新年度が始まった。企業では新入社員が入社する時期だ。このような時期に経営者は「意図せぬパワハラ」の防止へ向け、改めて意識をしっかりと持つべきである。パワハラはせっかく入社した人材の流出につながるほか、メディアに暴露されれば企業の信頼が失墜しかねない。

社長のパワハラ発言を週刊誌が続々と暴露

CASIO社長「レベルが低すぎんだよ」意図せぬパワハラ回避のために経営者が絶対覚えておくべきこと
(画像=polkadot/stock.adobe.com)

最近、上場企業の社長の「暴言」が週刊誌などによって続々と暴露されている。

文春:Casa社長が「お前ぶち殺すぞ」と社員を罵倒したと暴露

週刊文春のデジタル版「文春オンライン」は2020年12月、家賃保証サービスを手掛ける上場企業、Casaの宮地正剛社長の社員に対する暴言を暴露した。文春が入手した音声データによれば、「電車に飛び込まんかい」「お前ぶち殺すぞ」などと社員を罵倒したという。

Casaは文春の取材に対し、コンプライアンス(法令遵守)上は問題がないという趣旨の回答をしていたが、その後、公式サイトにおいて「お客様、お取引先、投資家の皆様をはじめ関係各位に多大なるご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます」とした。

Casaはさらに、事実関係の解明に向けた社内調査を実施するほか、外部専門家と社外監査役で構成される特別調査委員会の設置についても発表しており、「特別調査委員会から調査報告書を受領次第、速やかな開示その他必要な対応を行ってまいります」とした。

FRIDAY:CASIO社長が「レベルが低すぎんだよ」と社員を責めたと暴露

上場企業社長のパワハラ報道は、これに留まらない。

写真週刊誌FRIDAYのオンライン版「FRIDAYデジタル」は2021年3月、大手電機メーカーであるカシオ計算機の樫尾和宏社長が「レベルが低すぎんだよ」「上期中に死んでも終わらせてください」などと社員を責める音声を入手したと明らかにした。

FRIDAYデジタルがその後に樫尾社長を取材したところ、謝罪をしてその後のフォローをした旨を語っている。

これらの報道を受けて企業の社長が考えるべきこととは?

週刊誌報道に関する企業側の調査結果が明らかになる前に、報道内容だけで企業の社長を責めることはできない。それでは一方的すぎる。

ただし、密室であっても社員がやり取りを録音していれば、このようにメディアを通じて音声が暴露される可能性があることは確かだ。最近ではチャットアプリ「LINE」のタイムラインが暴露されるケースも増えている。

このような報道を受け、企業の社長が考えるべきことは何であろうか。それは当然、音声が録音されたり、LINEにやり取りが残ったりすることに気をつけることではなく、パワハラ発言をそもそもしないことだ。

しかし、自身がパワハラ発言をしないように注意していても、結果的にパワハラになってしまうことがある。なぜか。その理由は、ハラスメントが受け手の価値観によるところが大きく、パワハラに該当しないと思って発した言葉がパワハラだと受け止められてしまうことがあるからだ。まさに「意図せぬパワハラ」だと言える。

傷つける意図がない「意図せぬパワハラ」をどう防ぐか

では「意図せぬパワハラ」となりがちな言葉としては、どのようなものがあるだろうか。

厚生労働省の「雇用環境・均等局」が2018年10月に公表した「パワーハラスメントの定義について」という資料では、「精神的な攻撃」によるパワハラの事例として、「馬鹿」「ふざけるな」「役立たず」「給料泥棒」「死ね」などの暴言を吐くことを挙げている。

ちなみにこの資料ではパワハラの概念について、以下の3点を満たすものとしており、「馬鹿」「ふざけるな」といった言動はこれらの3点を全て満たし、部下の人格を否定するような発言だとしている。

  • 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
  • 業務の適正な範囲を超えて行われること
  • 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
    (引用:https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf

社長と部下の関係によっては、お酒の席で「馬鹿」「あほ」などと社長がつい言ってしまうことがあるかもしれない。しかし、人によってはこのような言葉で大きく傷つく。社長に傷つける意図が無かったとしても、「意図せぬパワハラ」になってしまうのだ。

「意図せぬパワハラ」を防ぐためには、社長と部下の関係を判断基準とせず、自らの中でNGワードを決めることが有効な手段だ。どんな相手に対しても同じNGワードを自らに課すことで、「意図せぬパワハラ」が起こってしまう確率はかなり小さくなる。

またNGワードを決めること以外のも、社員の人権や気持ちを尊重するという、そもそもの心構えについても正していくことが必要だ。

管理職の立場にいる社員とも意識の共有を

企業の社長はこれまで述べたような視点を、管理職の立場にいる社員とも共有したいところである。企業の所帯が大きくなればなるほど、社長が見えないところで「意図せぬパワハラ」が起きている可能性が高くなるからだ。

新入社員の入社シーズンの今、早速動き出してみてはいかがだろうか。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)