本記事は、高橋克英氏の著書『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』(講談社)の中から一部を抜粋・編集しています

ホテルコンドミニアムという錬金術

不動産投資
(画像=PIXTA)

●ホテルコンドミニアムの仕組み

コロナ禍下にもかかわらず、ニセコでは高級コンドミニアムや別荘の建設が続き、不動産投資が続いている。なぜコロナでもニセコは沈まないのか。その最大の理由は、単純な話、儲かるからだ。

わけてもニセコにおけるホテルコンドミニアムこそが儲かる仕組みであり、一種の錬金術なのだ。ホテルコンドミニアムは、2003年には、ひらふ坂の裏手で今も営業する「ファーストトラックス」1棟だけだったのが、いまや俱知安町だけで約330棟にまで増えている。

完成前から分譲マンションのように部屋ごとに販売され、購入希望者は不動産開発会社または不動産仲介会社から一部屋の所有権を購入し、オーナーとなる。その際、別途、不動産管理会社と管理契約を結び、オーナー自身が宿泊利用しないときは、一般客にホテルのように貸し出し、経費を差し引いた宿泊料金を収入(客室レンタル収入)として得ることができるのが、ホテルコンドミニアムの仕組みだ(図表3-1)。

3-1
(画像=『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』より)

たとえば、客室レンタル収入が100%とすると、レンタル促進費用とレンタルプログラム管理費用などが管理会社から差し引かれ80%となり、80%のうち多い場合で40%程度がオーナー側の実質宿泊レンタル収入となる契約が一般的だ。スキーシーズンでは1泊20万円を超える料金も珍しくはないが、1泊20万円の宿泊料金であれば、6万円強がオーナーの手元に入ることになる。当然ながら宿泊料金の単価が高ければ高いほど、また一般客による宿泊利用期間が長ければ長いほど、オーナーの実質宿泊レンタル収入は増え、インカムゲインを得ることができる。

こうしたホテル利用に関わる宿泊予約や料金の管理や調整、プロモーション、ハウスキーピングや修繕などはむろん、口座管理や報告書作成などを一括して行う地元の不動産会社が、オーストラリア出身者などによっていくつか設立され経営されている。海外の投資家にとっては、英語などコミュニケーションの問題を含め安心材料になっており、ニセコに投資を呼び込むことにも寄与している。

所有者であるオーナーももちろん部屋を利用することができる。所有する部屋は通常はホテルとして運用されているため、ホテルとしての快適なサービスを享受できるのだ。

海外の高級リゾート物件投資では、ホテルコンドミニアムは一般的なもので、富裕層にもなじみ深い投資手法の一つである。

英国の高級経済紙Financial Times のウィークエンド版のHouse & Home にある「Property Gallery」には、カラー写真付きで、英国だけでなく、フランス、スイス、スペイン、モナコをはじめ、欧州アルプスや地中海やカリブ海、米国を含め世界中の高級ホテルコンドミニアムの広告が、世界的なオークションハウスであるサザビーズやクリスティーズ、またバークシャーハサウェイといった高級不動産仲介会社によって掲載されており、世界の高級不動産物件のトレンドや水準を感じることができる。

なお、日本の別荘やマンション、邸宅の物件が掲載されることもあり、ウェブ版では東京や軽井沢や伊豆の高級マンションや別荘物件だけでなく、ニセコの高級コンドミニアムなどの物件も紹介されている。

もっとも、オーナーが私物を退避させる􄼴付きのオーナー専用ロッカーなどのストックベースはあるものの、オーナーの私物を置けない(置いても盗難や損傷リスクあり)、ベッドルームやバスルームを他人に使われる、という点で抵抗感があるオーナーもいる。日本人には特に多い印象だ。自己利用を基本的に想定せず、年末年始などピークシーズンを含め貸し出しに回し、純粋な投資商品として割り切るか、または逆にインカムゲインを求めずに自身の別荘として利用するか、という選択も出てこよう。

