本記事は、高橋克英氏の著書『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』(講談社)の中から一部を抜粋・編集しています

地価上昇率6年連続全国1位

ニセコアンヌプリ
(画像=kazuto_yossy/PIXTA)

ニセコは、富士山に似た姿から蝦夷富士とも呼ばれる北海道の名峰・羊蹄山とニセコアンヌプリを主峰とするニセコ連峰に囲まれ、日本一の清流といわれる尻別川が流れる自然豊かな場所だ。スキーシーズンはもちろん、グリーンシーズンも、尻別川でのラフティング、羊蹄山麓でのサイクリング、登山、ゴルフなどのアウトドアスポーツが盛んだ。豊富な羊蹄山の伏流水を利用し、じゃがいもやメロン、アスパラガスなどの農業も行われている。

国税庁が2020年7月に発表した路線価(2020年1月1日時点)によると、全国約32万地点の標準宅地における上昇率で6年連続全国1位となったのがニセコだ。全国平均上昇率が1.6%に対して、ニセコリゾートの中心地である「ひらふ坂」にある俱知安町山田(道道ニセコ高原比羅夫線通り)の上昇率はなんと50.0%だ。2014年の1㎡当たりの評価額5万円から、2020年には72万円と14.4倍に跳ね上がっている。札幌市中心部の中央区南1条西11丁目(石山通り)を上回り、評価額でも北海道内3番目という。

もっとも、東京という極限まで有効活用が進んだ密集地・集積地で長年暮らしている筆者の印象からすると、現地を見る限り、自然が広がるニセコエリア全体はむろん、ひらふ地区であっても、低層利用地や老朽化した建物や空き地もあり、縦にも横にも地下にも隙間にも有効活用できる土地や空間があり、開発や発展余地がまだいくらでもあるのではと思ってしまう。自然環境とのバランスを取る必要はあるものの、まだまだ上昇余地はありそうだ。参考までに、路線価全国1位は、35年連続で東京都中央区銀座5丁目(銀座中央通り)の文具店「鳩居堂」前で、1㎡4592万円だ。

北海道内の最高地点は、15年連続でJR札幌駅南口の札幌ステラプレイス前(札幌市中央区北5条西3丁目)。2030年の北海道新幹線乗り入れに伴う駅周辺再開発の影響もあり、1㎡当たりの評価額は前年比17.2%上昇の572万円に達している。

なお、国土交通省より2020年3月に発表された公示地価(2020年1月1日時点)においても、ニセコエリアの中核を成す俱知安町の住宅地の上昇率が44.0%と5年連続全国トップで、上昇率1位と2位をニセコが占めた。更に商業地でも57.5%と全国トップとなり、まさにニセコが他を圧倒している。

北海道の南西部に位置し、札幌から車で約2時間の距離にある「ニセコ」は、一般的に、俱知安町・ニセコ町・蘭越町からなるエリアを指すことが多い。「ニセコ観光圏」とも呼ばれている(図表1-1)。

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(画像=『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』より)

その大宗を占めるのが俱知安町である。ニセコにある、ひらふ、花園、ニセコビレッジ、アンヌプリ、モイワの5つの主要スキー場のうち、最大規模のひらふと花園は俱知安町にあり、ニセコビレッジ、アンヌプリ、モイワはニセコ町に属しており、これらスキー場が一体となって、一大スキーリゾート地を形成している(図表1-2)。

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(画像=『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』より)

一棟5億円超の別荘群が出迎え

新千歳空港に降り立ち、新緑で覆われた北海道の大地を貫く一本道を運転すること2時間。一面白い花をつけたじゃがいも畑を抜けて、尻別川をまたぐサンモリッツ大橋に差し掛かると、右手に突如巨大な建造物群が現れる。「パノラマニセコ」の別荘群だ。ヴィラなど12戸、レストラン、カフェが備わるクラブハウス1戸からなり、このうちすでに8棟は販売済みで、更にタウンハウスが2棟建設中だ。

たとえば、432㎡のヴィラ(タイプ2)は、2つのマスターベッドルームを含む全5部屋のバスルーム付き寝室があり、天然温泉が引かれ、露天風呂もある。24時間対応のコンシェルジュサービスや送迎サービスなども付き、部屋からは「蝦夷富士」と呼ばれる北海道の名峰・羊蹄山、反対側からはニセコアンヌプリのスキー場がみえる絶好の場所にある。5億3800万円で販売中だ(写真1-1)。これらは、オーナーの意向によっては、貸別荘として宿泊可能なものもあり、グリーンシーズン(夏場)では1泊15万円台から利用が可能だ。コロナ禍ながら、新しいスキーシーズン(1泊23万円台から)の予約も徐々に埋まりつつある。

写真1-1「パノラマニセコ」

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(画像=『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』より)

(出所)マリブジャパン

ニセコの中心街であるひらふ坂を目指し、更に進んでいくと、別荘やペンションに飲食店などが増えてきて賑やかになってくる。

そのなかでも一際目立つのは、シンガポールの大手不動産開発会社SC Global 社による「雪ニセコ」の建設現場だ(写真1-2)。英語と中国語表記の建設看板で囲われた建物は、2021年12月に竣工予定の全190戸の高級コンドミニアムで、コロナ禍下の2020年3月であっても最上階にある8億円を超えるようなペントハウスがアジア系の海外富裕層に売れていたという。

写真1-2「雪ニセコ」の建設現場

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(画像=『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』より)

