ネット通販が急速に台頭しつつある今、マーケティングの知識も常に更新していかなければならない。この記事では、ロングテールの意味やメリット、デメリットを解説していく。成功事例も紹介するので、ロングテール戦略に興味がある経営者は、ぜひ参考にしてほしい。

ロングテールとは?定義や由来について

AmazonやNetflixの成功の秘訣 ロングテール戦略の3つのメリット
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ロングテールとは、ニッチ商品の合計売上額が売れ筋人気商品の合計売上額を上回ることをいう。アメリカのWIRED(ワイヤード)という雑誌の編集長クリス・アンダーソンが提唱した考え方だ。

ロングテールの具体例

縦軸を販売数量、横軸を商品の種類(人気ランキング順)とした図をもとに考えてみよう。

ロングテールとは?メリット・デメリットや戦略として活かす方法を解説
(画像=THE OWNER編集部)

A~Cを売れ筋の人気商品として、3商品の合計売上額を400とする。一方、D~Tをニッチ商品として、全商品の合計売上額を414としよう。

人気商品の合計売上額をニッチ商品の合計売上額が上回っている。

ニッチ商品の売上が横に長く連なるさまが、長いしっぽのように見えることから、ロングテールといわれるようになった。

ロングテール現象は、主にインターネットを通したネット販売で見られるため、ニッチ商品をそろえて売上増加を目指す方針をロングテール戦略と呼ぶこともある。

ロングテールは文脈に応じて、熟語と組み合わせて使われることも多い。たとえば、ロングテール効果やロングテールの法則、ロングテール理論などだ。

ロングテール戦略とパレートの法則における関係

ロングテールの概要から、パレートの法則を思い出した人もいるかもしれない。

パレートの法則とは

イタリアの経済学者が発見したパレートの法則は、ごく一部の数値が全体の多くを構成していることを示す考え方だ。

全体の2割の売れ筋商品が売上全体の8割を占めているという意味で使われることが多く、パレートの法則は「80:20の法則」とも呼ばれる。

顧客全体のうち、売上の8割を生み出す2割の顧客にリソースを割くのも、パレートの法則にしたがった戦略だといえる。

店舗販売が中心だった時代においては、パレートの法則が重視されてきた。多くの商品を取り扱うよりも2割の売れ筋商品に注力したほうが、売上増加につながるという考えにもとづくのだろう。

しかし、ネット販売が増えるにつれて、パレートの法則にあてはまらない現象が起きてきた。それが、ロングテール現象だ。

ロングテール戦略では、幅広い商品を多く取り扱い、人気商品を超える売上を目指す。いわばパレートの法則にしたがった場合と真逆の戦略をとる。

ロングテール戦略とパレートの法則をもとにした戦略は、どちらが正解というわけではない。販売形態や商品の特性、販売者の財務状況なども考慮し、各々の経営に合った戦略を選ぶことが大切だ。

ロングテール戦略のメリット3つ

ロングテール戦略のメリットを3つ紹介する。

メリット1.幅広い商品で顧客のニーズに応えられる

ロングテール戦略では、幅広い商品を取り扱う。幅広い商品を取り扱えば、顧客のニーズに合った商品を届けられる。見つからなかった商品が買えた顧客は満足し、ファンになってくれるかもしれない。

メリット2.ヒット商品の土壌を整えられる

ロングテール戦略で幅広い商品を取り扱うことが、ヒット商品を生み出す土壌になりえる。

ヒット商品は、生み出そうと思って生み出せるものではない。多くの商品を取り扱うことで、結果的にヒット商品が生まれるチャンスを増やすことになる。

最近ではSNSが普及したことから、購入者の口コミや「バズる」という現象によって、突然ニッチ商品が脚光を浴びてヒット商品に変貌を遂げることもある。

メリット3.コストを抑えられる

ロングテール戦略をとる場合、必然的にECサイトを作成し、ネット販売をすることになる。実店舗をかまえて幅広い商品を取り扱おうとしても、陳列が難しかったり、多大な管理コストがかかったりして、採算が合わないからだ。

