日本国内でも新型コロナウイルスのワクチン接種が始まり、コロナ禍の収束に向けて徐々に前進している。そのような状況のなか、アフターコロナにおいて人々の消費や行動が活発になることを見据え、この段階から人材採用の強化に乗り出す企業がすでに国内で出始めている。
経済に打撃を与えたコロナ禍は徐々に収束傾向、ワクチン接種でさらに前進
日本国内では、新型コロナウイルスの感染者数増加に伴い、2020年4月に7都府県を対象に緊急事態宣言が発令された。その後は感染者数が減ったことで緊急事態宣言も解除されたが、11月ごろから再び感染者数が増え始め、2021年1月に2度目の緊急事態宣言が出された。
1日の感染者数のピークは1月8日の7,949人で、その後は感染者数が減少傾向となり、2度目の緊急事態宣言も3月21日に全面解除された。現在では1日当たりの感染者数が1,000〜2,000人前後で推移している。
変異株の感染者が増えていることなど、まだまだ予断を許さない状況は続いているものの、新型コロナウイルス向けのワクチン接種も日本国内ですでに始まっており、現在は医療従事者が中心だが、4月から65歳以上の高齢者もワクチン接種の対象となる見込みだ。
この調子で新型コロナウイルスが収束に向かっていけば、人々の「巣ごもり」状態は徐々に緩和されていき、外出して外で消費行動を行う機会も増えていくとみられる。つまり、徐々に経済が正常に向かっていくというわけだ。
アフターコロナを見据えた人材採用の動きが徐々に活発化
コロナ禍では、多くの企業が採用活動を一定程度抑制していた。それも当然だ。業界によっては売上が大きく落ち込み、事業の継続に向けてコストカットを強いられていたからだ。2020年秋や2021年春の採用を見送った企業も少なくない。
最近になって経済の正常化の見通しが見えてきたこともあり、各社の人材採用の動きが活発化してきた。
特にしばらくの間は、自粛の反動による「リベンジ消費」が盛んになるとみられ、企業にとっては激減していた売上の穴を埋められるチャンスとなる。そして、そのチャンスを生かすためには「人手」が欠かせない。だから今のうちから採用活動を強化しているわけだ。
タクシー業界:MKグループが例年の2.5倍の2,000人を新規採用へ
たとえばタクシー業界では、主に関西で事業を展開しているMKグループが、アフターコロナに向けた採用に積極的な姿勢を見せている。具体的には、例年の2.5倍相当となる2,000人を2021年度に採用する方針だ。
コロナ禍の収束による需要の回復を見越していることは当然だが、コロナ禍をきっかけに他人との接触を抑えられるタクシーの特性が見直され、企業の役員車としてハイヤーを利用するなどの需要が高まったことも理由として挙げている。
また、コロナ禍において専用改造車による軽症患者の移送などで医療行政を支援したこともあり、今後は医療体制の支援に向けた事業展開も強化していくとしている。
ホテル・旅館業界:石川県の加賀屋グループ、ここ最近で最多の85人を採用
石川県七尾市にある老舗旅館の加賀屋グループも、アフターコロナに需要が復活することを見越して、ここ最近で最多の85人の新入社員を2021年4月に採用するようだ。
中日新聞の報道によると、人員を増やすことで宿泊客に対する「おもてなし」の態勢を強化することも狙っている。宿泊客に対するサービスの質を高めていけば、リピーターの獲得につながる。そのため海外からのインバウンド客が増える前に、サービスの質をより高めておくことを目指しているようだ。
ホームセンター業界:カインズ、EC販売増に対応するための採用枠
アフターコロナの需要回復とは少し視点は異なるが、コロナ禍でEC(電子商取引)の需要が高まったことに対応し、採用を強化している企業もある。ホームセンター大手のカインズだ。
NHKの報道によれば、通常の採用とは異なる採用枠を新たに設け、オンライン販売向けの人材の強化に乗り出すという。ちなみに同社は2020年6月、コロナ禍で内定取り消しや解雇された人などを対象に約3,000人の採用を行うことを発表したことでも注目を集めた。
早期の採用強化で、アフターコロナの「勝ち組」に
コロナ禍はまだ完全に収束しておらず、ワクチンが効かない変異株が出現し、今後猛威を振るう可能性もある。そのような中で、企業が早期に採用を強化することはリスクも伴うが、リベンジ消費によって回復するニーズをしっかりと受け止められる態勢を作っておければ、アフターコロナの「勝ち組」になれる可能性が高まる。
いずれにしても、この記事で紹介したような企業だけではなく、今後はコロナが収束に向かうに従い、採用を強化する企業は増えてくるはずだ。昨年は就職活動を行う学生の多くが苦労を伴ったが、その状況がいち早く改善することを願うばかりだ。(提供:THE OWNER)
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)