社の商品やサービス、イベントなどを新たな顧客層にアピールしたり、フィードバックを受けとったりする機会としても利用されている。菓子パンチェーンCinnabon(シナボン)など、人気のフードブランドのフランチャイザー兼オペレーター業務を手掛ける、米Focus Brands(フォーカス ・ブランズ)の元CEOキャット・コール氏の成功例を紹介しよう。
同氏が毎週Clubhouseで開催している「オフィス・アワー・ルーム」で、「住所を知らせてくれれば、シナボンが無料でプレゼントします」と呼びかけると、向こう2週間ほどはClubhouseのほぼすべてのルームでシナボンが話題になるという。その他、タブレット型歯磨き粉で話題のスタートアップ、Bite Toothpaste(バイト・トゥースペースト)など、ブランドチャンネルとしての活用も加速している。
4 プロジェクト、バーチャルイベントのコラボレーション
コロナ禍でバーチャルイベントやサミットが急増しているが、通常の手段ではオーガナイズから参加者の募集までコストや時間がかかる。Clubhouseで培ったネットワークやアイデア、マーケティングを活用すれば、プロジェクトやバーチャルイベントを他のメンバーと共同で立ち上げたり、参加者を募ったりするプロセスが容易になり、コストと時間も大幅に軽減できる。
課題は多いものの、使い方次第ではさらなる可能性が広がる
以上、Clubhouseについて紹介した。今後はAndroid用のアプリ開発を予定しているほか、メンバーであるクリエイターがチケットやサブスクリプションの代金、チップなどを、他のメンバーから受けとることができるシステムの構築を計画するなど、クリエイターコミュニティのサポート強化を目指している。
既存のSNS同様、ヘイトスピーチや誹謗中傷、差別発言などへの対策強化など、取り組むべき課題が指摘されているものの、既存のSNSに飽和感が漂う今、会話型SNS分野のさらなる成長が期待できるだろう。(提供:THE OWNER)
文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)