中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

「アカウンタビリティ」という言葉は、企業が利害関係者などに果たす「説明責任」として知られている。ただし、使用場面によって捉えられる範囲が不明確であるため、経営者はアカウンタビリティについての正しい知識が必要である。この記事では、アカウンタビリティについて、企業や行政機関などさまざまな場で使用されるケースについて解説する。

アカウンタビリティとは

経営者必見 企業に求められる説明責任の違いを解説
(画像=hakinmhan/stock.adobe.com)

アカウンタビリティ(Accountability)とは、「会計:accounting」と「責任:responsibility」が合わさったもので、企業が株主や債権者などのステークホルダ(利害関係者)に対して果たすべき会計上の「説明責任」を指す言葉である。

多くのシーンで使われるアカウンタビリティ

アカウンタビリティという言葉は、企業の説明責任に対してだけでなく、もっと多くのシーンで使われている。ここでは、まず企業に求められるアカウンタビリティについて解説し、その後に、その他の使われ方について説明する。

企業に求められるアカウンタビリティ

企業がアカウンタビリティを果たすべき利害関係者とは、主に株主や投資家である。特に株主に対しては会計上の説明責任があり、法律や会計基準などによって説明手段も定められているが、企業に期待されるアカウンタビリティはこうした範囲にとどまらない。

この項では、企業が果たさなければならない会計上の説明責任や、企業にアカウンタビリティが求められるその他の事項について解説する。

会計上の説明責任

会計上の説明責任とは、株主や投資家に対して、会社の財政状態と経営成績を正しく報告する義務を果たすことである。

企業は、株主からの出資や銀行等からの融資によって調達した資金を運用して経営を行う。特に株主からは、限られた経営資金を効果的に運用して利益を上げることが求められる。

そのため、企業は、会計情報をもとに資金の活用内容や事業成果を、利害関係者に説明しなければならない。会計情報には、投資家の判断を誤らせることがないよう、意思決定に有用なものであることや信頼性、内的整合性、そして比較可能性があることが求められる。

内的整合性とは、企業が用いる個別の会計基準が内的に整合しているということであり、比較可能性とは、企業の会計情報を時系列で比較できる、あるいは他企業と比較ができるということだ。

・法律上の説明義務

会計上の説明責任を果たすには、会社法や金融商品取引法に定められた法的な義務についても把握する必要がある。

『会社法第438条、第440条』では、以下のことが定められている。

・計算書類と事業報告を株主総会に提出して報告し、その承認を受けなければならない
・株主総会後は、遅滞なく貸借対照表等を公告しなければならない

『金融商品取引法第24条第1項、第193条の2』では、上場企業等は、有価証券報告書や財務諸表を金融庁に提出することが定められており、財務諸表は、会社と利害関係のない監査法人等による監査証明を受けなければならない。

<参考:会社法と金融商品取引法の会計書類の違い>

会社法の計算書類金融商品取引法の財務諸表
・貸借対照表
・損益計算書
・株主資本等変動計算書
・個別注記表
(会社計算規則第59条第1項)
・貸借対照表
・損益計算書
・株主資本等変動計算書
・キャッシュ・フロー計算書
・附属明細表
(財務諸表等規則第1条)

コーポレートガバナンス・コードで求められる説明責任

企業の取締役会に、株主に対する説明責任があることを示すものとして「コーポレートガバナンス・コード」がある。

コーポレートガバナンスとは、会社が利害関係者のために、透明かつ公正な意思決定を行うために社内で構築する仕組みのことである。上場企業の企業統治のために定められた諸原則であるが、コーポレートガバナンスが企業内で適切に機能していることは、上場審査の基準にもなっている。

(参考)日本取引所グループHP「上場審査基準

「コーポレートガバナンス・コード」は5つの基本原則、原則、補充原則からなり、4つ目の基本原則である「取締役会等の責務」では、取締役会が株主に対して負う説明責任について言及している。

以下、その説明責任に関係する部分のみを、金融庁『コーポレートガバナンス・コード原案
を元に解説する。

・基本原則4

上場会社の取締役会は、株主に対しての受託者責任と説明責任を踏まえた上で、役割と責務を適切に果たさなければならない。

・原則4-2

取締役会は、説明責任を果たすために、経営陣からの健全な提案を受け入れつつ十分な検討を行うことが求められる。

・補充原則4-10

監査役会設置会社または監査等委員会設置会社で、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していないときは、取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するために、独立社外取締役の適切な関与や助言を得ることが求められている。

