「ユーグレナ」は、ミドリムシを意味する。東証一部上場企業の株式会社ユーグレナは、世界で初めて食用ユーグレナの屋外・大量培養に成功した。ユーグレナは動物と植物の両方の性質を備え、59種類もの栄養素を含むユニークな特徴を持つ。
現在ユーグレナ社は、微細藻類ユーグレナを活用した食品や化粧品のヘルスケア事業を中心に、ユーグレナをバイオ燃料や畜産用の飼料、肥料などへ展開する研究開発を進めている。2021年3月には、バイオジェット燃料を完成させたニュースが流れたばかりだ。
代表 出雲充氏は微細藻類ユーグレナの可能性に魅せられて、2005年にユーグレナ社を起業。周囲の否定的な意見に反し、石垣島でユーグレナの培養を成功させた。
「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を企業フィロソフィーとして掲げているユーグレナ社。どのような発想でこれまでビジネスを成立させてきたのか、その秘密に迫った。
「マーケティング発想」から逆算ではなく「問題の発見」を起点に
ユーグレナ社の事業の柱は、ヘルスケアとエネルギー・環境、研究開発の3つ。中でも主力のヘルスケア事業は売上高の殆どを占める。次に実用化・収益化を目指しているのはエネルギー・環境事業だ。
出雲氏は「サステナブル=持続可能で豊かな社会を作るために、日頃の研究で得た気付きの中から、社会の役に立てそうなものをどんどん実行しています」と胸を張る。ただし、商品開発に対する考え方や事業の進め方は、一般的な企業とは真逆だ。
ユーグレナ社は「どこに問題があるのかを発見するのが一番大事」だと考えている。一般企業のように、特定の課題を解決するために「マーケティング発想」で事業を展開しているのではない。つまり、発想の起点がそもそも異なるのだ。
長期間の研究や商品開発に時間を要するユーグレナ社の事業は、世間のニーズに応えるものをマーケティング発想で作っていては、遅い。製品化のタイミングですでに世間のニーズが変化してしまっているからだ。
「みんながすでに困っている顕在化した課題を解決するのではなく、まだ気付いていない潜在的な悩みや未来に訪れる問題を時代に先んじて試行錯誤しながら発見し、来たるべきときに備えていく。それが時代のニーズと合ったタイミングで、瞬時に対応することが大事です」
例えばユーグレナ社は創業間もない頃から「環境問題の解決のため、バイオジェット燃料を作って飛行機を飛ばす」ことを目指してきた。バイオジェット燃料が時代の求めるタイミングと合致するまで、実に10年以上もの年数を要したのだ。
「私たちは10年以上前に微細藻類ユーグレナの研究を通じてエネルギー問題の解の1つを発見し、バイオジェット燃料の開発に取り組んできました。最近こそカーボンゼロ社会や脱炭素が注目されるようになり、当社の取り組みが評価される機会は増えました。しかし、2021年現在のトレンドを予測して長期計画を立てていたわけではありません。
30年先も考え方は同じ。社会から必要とされる本質的価値の源泉がどこにあるのか、どのような切り口ならユーグレナは社会の役に立つのか、見極めていく必要があります」
発想のスケールが大きく、理想主義的ですらある。ビジネスとして成立させていることが奇跡に思えるほどだ。
AIに負けない。すべての始まりは「湧き上がる情熱」から
「会社の始まり」も、問題の発見から始まっている。
「そもそも『ユーグレナは儲かりそうだ』と将来を想像して起ち上げた会社ではないんです。未来を想像することに意味はないし、もし儲けたいならほかにもっといいビジネスがあることは分かります。
一番本質的なポイントは、自分が心の底から納得し、感動し、困難なことがあっても続けたいと思える対象かどうか。湧き上がる情熱が人には必ずあるはずです。理屈では超えられない山を超えたいと思う情熱が大事。それがないとAIに人は勝てません」
微細藻類ユーグレナの大量培養はこれまでも、多くの研究者が取り組んできたテーマだった。だからこそ難しさを知っていた人々は「実現できるわけがない」「事業化するなど無理だ」と反対した。ましてや食料や地球温暖化の問題に成功していない研究で立ち向かうなど、理屈で考えたら成し得るはずがない。