ECサイトは実店舗と比べて、コストを抑えて商品を販売できる。店舗をかまえなければ地代や家賃も節約できるほか、販売員の人件費もかからない。

ロングテール戦略のデメリット3つ

メリットの多いロングテール戦略だが、当然デメリットもある。ネット販売の形態だからといって、必ずしもロングテール戦略が成功するとは限らない。

ロングテール戦略のデメリットを3つ紹介する。

デメリット1.短期的に大きな売上を上げづらい

ロングテール戦略では、ニッチ商品の売上を少しずつ伸ばしていく。最初からヒット商品を扱う場合と比べれば、短期的に大きな売上を上げることは難しい

いずれはニッチ商品からヒット商品が生まれるかもしれないが、確実ではない。すぐに大金を稼ぎたいなら、ロングテール戦略は適していない可能性がある。

デメリット2.不良在庫や機会損失のリスクがある

ネット通販といえども、ニッチ商品を多く抱えた結果、不良在庫が発生するリスクがある。

数年にわたって商品が売れない場合、管理の手間もかかるかもしれない。商品が多ければ、負担は増すだろう。

ニッチ商品からヒット商品が生まれた場合の対応も難しい。ニッチ商品の在庫は限られているため、仮に商品がヒットしてもすぐに大量の注文に対応できない

結果的として在庫切れになり、販売の機会を損失してしまうこともある。場合によっては、発送処理や在庫切れのクレーム対応に追われることも考えられる。

デメリット3.Webマーケティングの知識がないと難しい

ロングテール戦略は、ネット通販の台頭とともに登場した。ロングテール戦略を成功させたいなら、インターネットで効果的に集客するWebマーケティングの知識やノウハウは欠かせない。

知識やノウハウがないと、ECサイトでロングテール戦略をとろうとしても、競争の土俵に上がれない可能性がある。

ECサイトで販売するなら、ECサイトに集客する仕組みを確立しなければならない。

時代や取り扱う商品に合わせて効果的なトップページを作成し、ECサイトを訪れる人の動きを分析してサイトの動線を整える必要がある。定期的に記事を更新し、SEO対策をすることが望ましい。

ロングテール戦略の成功事例3つ

ロングテール戦略の成功事例を3つ紹介する。ロングテール戦略の導入にあたって参考にしてみてほしい。

成功事例1.Amazon(アマゾン)

ロングテール戦略が注目されるきっかけとなったのが、アメリカの大手通販サイトを運営するAmazonだ。Amazonはニッチ商品を幅広く取り扱うことで、たまにしか売れない商品の売上を積み重ね、多額の売上を形成した。

書店では、書籍を置くスペースの制限から、あらゆる書籍を取り扱うことはできない。Amazonなら世界中の書籍を取り扱うことが可能だ。

世界にまたがる巨大なプラットフォームを構築したことも、Amazonのロングテール戦略の成功要因といえるかもしれない。

成功事例2.Netflix(ネットフリックス)

動画配信サービスを提供するNetflixも、ロングテール戦略を実践している企業だ。

Netflixで取り扱う商品はすべて動画データである。在庫を抱える必要がないため、ニッチな動画を提供しやすく、ロングテール戦略に適しているといえよう。

Netflixはヒット作を取り扱うだけでなく、将来的に長く視聴してもらえる作品に注力する姿勢も見せている。

成功事例3.IKEA(イケア)

リーズナブルな価格の北欧家具を販売するIKEAは、実店舗でありながらロングテール戦略で成功している事例といえるだろう。

IKEAは大規模な店舗をかまえ、幅広い商品を取り扱うことで消費者のニーズを満たしている。IKEAの店舗内を見て回るだけで楽しいという声も多い。

一方で、店舗が広すぎて迷ってしまったり、ほしい商品にたどり着けなかったりする消費者もいるかもしれない。その点、IKEAではアプリで在庫情報や商品の場所を確認できる。材質や寸法、レビューを把握するには、アプリ内のバーコードスキャナーを使う。

ロングテール戦略を成功させるにあたって、IT技術をうまく組み合わせてオフラインの悩みを解決している。

ロングテール戦略を成功させるポイント

ロングテール戦略を成功させたいなら、戦略のメリットを最大限に活かし、デメリットを最小限に抑えることが重要だ。

まず、取り扱う商品の幅をどこまで広げるか決める。在庫管理のコストや商品の販売頻度なども想定し、経営を圧迫しないよう注意したい。あわせて、ニッチ商品からヒット商品が出た場合の対応も検討しておこう。

そして、Webマーケティングについて学び、取り扱うニッチ商品の情報が必要とする消費者にきちんと届くよう、ECサイトを運営していくことも大切だ。

以上のポイントをふまえて、ロングテール戦略を経営に活かしてみてほしい。(提供:THE OWNER

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)