その一例として、取締役会の下に、主な構成員に独立社外取締役を据えた独立した諮問委員会を設置することが示されている。

社会から期待される説明責任

企業のアカウンタビリティは、法的義務の枠を超えて社会からも期待されている。「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)」などへの関心が高まっており、自社のみが儲かればよいという企業の振る舞いは、社会からの理解を得られにくくなっている。

例えば、自社の不祥事を内部で隠蔽していたことが発覚すれば、社会から厳しい非難を受けることは想像に難くないだろう。結果的に、会社の株価の低下や顧客離れ、優秀な人材の離職など、経営基盤を揺るがすような大問題に発展することもある。

不祥事が発生したときは、刑事責任の有無などに関わらず状況を会見等で報告し、第三者委員会等によって原因を調査した上で、結果を公表するなどの誠実な対応が求められる。

企業は、法令や社会規範を守ることはもちろん、株主や債権者、従業員、顧客、取引先、地域社会といった利害関係者に対しても、情報を適切に開示しながらアカウンタビリティを果たすことが期待されている。

アカウンタビリティのその他の使われ方

アカウンタビリティは、企業の説明責任だけでなく、行政機関やAI業界、医療業界などでも使用されている言葉である。ここでは、それぞれについて説明する。

行政機関におけるアカウンタビリティ

行政機関による情報公開や政策評価において、それぞれの制度の概要説明に「アカウンタビリティ」が用いられている。

情報公開とは、行政文書の開示請求等について定めた制度であり、「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」ことを目的としている。(行政機関の保有する情報の公開に関する法律第1条)

この「説明する責務」の意味として、財務省や経済産業省のホームページでは「アカウンタビリティ」が用いられている。

(参考)経済産業省「情報公開制度について
(参考)財務省「情報公開

政策評価とは、行政機関の政策の効果等をPDCAサイクルによって客観的に分析した上で、情報を公表する制度である。政策評価もまた、情報公開と同じ説明義務が生じる。

厚労省のホームページでは、政策評価に関する概要説明として、国民に対する行政の説明責任に「アカウンタビリティ」が用いられている

(参考)厚生労働省「政策評価

IT業界におけるアカウンタビリティ

AIの技術開発が進む中、総務省では、AIによるさまざまなリスクの抑制を図るための研究が行われている。

総務省情報通信政策研究所で開催された「AIネットワーク社会推進会議」の公開資料によると、AI利活用のガイドラインとして、10個の原則が定められており、10番目に「アカウンタビリティの原則」がある。

「アカウンタビリティの原則」の内容は、AIを利用するプロバイダや企業側に求められるアカウンタビリティのことであり、「利用者は、ステークホルダに対しアカウンタビリティを果たすよう努める」というものだ。

消費者的な立場の利用者やAIの利用によって影響を受ける第三者等に、それぞれがもつ知識や能力に応じてAIの特性についての情報提供と説明を行い、アカウンタビリティを果たすことを求めたものだ。

また、消費者的利用者等のために、AIに関する利用方針を作成・公表することも求められている。

(参考)総務省HP:「AIネットワーク社会推進会議 報告書2019の公表」に掲載の「別紙1 AI利活用ガイドライン

医療業界におけるアカウンタビリティ

医療業界では、患者や家族に対する治療方針などに関する説明責任として、アカウンタビリティやインフォームドコンセントという言葉が用いられる。

インフォームドコンセントは「説明と同意」と訳され、説明するだけでなく、説明を受ける側の理解も含まれていることが明示されている。

アカウンタビリティを明確にしよう

アカウンタビリティという言葉は、企業に対してのみでなく、行政機関、医療などのさまざまな分野で、利害関係者に対して果たすべき説明責任という意味合いで使われている。

AIの事例からすると、今後もより複雑な技術や産業が誕生したときは、求められるアカウンタビリティがより具体的に国から示されることもあり得る。

アカウンタビリティには、その使い方が人によって違い、その説明責任の範囲も判断しにくいという意見もある。経営者としてアカウンタビリティを果たすためには、その適用範囲や目的、対象となるステークホルダを明確にすることを忘れてはならない。(提供:THE OWNER

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)