カンブリア宮殿,ビビッドガーデン
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春キャベツに完熟レモン~産地直送の新鮮野菜

今人気急上昇中の通販サイト「食べチョク」。野菜などの生鮮食材が生産者から直接送られてくる。特徴はどの商品にも生産者の名前と写真が表示されていること。そこをクリックすると、肥料や育て方など、生産者のこだわりが分かるようになっている。

「作っている方の顔が見え、無農薬で野菜がくると、子どもたちにも安心してあげられる」と、利用者は言う。

一方、瀬戸内海の広島・大崎上島でレモンを作っている大村示宇さん。9年前に移住して作り始めたが、販路の拡大に困っていた。「売り上げも頭打ちで。これ以上伸ばそうと思っても無理があり、どうしようかという時に『食べチョク』を見つけました」と言う。

「食べチョク」に出品したところ、農薬を使わない完熟レモンに全国から注文が殺到した。

「『食べチョク』が今、一番でっかい柱になっています」(大村さん)

そんな大村さんの農園を、「食べチョク」代表の秋元里奈が訪ねてきた。

「生産者はパートナー。一緒にタッグを組んで、どういう売り方がいいかとか、私たちも発展途上なので、いろいろ切磋琢磨させていただきながらやりたいと思っています」(秋元)

東京・港区にある「食べチョク」を運営するビビッドガーデンの本社は一軒家(2021年移転)。5年前、秋元は25歳の若さで起業した。それが今、従業員はアルバイトもふくめて53人に増えた。コロナ禍の去年から人気が爆発。サイトで購入する人は50万人。出品する生産者も4300軒に急増、年間の取扱高は数十億円に達している。

「去年2月から5月で流通額が35倍に増えました。人も必要になって一気に増やしました」(秋元)

サイトの知名度をあげた秘密が秋元のクローゼットの中にある。「食べチョク」とプリントされたTシャツが30着。これを毎日着て、秋元自身が広告塔となっているのだ。

「本当に毎日です。もう一発で分かるので」(秋元)

秋元が大事にしていることがある。ときおり自らのサイトで商品を購入。それを社内のキッチンで調理する。実際に取り寄せて食べることで、商品の良さや農家のこだわりを消費者に伝えやすくなるからだ。

この日作ったのは、大根に粉をまぶして揚げる秋元の得意料理「大根揚げ」。味付けは塩のみ。これが絶品なんだとか。さっそくみんなで試食する。

「キッチンを中心にコミュニケーションしたいと思っています。こういうおいしい食材をみんなでシェアするのも従業員のコミュニケーションにもなるし、サービスの理解を深めるという意味でもいいので、キッチンを重要視しています」(秋元)

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コロナ禍で苦しむ生産者を救え~8000個の牡蠣が…

通常、野菜は農協がまとめて買い取ってくれるが、卸や小売店を通すため、農家の取り分は小売価格の30%ほど。一方、「食べチョク」は生産者がサイトに自分のページを作り、値段も自分で決めて、直接消費者へと送る。「食べチョク」の手数料は売り上げの20%。売れ残るリスクはあるが、農家の取り分は80%ほどに。「食べチョク」はいわばオンラインの直売所なのだ。

だから今、農家が続々と参加している。初めて「食べチョク」に出品する農家に向けたオンライン講習会。参加者からは「玉ねぎを作っているんですけど、こだわって作ってもJAとかに出荷しても同じ扱いになるのが納得できない部分があった」「イベントに出していたが、コロナでイベントも無くなってしまった」といった声が上がった。

生産者に人気の秘密は、丁寧なサポートにある。「発送する時に同梱物やメッセージを入れた方がいい?」という質問には、スタッフの伊藤勝吾が「開けた時に一番目につく段ボールの耳の部分にメッセージが書いてあると、第一印象が良くなってファンになりやすい流れができると思います」と答えていた。

生産者はLINEを使っていつでも「食べチョク」のスタッフに相談できるようになっている。茨城・常総市にある「まるやまーむ」の鈴木聡さんは「他のECサイトではあまりこういうやりとりがないと聞きます。生産者ファーストで小まめな連絡が多いんじゃないかと思います」と言う。

