株価が常に変動する株式投資では、売りタイミングを逃さないことがきわめて重要です。売却手順の確認や必要書類の準備を事前に済ませておくことも、好機をとらえるためには大事な要素といえます。投資収益の申告方法とあわせて、マスターしておくと安心です。
目次
株の売却手続き、手順はどうする?
「利益目標を達成した」「使い道ができたので現金化したい」「株価が下がる前に売却したい」など、株式投資では売却が必要になるタイミングがあります。売却はどのような手順で行えばよいのでしょうか。
株売却の手順1:売り注文
株を売却するにはまず、証券会社に売り注文を出します。値動きを見ながらリアルタイムで売却したい場合は、証券取引所が開いている時間に売り注文を行う必要があります。証券取引所の開所時間は、表1のとおりです。
▽表1.証券取引所の開所時間
項目 | 詳細 | |
---|---|---|
取引時間 | 東京証券取引所 | 前場(ぜんば):9時~11時30分 後場(ごば):12時30分~15時 |
名古屋証券取引所 福岡証券取引所 札幌証券取引所 |
前場:9時~11時30分 後場:12時30分~15時30分 |
注文方法には、インターネット注文、コールセンターへの電話注文、窓口での注文があります。注文方法により手数料が異なるため、事前に確認しておきましょう。一般的には窓口やコールセンターでの注文よりも、投資家自身で手続きをおこなうインターネット注文のほうが安く設定されています。
インターネット注文では、ログイン時にログインIDやパスワードを入力することで本人確認ができますが、コールセンターや窓口注文では本人確認書類や口座番号が必要となるため、手元に準備しておく必要があります。売買の手間やコストの少なさを重視するなら、オンラインですべてが完結するネット証券が便利です。
株売却の手順2:約定から入金を
株式の売却代金は、取引の成立を意味する「約定」から2営業日後に受け渡しが行われます。月曜日に売却注文が成立した場合の入金は水曜日に、金曜日の約定分は火曜日の入金となります。
約定と入金にはタイムラグがあるので、手元に現金がないばかりに、不本意な株価で売却しなければならないというケースも起こります。急な物入りに備える意味でも、投資運用は余裕資金で行うことが重要です。
「指値注文」と「成行注文」
売買注文には、「指値(さしね)注文」と「成行(なりゆき)注文」の2種類があります。同じタイミングで発注したとしても、選んだ注文方法により約定価格や、約定のタイミングに差がでることがあるため注意が必要です。それぞれの特徴を確認し、状況に合った注文方法を使い分けましょう。
約定価格を指定して取引する「指値注文」
指値注文とは、約定価格を指定して注文する方法です。指値注文を出しておけば、希望の価格よりも有利な条件での約定が可能になると、自動的に売買手続きが行われます。
▽表2.指値注文のメリットおよびデメリット
メリット | デメリット |
---|---|
・想定外の株価で約定する心配がない ・株価を常にチェックする必要がない |
株価の値動きによっては、約定できない可能性がある |
指値注文は、あくまでも希望価格での売買を優先させる注文方法です。そのため、想定外の価格での約定を避けたい場合などに、適した注文方法だといえるでしょう。ただし、希望の価格がつかない場合は、注文の有効期限内に約定が成立しない可能性もあります。早期の現金化が必要な場合は、注意が必要です。
なお、設定できる指値注文の有効期限は、当日中や今週中、あるいは15営業日以内など、証券会社ごとに決められています。
確実な売却を目指せる「成行注文」
成行注文とは、現在の市場価格ですぐに売買を行う方法です。
▽表3.成行注文のメリットおよびデメリット
メリット | デメリット |
---|---|
確実に取引を成立させられる | 想定外の株価で約定する可能性がある |
成行注文は、できるだけ早く約定を目指す注文方法です。現在の株価で売却したい場合に適した注文方法といえるでしょう。ただし、株価は常に変動しており、注文手続きの間に大きな値動きが起こり、想定とは異なる価格での約定となるケースもあります。
売却益は確定申告が必要?
