かつては経営危機に陥ったこともあるソニーが、近年は順調な復活ぶりを見せている。ゲーム部門での躍進のほか、音楽部門でもヒット曲を連発し、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。ソニーのこれまでの業績、そして最新決算の数字から、強さの源泉を探る。
ソニーは2009年3月期に巨額赤字を計上、かつては経営危機と言われた
若い世代の人は、ソニーがかつて経営危機とも言える状況に陥ったことを知らないかもしれない。過去の営業利益の数字を並べていくと、以下のように2009年3月期(2008年4月~2009年3月)に2,278億円という深刻な赤字額を計上している。
<ソニーの営業利益の推移>
会計年度 | 営業利益 |
---|---|
2020年3月期 | 8,454億5,900万円 |
2019年3月期 | 8,942億3,500万円 |
2018年3月期 | 7,348億6,000万円 |
2017年3月期 | 2,887億0,200万円 |
2016年3月期 | 2,941億9,700万円 |
2015年3月期 | 685億4,800万円 |
2014年3月期 | 264億9,500万円 |
2013年3月期 | 2,301億0,000万円 |
2012年3月期 | △672億7,500万円 |
2011年3月期 | 1,998億2,100万円 |
2010年3月期 | 318億0,000万円 |
2009年3月期 | △2,278億0,000万円 |
2008年3月期 | 3,745億0,000万円 |
2007年3月期 | 718億0,000万円 |
2006年3月期 | 1,913億0,000万円 |
2005年3月期 | 1,139億0,000万円 |
※出典:ソニー決算資料
2009年3月期の巨額赤字は、1995年3月期の1,666億円の赤字額を上回る、過去最悪の数字となった。世界的な消費減速によって、当時のソニーの主力製品だった液晶テレビやパソコンなどのエレクトロニクス製品の出荷台数が、大きく落ち込んだことが要因だった。
しかしソニーは、2012年3月期にも赤字を計上しているものの、その後は見事なV字回復を果たし、すでに営業利益額は2020年3月期時点で1兆円をうかがうところまで来ている。どのような事業がソニーのV字回復の立役者となったのだろうか。
最新決算、「ゲーム&ネットワークサービス」セグメントが稼ぎ頭に
V字回復について、ソニーの最新決算から紐解いていこう。
ソニーは2021年2月、2021年3月期第3四半期の連結業績(2020年4~12月)を発表した。売上高は前年同期比4.1%増の6兆7,789億4,100万円、営業利益は同11.8%増の9,053億8,500万円で、純利益は同87.0%増の1兆647億7,600万円という結果になっている。
2021年3月期の通期の業績予想では、営業利益は9,400億円になる見通しだとしており、1兆円には届かないものの、数字を大台に乗せるまでそれほど長い年数はかからないとみられる。
そして、今回の最新決算の数字をセグメント別に見ると、ソニーの稼ぎ頭となっている事業が見えてくる。
第3四半期までの累計の営業利益では、「ゲーム&ネットワークサービス」が3,091億5,200万円で首位となり、「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション」が1,506億4,900万円で2位、「音楽」が1,474億3,500万円で3位となっている。
今期は、新型コロナウイルスの感染拡大による巣ごもり需要の増加もあり、ゲーム事業の売上がスポット的に大きく伸びたことは考慮しなければならない。しかし、ソニーはエレクトロニクス製品だけで稼いでいる企業ではないことが分かる。
ソニーの今後、「モビリティ」事業が新たな柱に?
ソニーがゲーム事業に参入したのは、1993年だ。1946年に創業したソニーの歴史の中では、ゲーム事業はまだ歴史が浅いセグメントに入る。しかし、すでにゲーム事業は同社の業績の柱となるまでに成長した。
そしていま、次なる新たなソニーの柱が誕生しようとしている。それが「モビリティ」事業だ。
同社は2020年1月に「VISION-S」というコンセプト車両を発表した。ソニーが自動車メーカーになるわけではなさそうだが、このコンセプト車両にはソニーのイメージング技術やセンシング技術のほか、エンタメ向けスピーカーなどの音響製品も搭載されている。
つまり、自動車向けの技術・製品の展開を今後強化しようというソニーの方針を具現化したものがVISION-Sであり、次なる注目はソニーがこの分野で成功を果たせるのか、という点であろう。
事業の枠にとらわれない「ソニー流」の成功術
従来の事業の枠にとらわれずに新たな領域に挑む姿は、まさに「ソニー流」とも言える。かつてはウオークマンで一世を風靡したソニーだが、ゲーム事業やモビリティ関連事業において世界からさらに注目を浴びる存在になっていけるのか、今後も関心が高まっていきそうだ。(提供:THE OWNER)
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)