一方、消費者に人気の秘密は「食べチョク」のトップページにある。そこには商品紹介より先に、利用者の投稿欄があり、これが信頼感を高めている。「ネギの葉先が枯れたようになっていて残念」「傷んでいたので詰め方を検討してほしい」といった苦情も、そのまま載せている。

利用者のひとりは「ネットショッピングはどんなものが送られてくるか分からない。ユーザーが載せた写真が見られることで内容も分かるので、信頼度も上がる」と言う。

海産物の出品も急増中だ。広島・呉市の養殖業者「中野水産」は、去年3月のコロナ禍のピンチを「食べチョク」に救われたという。コロナでイベントがなくなり、売り先を失った8000個の牡蠣を「食べチョク」に出品すると、わずか2日で完売した。

「せっかくおいしい時季にイベントで提供するものが提供できないのが生産者として心苦しいので、とてもうれしいです」(中野仁貴さん)

「生産者のこだわりが正当に評価される世界を目指しています。何よりも先に生産者への価値還元を考える。正当な利益、お客がつく世界を作りたいと思っています」(秋元)

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「農家の娘」が挑んだ~がむしゃら起業物語

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東京・飯田橋。秋元が訪れたのは大手通信会社のKDDI。KDDIは新事業を立ち上げるため、社員からアイデアを募集することに。そのヒントを与えてほしいと、秋元に講演を依頼したのだ。コロナ対策のため、250人の社員がオンラインで参加した。

そこで秋元は、事業を始める上で一番大事な心構えを伝えた。

「私の好きな言葉で『努力する人は夢中な人に勝てない』というのがあります。頑張っている人よりもやりたくてしょうがなくてやっちゃう人の方が強い」

秋元は2013年に慶応大学理工学部を卒業後、DeNAに入社。携帯電話向けのゲームサイト「モバゲー」を運営するIT企業で、農業とは無縁だった。懸命に仕事に打ち込んでいたが、入社3年目に転機が訪れる。

神奈川・相模原市にある秋元の実家は、かつて農業を営んでいた。とれたての大根やトマトなどが食卓に並び、野菜が大好きだった。しかし、久しぶりに訪れたとき、その光景にがくぜんとする。子どもの頃に自慢だった畑は荒れ果て、耕作放棄地となっていたのだ。

「色がなくて寂しい光景。昔の自慢だった色鮮やかな農地を取り戻したいという感じがありました」(秋元)

ITの力で農業を救いたい。秋元は会社を辞め、たった1人で起業。その半年後に「食べチョク」を開設した。しかし、それは苦難の始まりだった。

出品してくれた農家はわずか20軒ほど。「頑張って作って一生懸命PRしたんですけど、月に売り上げが2万円だったことも。買ってくれている人はほとんど知り合い」だった。

それでも秋元はめげなかった。食べチョクのTシャツを着て全国の農家に足を運ぶ。自分の思いを伝えていくと、少しずつ心を開いてくれる農家が増えていった。

少しずつ成長した「食べチョク」は、2019年、マーケティングを強化するため2億円の資金が必要になった。秋元は投資会社を何社も訪ねた。しかし、どこも色よい返事はくれなかった。

「農業はビジネスになりにくいんですよ」と断る先方に、秋元は「それは最初から分かっていたことですよね。何をどうすれば出資していただけるんですか?」と、タダでは引き下がらなかった。

事業計画が未熟なのか、自分のプレゼンが下手なのか、細かく聞き出していった。その都度、プレゼン資料を書き直すが、70社以上に断られた。だが9カ月後、苦労が実り、ついに2億円の調達に成功した。

「24時間、夢中になれることをやっている。これ以上の幸せはないのかも、と思います」(秋元)

