日本においても新型コロナワクチンの接種が開始されたが、副反応を懸念する声も少なくない。イスラエルや英国、デンマークのように国民がワクチン接種に積極的な国もある一方で、フランスのようにワクチンの安全性や有効性に懐疑的な見方をする国民が多い国もある。このような温度差は、短期間で開発された新しいワクチンへの不信感に根差すものだ。
これまでに報告されている副反応に関する情報から、ワクチンの危険性・安全性を客観的な視点から検証してみよう。
現在報告されている副反応と確率
2021年2月25日の時点で広範囲に普及しているワクチンは、米ファイザーと独バイオンテックが共同開発したmRNA型、米モデルナのmRNA型、英アストラゼネカがオックスフォード大学と共同開発したウイルスベクター型の3つだ。
mRNA型
まず、米ワクチン実施諮問委員会(ACIP)の報告書から、2021年1月下旬までに報告されている副反応と確率を見てみる。以下の表は、ファイザーのワクチン接種後、7日以内に報告された副反応の症状と確率だ。
データは、米国疾病管理予防センター(CDC)と米国食品医薬品局行政(FDA)が運営する、米国ワクチン副反応報告システム(VAERS)を介して収集・分析したものである。1,215万3,536人がファイザーのmRNA型ワクチンを1~2回接種しており、そのうち99万7,042人(妊娠中の女性227人)がVAERSに登録していた。
症状 | 1回目 | 2回目 |
---|---|---|
注射部位付近の痛み・腫れ | 67.7% | 74.8% |
倦怠感 | 28.6% | 50% |
頭痛 | 25.6% | 41.9% |
筋肉痛 | 17.2% | 41.6% |
発熱 | 7.0% | 26.7% |
関節痛 | 7.4% | 25.2% |
悪寒 | 6.8% | 26.7% |
吐き気 | 7.1% | 11.2% |
浮腫み | 7.0% | 13.9% |
*予防接種実施諮問委員会(ACIP)の報告書より
このデータを見る限り、1回目より2回目の投与後に副反応が起きる確率がはるかに高い。mRNA型ワクチンは、1回目の投与で体内の免疫反応を引き起こし、2回目の投与がコロナウイルスと戦うための免疫機能を強化する「ブースター」の役割を果たすためだ。同じmRNA型ワクチンであるモデルナでも、同様の反応が見られる。
ウイルスベクター型
英国の安全監視システム、イエローカードスキームによると、アストラゼネカのウイルスベクター型ワクチンは、100万回の投与に対して約4,000回の副反応が報告されている。2月現在、アストラゼネカのワクチンで2回目の投与に関するデータが不足していることから、正確な判断はできない。しかし、欧州医薬品庁(EMA)に提示された臨床試験データからは、1回目より2回目の投与の副反応の方が穏やかであることが判明している。
インフルエンザワクチン、帯状疱疹予防ワクチンとの比較
次に、「最も副反応が報告されているのは、2回目のコロナワクチンを接種した55歳以上」という報告に基づき、このグループと一般的なインフルエンザワクチンと50歳以上を対象とする遺伝子組み換え型の帯状疱疹予防ワクチン、シングリックスを比較してみる。
症状 | ファイザー | モデルナ | インフルエンザ | シングリックス |
---|---|---|---|---|
注射部位付近の痛み・腫れ | 0.778 | 0.901 | 0.454 | 0.884 |
倦怠感 | 0.594 | 0.676 | 0.178 | 0.57 |
頭痛 | 0.517 | 0.628 | 0.187 | 0.506 |
筋肉痛 | 0.373 | 0.613 | 0.154 | 0.569 |
発熱 | 0.158 | 0.174 | 0.08 | 0.278 |
悪寒 | 0.351 | 0.483 | 0.062 | 0.358 |
浮腫み | 0.063 | 0.126 | 0.116 | 0.305 |
赤み | 0.059 | 0.09 | 0.134 | 0.387 |