株式の売却により売却益が発生した場合には、納税が必要です。株を取引する証券総合口座には、「特定口座(源泉徴収あり)」「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座」の3種類があります。どの口座で取引しているかにより、確定申告の必要性や手続き方法が異なります。
口座1:特定口座(源泉徴収あり)
特定口座(源泉徴収あり)は、1年間の取引内容を計算しまとめた「年間取引報告書」が証券会社から発行されます。そのため、投資家自身で損益などを計算する手間がなく、比較的簡単な手続きで確定申告ができます。
▽表4.特定口座(源泉徴収あり)の概要
項目 | 詳細 |
---|---|
売却益の源泉徴収 | あり |
分配金・配当金の源泉徴収 | あり |
口座内の損益通算 | あり |
他口座との損益通算 | 確定申告すれば可能 |
年間取引報告書の発行 | あり |
特定口座(源泉徴収あり)は、利益に対する税金が源泉徴収されるため、原則として確定申告の必要はありませんが、下記の場合は確定申告が必要です。
- 他の口座と損益通算する場合
- 特定口座の損失のうち、損益通算しきれなった分を来年以降(最長3年間)に繰り越す場合
「損益通算」とは、所得から損失を差し引き、課税所得を小さくする手法です。上場株式の取引で出た損失は、他の株式の収益から差し引くことができ、同じ年度で損益通算できなかった分は「譲渡損失の繰越控除制度」を利用して、以降3年間の収益からも差し引くことができます。
口座2:特定口座(源泉徴収なし)
特定口座(源泉徴収なし)は、原則として確定申告が必要な口座です。
▽表5.特定口座(源泉徴収なし)の概要
項目 | 詳細 |
---|---|
売却益の源泉徴収 | なし |
分配金・配当金の源泉徴収 | あり |
口座内の損益通算 | 可能 |
他口座との損益通算 | 可能 |
年間取引報告書の発行 | あり |
特定口座(源泉徴収なし)では、売却益の源泉徴収や口座内の損益通算がされません。そのため、原則として確定申告による納税が必要になります。なお年間取引報告書は発行されるため、下記の「一般口座」よりは確定申告の手間は小さくなります。
口座3:一般口座
一般口座も原則として確定申告が必要です。
▽表6.一般口座の概要
項目 | 詳細 |
---|---|
売却益の源泉徴収 | なし |
分配金・配当金の源泉徴収 | あり |
口座内の損益通算 | 可能 |
他口座との損益通算 | 可能 |
年間取引報告書の発行 | なし |
一般口座と特定口座(源泉徴収なし)の違いは、年間取引報告書の発行の有無です。一般口座では、報告書が発行されません。そのため、確定申告時には投資家自身が年間の取引をまとめ、損益の計算をする必要があります。一般口座は、確定申告の手続きに手間がかかるため、新規で開設する人は少ない傾向があります。
なお、特定口座は上場株式・投資信託・ETF(上場投資信託)を取引できる口座です。未公開株などそれ以外の取引をする人は、一般口座を開設する必要があります。
利益に税金が発生しないNISA口座の場合はどうなるの?
特定口座および一般口座は、利益に税金が発生する「課税口座」ですが、株取引できる口座には、限度額内の取引についての税金が非課税となる「NISA口座」もあります。NISA口座での取引に対する税金は、どのような取り扱いとなるのでしょうか。
株取引ができるのは一般NISA口座とジュニアNISA口座
NISAとは、株や投資信託などへの投資から得た利益にかかる20%の税金が非課税となる制度です。投資による資産形成を促すため、2014年にスタートしました。NISA制度を利用した投資には、コストとなる税金を抑えることで、効率のよい資産形成を目指せるメリットがあります。
NISAでは、3種類の口座から投資目的などに合ったものを選び、投資をおこないます。3つの口座の特徴は下図の通りです。
▽表7.3つのNISA口座における特徴のまとめ
一般NISA | つみたてNISA | ジュニアNISA | |
---|---|---|---|
利用できる人 | 日本在住の20歳以上の人 | 日本在住の0~19歳の人 | |
非課税対象 | 株や投資信託などへの投資から得られる値上がり益・分配金・配当金 | 金融庁が認める一定の投資信託・ETFから得られる分配金および値上がり益 | 株や投資信託などへの投資から得られる値上がり益・分配金・配当金 |
非課税投資枠(投資の上限) | 新規投資額で毎年120万円 | 新規投資額で毎年40万円 | 新規投資額で毎年80万円 |
非課税期間 | 最長5年 | 最長20年 | 最長5年 |
なお、NISA口座は1人1口座しか開設できません。種類が違う口座の併用も不可です。
NISAで売却する際のポイントは?
