産業用ドローンの企画から開発・製造、販売までをてがけ、ドローン関連のセミナーまで開催する、まさにドローン一色の企業、サイトテック株式会社。

設立当初は建設会社のISO審査支援のためのシステム開発を行っていたが、付加価値を求めてドローン開発に着手。現在ではドローン事業に一本化しているという。国内最大級の大型ドローンの飛行実績を持つサイトテック株式会社の設立の経緯やドローンの開発秘話、今後の展望などについて、代表取締役社長の齊藤 邦男氏に話を聞いた。

サラリーマンから独立、競合との差別化でドローンを選択

150kg級の大型ドローン開発の第一人者が描くドローンビジネスの未来とは
(画像=サイトテック株式会社代表取締役社長 齊藤邦男氏)

――最初に、代表に就任されるまでのご経歴を教えてください。

私は元サラリーマンです。コムシス株式会社へ入社し、ソフトウェアエンジニアとしてゼロックス本社にも出入りしていました。4年ほど勤めたのち、家庭の事情で山梨にUターン。制御・ロボット系モーターを製造するオリエンタルモーター株式会社に転職しました。ここでは、全国の支店をネットワークで結び発注から納品までの支援を行う、事務系システムの設計・構築に携わりました。

その後、独立を視野に入れて東邦薬品株式会社に転職し、関東甲信越の病院などへ向け、薬の受発注システムを展開する仕事をしていしました。

独立後は実は個人事業からスタートしていまして、零細・中小企業向けに、当時出始めたパソコンによるシステム構築支援を行っていました。その中で、ある建設会社からISOの書類作成を手伝ってほしいと言われ、ISOについて学びながら施工管理技士の資格も取得。そしてその会社で培ったノウハウをシステム化したところ、口コミで次々とお客様が付いたんです。お客様の数が増え、創業5年目でサイトテック株式会社を設立しました。

――会社設立後、苦労されたのはどのようなことですか。

ISO関連のシステム開発などを行っていた時代は正直言って楽しかったです。1社月額20万円の契約で50社くらいと契約していました。システムはすでに完成していましたので、仕入れもなく経費は人件費だけでしたね。

しかし、その後競合他社が増えてきたため、付加価値として建設現場を上空から見たISO審査ができないかと考え、ドローンに目をつけました。そこが現在の事業に取り組むようになったきっかけです。

最初に3万円で購入したヨーロッパ製の発泡スチロールのドローンは、建設現場上空で風が吹くと飛ばされてしまっていました。これでは使い物にならないと、自身での開発をスタートしたわけです。無我夢中で開発に取り組み、2年後にオリジナルのドローンが完成。建設会社のほか、警視庁や山梨県警にも納品しました。その後ドローン事業が拡大すると、ISO事業をやりながらでは難しくなったため、5年くらい前に当社から独立する社員にISO事業を譲渡しました。

ドローン事業に一本化した後は、日本原子力など大手の開発案件を数千万円で受注するものの、開発に時間と労力がかかり赤字状態でした。先行き不安もあって、昨年からクリーク・アンド・リバー社にパートナーとなってもらい、ドローンの量産化をスタートしました。量産するのは当社の主力商品である、離陸総重量150kgの日本最大級のドローンです。

大型ドローンを運行できる、他社にはない強みで事業を推進

――ドローン事業で他社にない強みはどのようなものですか?

まず、当社のドローンが大型であることです。当社が安全に運航できる150kg級のドローンは、中国やヨーロッパ、アメリカなどの海外は別として、国内他社では計算上「できる」とはいうものの、実際には運航できていません。

――ドローンの開発で一番困難だったのはどんなことでしたか?