とはいえ、日本にホテルコンドミニアムはニセコ以外では京都や沖縄の一部などにしかなく、富良野や白馬などでも増えつつあるものの、まだまだ馴染みのない仕組みだ。ちなみに、2016年に開業した京都にある「フォーシーズンズホテルレジデンス京都」は、ホテルレジデンスとしての総戸数は57戸であり、リビングやダイニングに加え、キッチンや洗濯機まで備えてあり、4億円台から10億円台で販売された。現在はリセールで1ベッドルーム106㎡の部屋が7億円で売り出されていたりする。

●キャピタルゲインが見込める

ただし、ニセコの高級ホテルコンドミニアムの場合、インカムゲインはコロナ禍前でも実質1〜3%程度だった。オーナー自身が利用できるメリットはあるものの、東京など首都圏などでのレジデンス向け不動産投資がおおむね実質3〜5%前後の利回りがあることと比べれば、インカムゲインそのものにそれほど魅力があるようにはみえない。為替リスクなど条件はあるものの、海外不動産の投資利回りからみれば雀の涙のようにもみえる。

では、何が儲かるのか。それはニセコの場合、キャピタルゲインが狙えるのだ。ニセコの地価は6年連続上昇率全国1位。過去5年間で10倍以上に跳ね上がった不動産もざらにある。海外投資家の目線は、インカムゲインではなく、あくまでキャピタルゲインだ。1室1億円の物件が倍の値段で売れれば、税引き後でも相応のキャピタルゲインを得ることができるのだ。

いまだデフレ経済から抜け出し切れていない日本の不動産市場は、世界からみると、もう四半世紀以上蚊帳の外のままだ。人口減少や経済の停滞を考えれば、この先も大きな期待はできないというレッテルが貼られてしまっている。そもそも日本人自身の多くが同じように、いやそれ以上に国内の不動産投資に悲観的でもある。

そんななかで、ニセコだけが、キャピタルゲインが実際に得られた、そして今後も得られる期待がある場所として注目されてきた。デフレ下の日本の不動産市場において、ニセコほどキャピタルゲインが期待できるエリアは、東京都心などを含め、ほとんどないはずだ。

●資産価値維持でむしろメリット

錬金術を生むホテルコンドミニアムも、一般的な分譲マンションと同様、築10年以上たつと、外壁の補修や屋根の防水工事など大規模修繕工事が必要となる。ホテルコンドミニアムの改修費は、各部屋の所有者が管理費とは別に、修繕積立金として毎月積み立てることになる。コストである修繕積立額を高く設定すれば、賃貸収入から得られる実質利回りはその分低くなる。一方で、修繕積立金を抑え、改修を先延ばしにすればするほど、物件そのものの価値や魅力は低下することになる。実際には、毎月の修繕積立金を低めに抑え、改修期に必要な費用を一括で支払う場合が多い。

中短期的にはこうした大規模修繕の問題、長期的には所有者の5分の4以上の同意が必要な建て替えの問題にも直面することになるが、それはニセコに限らず、全国津々浦々のマンションなど集合住宅にも共通する問題だ。ニセコの場合、所有者の多くを占めるのが外国人で、海外居住で連絡や意思疎通が大変な面がある反面、彼らは修繕積立金を十分に支払うことができる富裕層でもある。

所有者が日本人であっても、行方不明・音信不通に加え、高齢化や失業に伴い払えないケースは多く、全国で問題になりつつある時代、これら海外富裕層や投資家が所有する物件は、リスク管理の面からも、大規模修繕や資産価値維持の観点からも、むしろ恵まれている面があるのかもしれない。

なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末
高橋克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン代表取締役。1969年生まれ、岐阜県出身。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて四半世紀、主に銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザーとして活躍。その後独立して金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60か国以上を訪問し、バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、イタリア湖水地方、ハワイ、ニセコ、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」シリーズの著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)など。

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