「もちろん情熱だけでは上手くいかないので、科学と掛け合わせて社会問題を解決していく必要があります。起業時、飢餓に苦しむ国の食料問題を解決するため、さまざまな栄養素が1つに詰まったものを探していたときに出会ったのが微細藻類ユーグレナでした。動物と植物の間の生きもの。それを聞いて衝撃が走ったんです。早速『ユーグレナを大量生産できないか』という問題に取り組み、可能性にかけた。周囲からはどんなに『難しい』と言われても、ユーグレナで取り組んでみようと私は思ったのです。
当初培養できたユーグレナの量は1カ月間でわずか耳かき一杯分ほど。いろんな人に相談し、助けを借りて研究を重ね『異物を混入させないクリーンな環境』を作るのではなく『ユーグレナしか生きられないような培養環境』を作るほうへ発想を転換して、成功しました」
これまでにない価値を生み出す「試行回数」と「辺境の開発拠点」
ユーグレナ社は2014年、東証一部上場を果たしている。高い理想を掲げつつ、しっかり事業を成長させてきた秘密はいったい、どこにあるのだろうか。
「当社と他社に、特別な違いはありません。もしあるとすれば、圧倒的に試行回数が多いことです。ほとんどの方が、質のいいアイデアや優秀な研究者、敏腕社長さえいれば、会社が急成長して成功すると考えています。しかしそれは誤解で、人間の能力にさほど差はありません。それでも結果に違いが出ているとすればそれは、行動したからです。当社はその点、失敗の数は相当に多い」
もう1つの秘密は、沖縄県石垣島で微細藻類ユーグレナを培養している点だ。
「革新は中央ではなく、辺境の地から生まれます。産業革命も明治維新も辺境から始まりました。何もない環境のほうがシビアで、サバイブするためにみんなが工夫するからです。辺境で生き残った技術や思想こそが、ドラスティックに世の中を変える。この考えの元、石垣島に生産技術の研究拠点を置いています」
現役高校生を最高未来責任者に迎えて問題を見つけ出す
持続可能な循環型社会を作るためには、大きく分けて2つのアプローチがある。1つは「省エネ技術」だ。これまで100%使っていた電気を、80%で済むようにする技術。2つ目は「全く新しいエネルギー」を開発すること。前者は大企業が得意だが、後者はベンチャーが取り組むべき問題だという。
「日本の特に大企業は、伝統的に省エネ技術は得意なものの、新エネルギーは不得手。その点、私たちはバイオ燃料開発に長年取り組んできました。循環型社会を作るには、省エネとは違ったアプローチのイノベーションが必要です。ベンチャーは、新しい価値創造で社会に必要とされる社会実装を続けることが大事だと考えています。
私たちは『炭鉱のカナリア』みたいなものです。社会が手遅れになる前に、誰よりも早く問題に気付き、アプローチを何百通りと試す存在。大企業が採用するには難しいアプローチです。小さくて小回りの利く私たちベンチャーが誰よりもアンテナの感度を高く、さまざまな角度から問題を発見する必要があります。そして、問題を発見した当事者として可能なところまで進みます」
一方で「ユーグレナだけでは当然、全てを解決できない」という。
「私たちはCFO=Chief Future Officer最高未来責任者として、現役高校生を会社に迎えました。役員会や株主総会にも出席し、未来を敏感に感じ取る若者の力で問題を集めてもらっています。また、グループで400名ほどの仲間が毎日、問題発見に取り組んでいます。
その上で、必要に応じて大学や他のベンチャー、大企業と幅広く連携し、オープンイノベーションで取り組む機会がここ数年、増えてきました。社会の研究機能を担う大学と、私たちのような大学発のベンチャーがタッグを組むことで、より早くより新しい問題を発見できるようになります。
繰り返しになりますが『問題発見力』と『長期にわたる研究開発』が当社の生命線。ユーグレナ社は未来永劫、得意分野を磨き、社会から必要とされる会社であり続けたいです」
出雲氏の問題意識から、持続可能な社会を実現するために始まったユーグレナ社。食料問題とエネルギー問題は、持続可能な社会を実現するための大きな鍵だ。微細藻類ユーグレナの凄さは、どちらにも転用できる点にある。ユーグレナ社は、無限の可能性を秘めている。
<会社情報>
株式会社ユーグレナ
〒108-0014 東京都港区芝5-29-11 G-BASE 田町
https://www.euglena.jp/
(提供:THE OWNER)