*イェール大学とエモリー大学のOB感染症内科医、ジェシー・オシェイ博士作成(サマリアン・ヘルス・サービスより)
mRNA型ワクチンで最も多い症状は注射部位付近の痛み・腫れで、倦怠感と頭痛がそれに続く。このデータを見る限り、浮腫みと赤み以外の症状は、インフルエンザワクチンより発症する確率が高い。しかし、これらの症状はいずれも数日以内に改善されたという報告から、日常生活に支障を来すほど深刻な副反応ではないと考えられる。
アナフィラキシーショックは100万回につき11件
注意すべきはアレルギー反応だ。2020年12月14~23日にVAERSに報告されたアナフィラキシーショックの件数は、投与回数189万3,360回中21件。これに基づいて算出すると、100万回につき11.1件という割合だ。いずれのケースもファイザーの1回目のワクチン投与から15分以内に発生した。21件中17件は接種者にアレルギーまたはアレルギー反応の既往歴があり、そのうち7件はアナフィラキシーショックの病歴があったことが確認されている。
現時点においては、mRNA型ワクチンの成分であるポリエチレングリコール(PEG)に関連しているとの見方が多いが、他のアレルギーとの関連性については専門家間でも見解が分かれるところだ。たとえば、CDCは食品に対するアレルギー反応との関連性を低リスクグループとしているが、英国医薬品医療製品規制庁(MHRA)は過去に医薬品、食品、ワクチンで重度のアレルギー反応を経験した人には、ファイザーのワクチンを投与しないように警告している。
しかし、持病もアナフィラキシーショックの病歴もなかったにも関わらず、mRNA型ワクチンを投与後に重度の副反応を起こしたという報告もあるため、細心の注意が必要だ。
死亡ケースとワクチン投与の関連性
ノルウェーのように、ワクチン接種後の国内の死亡ケースから、深刻な基礎疾患のある高齢者へのファイザーのワクチン投与に懸念を示している国もある。しかし、ドイツの国際放送局ドイチェヴェレ(DW)の報道によると、ドイツ、スペイン、米国、ノルウェー、ベルギー、ペルーでワクチン接種との関連性が疑われた症例をWHO(世界保健機関)や各国の保健当局が調査した結果、ワクチンと死亡の因果関係は一切発見されなかったという。
一例を挙げると、ドイツでワクチン接種後に死亡した113人そのうち、43人の死亡原因はワクチン接種以前の既往歴、20人はコロナの感染だった。コロナに感染した死亡者のうち19人は、ワクチンの予防効果が完全ではなかったという。これらの死亡者は79~93歳で、ワクチン接種後1時間~19日で死亡した。
調査を実施したドイツの連邦医療規制機関パウル・エールリヒ・インスティテュート(PEI)医療製品安全部門の責任者ブリジット・ケラー・スタニスラフスキー氏は、これらの死亡者について「多くの基礎疾患のある極めて重篤な患者だった」とコメントしている。
中期的・長期的な副反応について知るためには
報告されているデータを見る限り、短期的な副反応が深刻な症状や死亡に発展するのは稀ということになるが、中期的・長期的な副反応について知るためには引き続きデータの収集が必要だ。
専門家の意見は概ね、「新しく開発されたワクチンで副反応が報告されるのは想定内であり、報告された症状のデータを分析することで、医学がさらに進歩する」というもので一致している。副反応を過剰に恐れる必要はないだろうが、「どうしても不安がある」という人もたくさんいるはずだ。最終的な判断は個人の意思が尊重されるべきだろう。
多くの人が安心してワクチンを接種するには、さらなる観察やデータ収集が必要
ドイツでは、アストラゼネカのワクチンの有効性に対する疑念から国民が接種を拒絶し、せっかく輸入したワクチンの15%しか使用されていないという報告もある。現時点においては、「パンデミックを一刻も早く終息させたい」という世界の願いとワクチン接種進捗に、大きな壁が立ちはだかっているようだ。(提供:THE OWNER)
文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)