マーケティングという言葉はよく耳にされることと思うが、マーケティングコミュニケーションというとピンとこない方も多いだろう。マーケティングコミュニケーションとは、マーケティングの中でも一番顧客と関わる重要な部分で、これこそマーケティングの根幹だといっても過言ではない。

今回は、重要であるが故に他の言葉に置き換えられてしまうことも多い、マーケティングコミュニケーションについて解説していく。

マーケティングコミュニケーションとは

マーケティングコミュニケーションはマーケティングの根幹
(画像=boonchok/stock.adobe.com)

まずはマーケティングコミュニケーションの定義から確認していきたいが、マーケティングコミュニケーションとマーケティングは違うものなのだろうか?

マーケティングを単なる市場調査のことと勘違いしている人も多くいるが、実は顧客に「価値」届ける活動すべてを表す。私たちは顧客に商品やサービスを提供しているのではなく、価値を提供しているのだ。顧客は、自分にとって価値あるものの提供を受けるからこそ対価を払う。私たちはこの価値を届けるためにさまざまな活動を行っている。広告宣伝や販売のみならず、その活動を支えるバックオフィスなども含め、企業を存続させ市場と関わっていくすべての活動がマーケティングの範疇なのだ。

ただしこのような定義は、あまりに広義でマーケティングの本質をわかりにくくしてしまうことも事実だ。マーケティングコミュニケーションとは、一般的に私たちがマーケティングといわれて想像する活動、すなわち顧客に直接関わっていく活動部分を表す。

マーケティングコミュニケーションはマーケティングの一部であり、マーケティング活動を表すときに用いられる4C(Customer Value、Cost、Convenience、Communication)のCommunication、4P(Product、Price、Place、Promotion)でいうところのPromotionに該当する。

マーケティングミックス

マーケティングコミュニケーションを理解するためには、マーケティングミックス(4C、4P)を知っておかねばならない。上記で述べた4Cと4Pについて解説しておこう。4Pは、マーケティングを少しでも知っている人なら聞いたことがある言葉だろう。

企業側の視点 4P

4Pは、企業側の視点から顧客に価値を届けるためにはどのようなマーケティングを行うかを決めていくフレームワークだ。

・Product(製品)
Productは、製品のみならず、品質やブランド、パッケージ、サービス、保証までを含めて、その製品が顧客のニーズを満たすものかどうかを考えていくプロセスだ。

・Price(価格)
その製品が、あらかじめ定めた顧客ターゲットに受け入れられる価格か、また自社にとって利益を生む価格であるかを決めていくプロセスだ。競合他社がある場合には、他社製品の価格も比較対象とする。

・Place(場所)
場所と書くとわかりにくいが、流通も含めた顧客に製品を届ける方法を考えていく。ターゲットによっては百貨店での販売が最適な場合もあれば、コンビニがよい場合もある。近年ではネットショップでの販売や、自社サイトからの直接販売も増えている。自社の流通に関わる事情も併せて、どこでProductを販売すればよいかを考えていく。

・Promotion(プロモーション)
販売促進のための活動全般を表す。このプロセスは顧客にいかに製品を認知してもらうか、購入への欲求を高めてもらえるかがポイントとなる。具体的には、CMなどの広告宣伝やSNSなどを使った情報拡散などがプロモーションの手法だ。Promotionに関する予算や費用対効果も考えていくのがこのプロセスだ。

顧客側の視点 4C

4Pを、顧客側の視点から見直したものが4Cだ。したがって4Pの項目と4Cの項目は、それぞれ対になっている。

・Customer Value(価値)
この価値とは顧客にとっての価値を表す。4PのProductは企業の目線から見た製品そのものを考えたが、ここでは広義の意味での価値を考える。顧客の欲する価値を、物理的なものだけでなく感情や、その製品を持つことによって生まれる優越感、生活の変化などまで含めて検討していくプロセスだ。

・Cost(コスト)
4PのPriceは企業が顧客に商品などを販売する価格を考えたが、ここでは顧客が支払う対価を考える。この対価には、購入するまでの手間や、交通費、移動時間なども含まれる。

・Convenience(利便性)
4PのPlaceは企業側の店舗や流通の都合も考え合わさねばならないが、ここでは顧客の購買における利便性を考えていく。ConvenienceとPlaceは、表裏一体の関係にあり、双方とも流通チャネルの最適化がポイントだ。

・Communication(コミュニケーション)
Promotion(販売促進)は、以前のように一方的なメッセージの発信(テレビ、新聞や雑誌)だけではなく、双方向性が加速しつつある。したがってマーケティングにおけるPromotionとCommunicationは、区分けがなくなりつつあるのが現状だ。

コミュニケーションミックス

上記のようなPromotionとCommunicationの関係から、考えなくてはならなくなったフレームワークの一つがコミュニケーションミックスだ。コミュニケーションミックスとは、マーケティングコミュニケーションを進めていく上で、費用対効果を最大にできるコミュニケーションの組み合わせを考えることだ。