非課税制度であるNISA口座での取引は、そもそも課税対象ではありません。そのため、取引内容に関わらず確定申告は不要です。では、NISA口座で運用する株式を売却する際にはどのような点に注意したらよいのでしょうか。
・ポイント1:非課税枠は再利用できない
NISA口座で運用する際に見落としがちなのは、非課税投資枠が再利用できない点です。たとえば一般NISAで100万円の投資をすると、その年の非課税投資枠の残りは20万円です。投資した100万円のうち、30万円分を売却したとしても、非課税投資枠が50万円に増えることはありません。120万円以上の投資資金を用意している場合は、どの銘柄をNISA口座で取引すれば投資効率が向上するかを考える必要があります。
・ポイント2:ジュニアNISAは原則として拠出金の引出制限がある
ジュニアNISAは、未成年者名義で口座を開設し、親権者となる親や祖父母が資金の拠出と運用管理をおこなう口座です。ジュニアNISAの目的は、学費など子供が必要とする資金の形成です。そのため、名義人の未成年者が18歳を迎えるまでは原則として資金の引き出しができません。やむを得ない事情があれば拠出金の引出も可能ですが、その場合には過去の利益にさかのぼって課税される点に注意しましょう。
なお、ジュニアNISAは2023年に制度が終了します。制度終了後には制限は解除され、いつでも拠出金を引き出せるようになります。
・ポイント3:確定申告は原則不要。損益通算の対象外になる点には注意
先述のとおり、NISA口座の取引は確定申告が不要です。手続きの手間や負担がなく、誰でも利用しやすい制度といえるでしょう。ただし、NISA口座以外に課税口座でも運用資産を保有している人は、注意が必要です。なぜなら、損益通算の対象外となるNISA口座を利用したことにより、課税額が上がってしまうケースがあるからです。
課税口座とNISA口座で運用した場合と、2つの課税口座で運用した場合の課税額をシミュレーションしてみます。
▽表8.NISA口座の利用の有無による課税額シミュレーション
利用口座1の運用実績 | 利用口座2の運用実績 | 課税対象額 | |
---|---|---|---|
ケース1 | 課税口座で50万円の利益 | NISA口座で10万円の利益 | 50万円 |
ケース2 | NISA口座で30万円の損失 | 50万円 | |
ケース3 | 課税口座で10万円の利益 | 60万円 | |
ケース4 | 課税口座で30万円の損失 | 20万円 | |
ケース5 | 課税口座で50万円の損失 | NISA口座で10万円の利益 | 0円 |
ケース6 | NISA口座で30万円の損失 | 0円 | |
ケース7 | 課税口座で10万円の利益 | 0円 | |
ケース8 | 課税口座で30万円の損失 | 0円 |
課税口座で利益が出ているケースでは、NISA口座を利用することで課税対象額が大きくなる可能性もあります。2つ以上の口座で資産運用をおこなっている場合には、運用状況などをよく確認し、NISA口座か課税口座かを決めることが重要です。
まとめ:売却に関する手間や必要書類を減らしたいなら、ネット証券とNISAを活用しよう
株の売却で大切なことはとにかくタイミングです。売りどきに正解はありませんが、指値と成り行きの2つの注文方法を駆使し、不本意な取引にならないよう注意しましょう。株式投資における売却の手間を減らしスムーズに手続きを進めるには、ネット証券が便利です。また、非課税のNISA口座は確定申告の手間をも軽減してくれます。
文・N.ヤマモト
都市銀行にてファイナンシャルプランナーとして主に、富裕層の資産形成・運用相談を担当。投資信託や保険商品・債券・外貨預金の販売に携わる。その後はWEBライターとして、投資や資産形成についての情報を発信。子供の学費や老後資金作りのため、自らも20代から資産運用を続けている
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