パソコンを自作する場合にたとえると、ハードディスクやマザーボード、CPU(※Central Processing Unit、中央演算処理装置)、メモリ、グラフィックボード、ディスプレイなどの部品をそれぞれ自分で買って組み立てるとします。その際、世界最高レベルの部品を買って組み立てれば、世界最高のパソコンができるかといえば、必ずしもそうではありません。部品同士の相性があるからです。いくらCPUのスピードが速くても、周辺機器がそのスピードに追いつけなければ、CPUの性能を活かせません。

これは、ドローンも全く同じです。モーターや、モーターのスピードコントローラ、フライトコントローラ、ボディまわり、バッテリなど各部品のバランスを調整するのが重要です。他の部品の性能がどんなに優れていても、1つの部品の性能がそれに追いつけなければ、全体として性能は上がりません。部品全体のチームバランス作りにもっとも苦労しています。

――今後の開発目標や、ドローンの新たな使用法についてのアイディアなどをお聞かせください。

150kg級のドローンは量産化に向けて動いていますが、今後の開発目標として、海外向けの500kg級ドローンの開発プロジェクトをすでにスタートさせています。このドローンは、最大積載量は200kg。固定翼を持ち、マルチコプターにより垂直離着陸が可能な型のものになります。エンジンは、軽油を使用したジェットエンジンを考えていますが、ゆくゆくは水素燃料電池を使用したいと思っているんです。

現在山梨県、山梨大学と燃料電池の研究を共同で行っています。昨年もドイツへ視察に行き、水素燃料電池のノウハウについて打ち合わせをしました。燃料電池での運航時間については1時間を目指しています。

――今後のドローン事業の目標としてどのようなことをお考えでしょうか?

この大型ドローンを、人の移動用にしたいと思っています。ジェットエンジンは、構造自体は単純で、開発に大きな困難はありません。ただし、それをどう安全に飛ばすかが大きな課題となってきます。また、プロペラは空気がないと揚力が発生しないため飛べないのに対し、ジェットエンジンなら空気が薄いところでも飛行できます。したがって、「エベレストの山頂まで1tの荷物を運搬する」ことを開発の最終目標とし、その中間目標として200kgの荷物が運搬できるものを今年中に目指します。それができれば、山小屋への荷物の運搬用や災害時の自衛隊の輸送機として使えるでしょう。

ドローンを国内で普及させるためには、まず「飛行の安全性を高めること」が重要です。安全性の観点において当社では現在、操縦者を育てるのか、自動飛行で飛ばすのかを重要課題として検討を進めているところです。

その次に来るのが「機体をレンタルやリースなどで提供できる仕組み作り」、次点で、「自社でのドローン購入」が視野に入ってくるでしょう。この3段階の仕組み作りを、今年急速に立ち上げていきたいと思っています。

市場のプレーヤーが手を携えドローン業界を発展させる

――会社経営をする中で一番意識されていることは何ですか?

ドローン作りでは、開発メンバーの一人ひとりの創意工夫が重要です。一人ひとりが妥協せず、常にフロンティア精神を持ちながら改良を重ねていくことが、一番大切だと思っています。妥協して売上や利益に目がくらむと、他社に抜かれてしまうでしょう。お金儲けではなく、あくまでも「お客様に喜んでもらえるドローンを作ること」をモットーとしています。

――「サステナブル」(持続可能な発展)についてどのようなご意見をお持ちですか?

ドローン事業は、莫大なお金と時間がかかるため、一社で成功しようと思うと困難です。業界の各社が同じことをするのではなく、それぞれ役割を分担しながら開発を進め、製品を一緒に市場に出していくことが必要ではないでしょうか。そういった分野で協力できる企業を探したいと思っています。

また、ドローンの加盟店を集めてフランチャイズ展開も進める予定です。セミナーの開催や大型ドローンの運搬・操縦方法教習、ドローンを利用したサービス提供、ドローンの販売を担うフランチャイズチェーン店を、今年は全国展開していきます。

ドローン量産化に向け大きな一歩を踏み出すサイトテック株式会社

国内最大である150kg級ドローンの飛行実績を持ち、業界をリードするサイトテック株式会社は、この規模のドローンの量産化に向け大きな一歩を踏み出しつつある。大幅な資本増強を行い、フランチャイズ展開も進めるという。ドローンは法整備も行われ、今後はますます幅広く活用されていくだろう。サイトテック株式会社の今後の発展に大きく期待したいところだ。(提供:THE OWNER