マーケティングにおいて顧客とのコミュニケーション方法はいくつかに分かれるが、代表的なものは「広告」、「PR」、「人的販売」、「クチコミ」、「SNS」などだ。コミュニケーションミックスとは、商品やサービスの特性を考慮した上で、これらのコミュニケーション手法を効率的に組み合わせていくことをいう。また言い換えれば、マーケティングコミュニケーションとは、コミュニケーションミックスを考えて実行するプロセスともいえるだろう。

マーケティングコミュニケーションの目的

マーケティングコミュニケーションの目的は、顧客の購買に関わる心理プロセス(AISASやAIDMAの法則などと呼ばれる)の適切なタイミングでコミュニケーションを行い、最終的に購買に結びつけていくことだ。※AISASは、株式会社電通(広告代理店)の登録商標

AISASとは、以下のような購買時に起きる顧客の心理や行動の変化を表す。

・Attention(注意) 商品やサービスを知る(認識する)
・Interest(関心) 商品やサービスに興味を抱く。もっと知りたくなる
・Search(検索) 商品やサービスの詳細を具体的に調べる。他社製品との比較も行う
・Action(行動、購入) 店舗やWebサイトで商品やサービスを購入する
・Share(共有) SNSやクチコミなどで、商品についての情報を共有しあう

マーケティングコミュニケーションの手法

マーケティングコミュニケーションにおいてコミュニケーションミックスを考える上では、対象となる市場がBtoB市場とBtoC市場のどちらのタイプかを明確に分けておく必要がある。

上記のAISASは主にBtoC市場で用いられる顧客(消費者)の心理プロセスモデルだが、最後のShareの部分を「業界の評判」などと読み替えればBtoB市場でも使用可能だ。ここではBtoC市場を例に、マーケティングコミュニケーションについて話を進めていく。

コミュニケーションミックスは、上記のAISASモデルに当てはめてコミュニケーションを組み合わせていくと考えやすい。

・Attention(注意) 広告宣伝、PR、公式SNS(FacebookやTwitter、ブログ)
・Interest(関心) 体験イベント、展示会、街頭活動、ダイレクトメール
          公式SNS(FacebookやTwitter、ブログ)
・Search(検索) SNS(FacebookやTwitter、ブログ)、クチコミ
・Action(行動、購入) 人的販売、キャンペーン(値引きサービス、特典など)
・Share(共有) SNS(FacebookやTwitter、ブログ)、クチコミ

それぞれの段階において、顧客の購買へのモチベーションを最大化する組み合わせを考える。近年のインターネットやSNSの普及を反映し、ほとんどの段階にSNSが入っていることに注目しておこう。

マーケティングコミュニケーションの効果

マーケティングコミュニケーションの効果は、最適な費用対効果で顧客を購買へと導くことだが、その効果は一時的なものだけではない。過剰な情報発信だけでは効果は薄いが、コンテンツマーケティングのように、顧客の求めるコンテンツを通じて自社の商品やサービスの魅力を発信していけば、顧客ロイヤリティの向上にも寄与する。

適切なマーケティングコミュニケーションはブランディングへとつながり、顧客を自社製品のファンにしていく効果も期待できる。

効果的なマーケティングコミュニケーションの事例

ここからは各企業が行った効果的なマーケティングコミュニケーションの事例をいくつか紹介していく。

ドミノピザ

 宅配ピザ事業を展開するドミノピザは、どこにいても、どんな端末機器からも注文ができる「AnyWare」というデジタルプラットフォームを開発し、同時に「AnyWare」というキャンペーンを実施した。

たとえばGoogle Homeで、「OKグーグル、ドミノにつないで」と言うだけでピザの発注プロセスが始まり、スマートテレビやスマートウォッチなどからも注文できる。

ドミノピザは、AnyWareのWebサイトとテレビキャンペーン、そしてデジタルデバイスを連携させてマーケティングコミュニケーションを行ったのだ。結果的にドミノピザの売上は10%向上、それまでは電話が主だったピザの発注の半分がデジタル化され、生産効率の向上にも繋がった。

ロッテ

ロッテは自社製品のガム「Fit’s」で、テレビCMとインターネット、イベントのコミュニケーションを組み合わせ、「Fit’s」の認知度向上とファンの獲得に成功した。

近年は「噛むのが面倒だ」という若者が増え、若年層のガム離れが進んでいた。そこでロッテは、やわらかい噛み心地が特徴の「Fit’s」を販売すると同時にテレビとYouTubeでCMを展開。YouTubeとコラボしたダンスコンテストなども開催し若年層のファンを増加させた。

顧客の目線で考えることが重要

マーケティングコミュニケーションは近年その内容が著しく変わってきているが、要因の一つは顧客の世代や嗜好によるマーケティングチャネルの変化だ。たとえば若年層は、スマホの普及によってほとんどテレビを観ることがない。若年層に向けた商品やサービスの訴求に、テレビはもちろん、新聞や雑誌も適切ではないのだ。

マーケティングコミュニケーションにおいてコミュニケーションミックスを考える場合には、ターゲットとする顧客の目線がどこを向いているのか、この点を考えることが何より重要だ。(提供:THE OWNER

文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)