4月29日には会社の引っ越しが。事業が大きくなって一軒家では手狭になったのだ。広さは以前の1.5倍に。試食会ができるキッチンスペースは秋元のこだわりだ。

パソコンのモニターやオフィスの家具は生産者からの引っ越し祝い。そんな生産者に応えるためにも、一日も早く上場したいという。

「この一瞬、一瞬に廃業を決める生産者がいることを意識してみんなやっています。そう考えると、まだまだ遅い。もっとスピードアップしたいです」(秋元)

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ご近所の力を結集~絶品の山麓野菜セット

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「食べチョク」の利用は企業にも広がっている。

企業の受付システムを開発する東京・渋谷区のITベンチャー「レセプショニスト」。コロナ禍の今、30人いる社員のうち7割が在宅勤務をしているという。CEOの橋本真里子さんには困っていることがあった。これまで福利厚生としてやっていたランチ会などができなくなってしまったのだ。

そこで在宅勤務をしている社員にあるものを届けることに。それが「食べチョク」の野菜だ。春レタス、葉つきニンジン、新玉ネギなど、旬のものを自宅での食事で楽しめるようにと、新しい福利厚生として取り入れたのだ。

社員の藤村理沙さんは「すごくうれしいです。自宅でいると簡単に済ませるものだったり、デリバリーだったり、出来合いのサラダを買ってくることが多いので。社員の健康を気遣ってくれていると感じました」と言う。

今はテスト段階だが、社員の評判が良ければ本格的に導入したいという。

「外食メインだったメンバーには、自宅での食事に困っている印象があるので、『食べチョク』で少しでもフォローできたらうれしいです」(橋本さん)

一方、生産者にも新たな動きが始まっている。岐阜・中津川市。小池菜摘さんは祖父の代から100年続く芋専門の農家。3年前、夫婦で後を継いだ。

「育て方はおじいちゃんから教えてもらった。こだわりあります、土作りとか」(小池さん)

この日は、近所の農家がとれたてのケールを持ってやってきた。別の農家はフルティカトマトを。

「ご近所の方のお野菜を集めて、『食べチョク』で発送させてもらっています」(小池さん)

皆が持ち寄った野菜をセットにして出品しているのだ。これは「食べチョク」の「ご近所出品」という新しい売り方。小池さんら17軒の農家はひとつのグループとなってページを開設。「恵那山麓野菜」というブランド名で売り出した。

メンバーの小板美和さんはシイタケ農家。ネット販売は初めてだという。

「ネットは苦手なので、もう全部お任せ。ここまで持って来ると皆さんの野菜と一緒に出荷してくださるので」(小板さん)

小池さんの力を借りることでネットが苦手な農家でも出品できる。皆で持ち寄れば、芋しか作っていない小池さんにもメリットが生じる。

「やはり専門農家が作る野菜はクオリティーが高いんです。それを一緒に並べるから買ってもらえるし、価値が生まれるんです」(小池さん)

仲間が増えれば地域全体が盛り上がる。小池さんの誘いに乗った村井和夫さんは6月から自慢の枝豆を出品することにした。

「作るのは一生懸命作りますので、あとは売ってもらえれば(笑)」(村井さん)

若手と高齢者が手を組むこうした動きが全国に広がりつつあるという。

「食べ物を生み出せる土地として残っていって、若者が来て活気が出たらいいですよね」(小池さん)

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~村上龍の編集後記~

秋元さんは2019年に2億円必要だった。70社に断られ、出資がまとまるまで9ヶ月かかった。農業の領域は厳しいと弁解した相手には「それは会う前にわかってましたよね」と対応した。コロナで苦しんでいる生産者を一人でも多く救う、社員もそのことを共有し、走った。「食べチョク」の認知度は驚くほど伸びた。ところで、秋元さんは美人だ。誰も指摘しないのでわたしが言った。コミュニケーションを磨くときれいになる人がいる、それがこの人だ。

<出演者略歴>
秋元里奈(あきもと・りな)1991年、神奈川県生まれ。2013年、慶応大学理工学部卒業後、DeNA入社。2016年、退社しビビッドガーデン設立。2017年、「食べチョク」をスタート。

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