本記事は、高橋克英氏の著書『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』(講談社)の中から一部を抜粋・編集しています

「夏も強化」は正論ながら空論

ニセコ,羊蹄山
(画像=HAPPY SMILE/PIXTA)

●夏のニセコに魅力がない?

ニセコはスキーシーズンに偏り過ぎており、グリーンシーズンも強化し、通年で賑わうリゾート地とすべきだという意見がある。ニセコにはスキー以外何もないじゃないかと、半ばやっかみのような声を耳にすることさえある。特に夏のシーズンは冬に比べて魅力が薄いと。たしかに2018年度のニセコ町の外国人宿泊延べ数を比較しても、グリーンシーズンを主とする上期(4月〜9月)が5万7143人に対して、スキーシーズンを含む下期(10月〜3月)は16万51 人と、夏と比べ3倍近い集客があることがわかる。

なお、2019年度は上期5万9124人、下期はコロナ禍でも10万960人だった。このため、ホテルやコンドミニアムや飲食店などでは、従業員の通年採用が難しかったり、スキーシーズンでは人材争奪となって人件費が高騰したり、必要な人材が確保できないといった問題が生じているという。

グリーンシーズンのニセコは閑散期だから夏場をいかに盛り上げるかが課題であり、通年型リゾートを目指すべきだとの指摘は、正論ではある。しかし、本当にそれがニセコにとって正しい選択なのだろうか。(1)ニセコはすでに夏場も魅力が多いこと、(2)夏場も稼ぐのではなく冬場だけで稼げるリゾートを目指す、という視点から以下にて反論しておきたい。

ニセコの夏は、8月でも平均最高気温は25℃前後、平均最低気温は16℃前後と過ごしやすく、もともと避暑地としても人気がある。日本人を中心に貸別荘やコンドミニアムなどの長期利用者も多い。ニセコエリアには7ヵ所のゴルフ場があり、また温泉地としても有名で、「ホテル甘露の森」など温泉旅館が数多くあり、日帰り温泉施設も充実している。北海道の自然を生かしたラフティング、マウンテンバイク、トレッキング、キャンプ、バーベキューなどのアクティビティも充実している。

2020年はコロナ禍により、両イベントとも中止となってしまったが、夏には大きなスポーツイベントも開かれる。例年8月には北海道内最大級の自転車競技大会である「ニセコクラシック」が開催される。外国人を含め多くの参加者があり、夏のニセコを代表するスポーツイベントになっている。また、例年9月には「ニセコマラソンフェスティバル」が開催され、札幌など各地から多くの市民ランナーが参加している。

ニセコでアウトドアレジャーを手掛けるNACニセコアドベンチャーセンターでは、尻別川でのラフティング、リバーカヤック、カヌー、スタンドアップパドルボードなどに加え、トレッキング、ナイトトレッキングなどを提供している。また、NACが運営するひらふ地区にある「NACアドベンチャーパーク」は、木の上のアスレチックスといったらいいだろうか、高さ5〜13mの樹上でさまざまな難度の「エレメント」をクリアしながら、木から木へ移動していくアクティビティだ。パーク内の10のコースの全長は1000mを超える。

ラフティングも今や、ニセコの夏の風物詩だ。NACをはじめ、ニセコにはラフティングを提供する会社が現在10社もあり、冬でも数社は営業している。例年、グリーンシーズンは日本人観光客がメインとなる。札幌からの観光客だけでなく、夏休みなどになれば首都圏からの観光客で賑わう。東京のインターナショナルスクールのサマートリップなどで利用されることもある。秋にかけては、北海道内だけでなく、本州からの修学旅行生などでも賑わう。

●なぜ通年型リゾートにこだわる

にもかかわらず、なぜ通年型リゾートにこだわるのだろうか。ニセコでの冬の稼ぎだけでは足りないぐらい儲からないビジネスなのだろうか。そんなことはないはずだ。外国人富裕層向け高級コンドミニアムや飲食店などの場合、年間収益の8割前後をスキーシーズンに稼ぎだしているという。スキーシーズンだけの営業で1年分稼げるリゾートであるべきではないのか。

スキーシーズンに1年分を稼ぐため集中して働き稼ぎ、グリーンシーズンは長期休暇や旅行や趣味、または別の場所で別の仕事をするといった、ワークアンドバランスに基づくライフスタイルは模索できないのだろうか。いや模索すべきだろう。

ヒルトンニセコビレッジなどグローバル展開する外資系ホテルチェーンでは、本人の希望に応じながら、冬がオフシーズンとなる地域からスタッフをニセコにシフトし、逆に夏になれば、バリ島などビーチリゾートや、地中海など欧州へニセコのスタッフをシフトするなどして対応している。夏はコートダジュールでフロントの仕事、冬はサンモリッツかニセコでスキーバレーでの仕事というように、日本においても、夏はザ・リッツ・カールトン沖縄で仕事、冬はニセコのリッツ・カールトンで働くといった形が可能となろう。

そもそも、スキーリゾートなのに、夏も稼がないとやっていけないというのでは、この先も未来はないのではないか。ニセコは基本的には今まで通り、冬だけで稼ぐビジネスモデルを追求すべきだ。

欲張って全方位的な施策を展開すれば、幕の内弁当化する。選択と集中で、スキーシーズンの価値を今まで以上に上げることに、まずは集中すべきではないだろうか。それが結果的に夏の価値向上にもつながるのだ。

フランスのクーシュベルの高級ホテルやレストランなどのほとんどは、グリーンシーズンは営業をしていない。スキーシーズンのみの営業に集中し最高のサービスを提供することで、ブランド力を維持し、利益を十二分に挙げているからだ。

なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末
高橋克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン代表取締役。1969年生まれ、岐阜県出身。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて四半世紀、主に銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザーとして活躍。その後独立して金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60か国以上を訪問し、バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、イタリア湖水地方、ハワイ、ニセコ、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」シリーズの著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)など。

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