THE OWNER特別連載「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」第13回目は「究極的に親子仲が悪い場合は、どうやって事業を承継していけばよいか?」という経営者のお悩みについてお答えします。

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【ご質問】
究極的に親子仲が悪い場合は、どうやって承継していけばよいでしょうか。

【ご回答】
分社化・別会社をお勧めします。正解がない中で議論するよりも、行動に移してみて結果を比較することをお勧めします。加えて、継承時の人材に気を付けてください。

ご質問、ありがとうございます。承継者(子)と被承継者(親)の意見が対立することが多い場合に事業承継方法をどうするかというご質問と存じます。分社化・別会社設立を行い、承継者・被承継者それぞれに会社を経営することをお勧めします。また、承継時に自分の信頼できる人材がいるように早めの準備を心掛けてください。

杉野 洋一(すぎの よういち)
杉野 洋一(すぎの よういち)
(同)Initiatives代表。IT系企業、会計ファームにて広くクライアントを支援する傍ら、韓国・インドにて教育・指導・通訳に従事するなど多様な文化・企業環境において活躍。中小企業診断士として独立後は中小企業を中心に「真にクライアントに寄添う経営支援」を信条とし、目標制度や管理会計に取り組んでいる。▶https://initiatives.jp/

意見の対立が発生する原因は正解がないことを議論しているから

【第13回】究極的に親子仲が悪い場合は、どうやって事業を承継していけばよいでしょうか?
(画像=THE OWNER編集部)

そもそも承継者・被承継者で意見が対立するのは、正解がハッキリ分からないことを論じているからです。Aという回答もBという回答も決定的な根拠がないので、議論は果てしなく続きます。

「経営に正解はない」とよく言われます。現在の経営学では、ある問いに対して理論的に正しい回答を導き出すのは難しいのです。未だに、絶対に儲かる方法は発明されていません。中でも、顧客(特に一般消費者)と組織(社員)は、人間の比重が大きいです分野ですので、やってみないと分からないということも多くあります。これは、経営以外の法律や数学のような分野とは大きく異なるところです。

法律であれば、条文や判例からある程度白と黒の予想がつきます。ところが、経営では、ある商品を顧客が買ってくるかは商品を顧客に持っていかないと分かりませんし、ある人事施策がAという会社ではうまく行ったのにBという会社ではうまく行かないという事態が多いのです。つまり、人間が絡む要素が大きい分野では不確定要素が大きくなります。

答えがないものについて議論し、互いに得るものがないのであれば、議論を止めてしまいましょう。企業経営というのは、社員の働きを最大化して顧客に評価してもらうことと考えられます。従って、その為の方法を議論してみたところで、組織が活性化するわけでも、顧客の評価が高まるわけでもありません。議論よりも組織活性化策や売上増加策の実行に注力した方が良いのです。

分社化・別会社化で議論を回避

議論を止めてどうするのかというと、それぞれの意見を実践します。実践した結果を持ち寄れば、議論の内容は深まります。やってみないと分からないことはやってみて結論を出しましょう。

そうはいっても承継者・被承継者が同じ会社にいると、最終的に一つの結論しか選択できない状況もあります。そこで、承継者は別の会社を経営し、被承継者は既存会社を経営することをお勧めします。具体的には既存会社を分社化したり、承継者が新会社設立を行ったりする方法があります。飽くまでそれぞれの会社の最終決定権はそれぞれにあるという前提を堅持します。それぞれが、人事、予算などの経営権の全てを掌握し、自分の信念を元に、自分の会社を経営します。自分の思う通りに経営してみてください。その方が結果が速いので、成長も速くなります。

両者は互いに結果を明らかにしてください。幸い、企業の財務諸表は共通の基準で作成されている筈ですので、比較してよく見てみましょう。それぞれが自分の会社の利益を最大化する目的でヒントはないかという視点で話せば、諍いは発生しづらくなります。

大事なことは自分の思う通りにやってみて、結果・実績を元に議論すること

先ほど、分社化や新会社設立と書きましたが、事業部制や社内カンパニー制といった組織体制を活用することもできます。このような組織形態では、法人は同じなので、自由に権限を設計することができます。例えば、経理や決算申告は特に拘りがないので共有するということも可能です。お互いに口出ししない範囲と共有する範囲をキッチリ決めておけば良いということです。一般的に事業部制というと売上、費用、利益を事業部毎に明確に分ける制度を言い、社内カンパニー制というと資金繰りも含めて採算単位(社内カンパニー)の責任とする例が多いようです。

事業部制や社内カンパニー制の基礎となる財務諸表を部門ごとに分割する機能は、今は大抵の経理システムにあります。ご関心があれば調べてみてください。

大事なことは、各自が自分の思い通りにやってみることと、結果・実績を元に議論することです。前提を結果・実績に置くことで、少なくとも前提が崩れない議論ができます。

承継に向けて、特に人材に注意

分社化や新会社設立まで、しっかりやることをお勧めしますが、それ以外に承継者(子)、被承継者(親)の仲が悪い場合には事業の引継ぎがしっかりされないことを前提として考える必要があります。事業承継には、資産の承継、経営権の承継、組織の承継という3つの要素があります。このうち、資産と経営権はどちらかというと法律論であり、議論の余地は少なく法律通りに決まっていきます。例えば、株式を相続するための相続税はいくらで、代表取締役として承継者が選任されるために何の手続きが必要かなど、法律で決まっているのでそれに従って進めれば良いということになります。

一方で、組織の承継という意味では、会社の情報が掴みにくいという課題が発生しがちです。例えば、まず考えられるのが、ビジネスモデルの要点、重要得意先等の情報です。それらに加えて、特に経営幹部と承継者(子)との信頼関係が築かれにくいという課題が深刻です。承継者は四面楚歌の中で事業を引き継ぐことになりかねません。親子仲が良好でも、中小企業の場合には経営者の交代が組織に深刻な影響を与え、大量の離職者が発生する事態になったという話は頻繁にあります。経営者の交代だけでも大変ですが、加えて経営幹部と承継者の間に信頼関係がないとなると、尚更大変です。被承継者(親)がご勇退なさる年齢になれば、今の会社の経営幹部の皆さんの定年も視野に入れる必要があります。

そんな時に頼りになるのは承継者の方の右腕、左腕です。即ち信頼関係が築かれており、経営幹部を任せられる人材です。こうした人材を獲得、育成していくには、やはりそれなりの舞台を揃え、一緒に経験を積んでいく必要があります。ご存じの通り、人材は獲得してきて直ぐに機能することもないですし、相性も大きく影響します。経験も必要です。離職もあります。承継時に自分の右腕、左腕となる人材がいれば心強いですよね。そのためにも会社を分けてやっていくことは役に立ちます。

如何だったでしょうか。ご参考になりましたか。引き続き質問を受け付けておりますので、ご不明な点がございましたら、ご一報ください。(提供:THE OWNER