(出所)マリブジャパン

進む高級コンドミニアムの建設

更に進むと、「四季ニセコ」の建物には、2020年9月から新たにタイ資本が運営するホテル「チャトリウムニセコ」やミシュラン1つ星のレストランKamimura があり、東急リゾートサービスが運営する「綾ニセコ」、そして「ザ・ヴェール・ニセコ」といった高級コンドミニアム(ホテルコンドミニアム)などもみえてくる。これらホテルコンドミニアムは、一棟の建物に区分所有権を設定し、戸別に分譲販売するものの、ホテルとして一体的に運営する形態を採っている。長期滞在し、夕食は外でとることを好む外国人から好まれやすい。これから先、本書で紹介するニセコの高級コンドミニアムやレジデンスは、すべてホテルコンドミニアムの形態を採っている。

高級コンドミニアム「ザ・ヴェール・ニセコ」の最上階に位置するペントハウスは、ニセコでも最高級とされる部屋の一つだ。187㎡の広さにプレミアム暖炉、バスルーム3つを備え、天井まで届く大きな窓からは羊蹄山の壮大な眺めが一望できる。スキー後は開放感あふれる57㎡を誇るバルコニーの露天風呂でゆっくりと星空を眺めながらリラックスできる。ペントハウスはトップシーズンでは1泊50万円を超えるが、それでも満室になる。

北海道のご当地コンビニであるセイコーマートのニセコひらふ店は、富裕層を中心とした外国人観光客や移住者を意識した店舗となっており、国際クレジットカード対応可能な銀行ATMに外貨両替機(写真1-3)、Tim Tamなど豪州で人気のスナック菓子やイギリスパンなど食品類、そして種類豊富なワイン類が並んでいる。3万円近いドンペリニヨンなど高級シャンパンも棚に鎮座している。ここはコンビニなのにだ。

写真1-3外貨両替機と国際対応ATM

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(画像=『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』より)

(出所)マリブジャパン

右折して、ひらふ坂からニセコアンヌプリの頂を望む。この一帯が、毎年話題になる、路線価で6年連続地価上昇率全国1位の場所であり、ニセコの中心地だ。スキーシーズンには、パウダースノーを求めてやってきたオーストラリア人やアメリカ人や華僑を中心に、多くのスキーヤー、スノーボーダーが温泉とともにシーズンを楽しむ。雪景色だけをみにくるアジアからの観光客も多い。夜の9時10時でも人通りが絶えないほど賑わっている。

街並みもまるで欧州や北米の高級スキーリゾートのようだ。ショップの看板や広告は英語表記だけのものも多い。ショップの客も従業員も外国人。冬のニセコは、日本で最も外国人率が高い街で、もはやここは日本であって日本ではない。ひらふ十字路を中心に、スキー場のリフトに乗る地点までのひらふ坂の両側には、欧風デザインのホテルや近代的なコンドミニアムが並んでおり、その多くが外国資本による外国人相手のものだ。

ひらふ坂を上っていくと、ニセコグラン・ヒラフスキー場のゲレンデが目の前にそびえ立つ。同スキー場は、主に5つあるニセコのスキー場の中でも総面積135haと最大規模となり、最長滑走距離5300m、最大斜度40度、標高差940m、リフト数12、コース数24を誇る。ひらふ地区は、ニセコが世界的なスキーリゾートになる前から栄えてきた場所だ。そのため、紹介してきたメインストリートであるひらふ坂を除けば、一歩入れば道は入り組んでおり、かつ狭く砂利道や行き止まりもあったりする。個人の経営するペンションや飲食店が軒を連ねるなか、外国資本による大型のコンドミニアムやホテルが建ち、混沌とした活気あるエリアでもある。

ニセコグラン・ヒラフスキー場前の一等地には、高級コンドミニアムの「スカイニセコ」、建て替え計画もあるとされる東急不動産グループによる「ホテルニセコアルペン」がある。香港系の不動産開発会社「ヒラフキャピタル合同会社」による高級ホテルの「山さん翠すいニセコ」(客室53 室)は、2021年シーズンに開業予定だ。スキーを履いたままホテル前からゲレンデに出られる「スキーイン・スキーアウト」が可能な好立地にある。投資家に部屋を分譲するホテルコンドミニアムではなく、ヒラフキャピタルが開業後もホテルを所有し、自ら運営するという。

別の高級コンドミニアムの「木き ニセコ」は、温泉、レストラン、客室96室を備えた一棟建てだ。ほぼすべてが外国人所有であるが、一部がリセール(再販)されており、羊蹄山を望むジャグジー付きのペントハウスが6億円、一般的な部屋でも1億円を超える価格で売買されている(写真1-4)。

写真1-4「木ニセコ」のペントハウス

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(画像=『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』より)

(出所)マリブジャパン

この木ニセコとスカイニセコの間にある超一等地には、かつて東急不動産グループが所有していた「ニセコ高原ホテル」があったが、外資系ファンドに売却され、長らく更地となっていた。しかし現在、韓国の財閥であるハンファグループによる高級コンドミニアムの建設計画が始動しており、温泉調査のための掘削機が立てられている。北海道新聞(2020年5月30日)によると、高級コンドミニアムは地上7階地下2階で100室規模となり、スキーイン・スキーアウトが可能となる予定だ。韓国大手企業がニセコで大型開発を計画するのは初めてになるという。

なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末
高橋克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン代表取締役。1969年生まれ、岐阜県出身。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて四半世紀、主に銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザーとして活躍。その後独立して金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60か国以上を訪問し、バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、イタリア湖水地方、ハワイ、ニセコ、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」シリーズの著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)など。

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