THE OWNER特別連載「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」第18回目は「個人と所属部署の目的が一致しない場合にどうやって育成するのか?」という経営者のお悩みについてお答えします。
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【今回のご質問】
個人と所属部署の目的が一致しない場合にどうやって育成するのか?人事異動は年に1回、希望部署に必ず配属される確約はない。
個人と所属部署の目的の不一致は個人のモチベーションを下げ、効率を下げてしまうだけでなく、所属部署にも悪影響を与えます。また最悪の場合、個人の退職につながってしまう恐れもあります。どのように対処するべきか考えてみましょう。
【学歴】東京大学 農学部 国際開発農学専修 卒
【資格】TOEIC970、将棋アマチュア参段
【株式会社ポムスタディ】マーケティングを中心としたコンサルティング事業および教育学習支援事業を推進。コロナ禍の状況下でも、増益増収を達成中。
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世代特性および企業・個人間の目的のズレを理解しましょう
人材育成を語る時にどうにも扱いが難しいのが、ジェネレーションギャップによる価値観の差です。多くの企業では育成側にあたるのは管理職であり、50代60代であることも珍しくありません。一方で最も若い新入社員は10代後半〜20代前半ですので、年齢差は約30歳です。親子ほどの年齢差があって、努力なしに相手のことが理解できる人は少ないでしょう。
さて、『平成30年版 子供・若者白書』によれば、若者の仕事観は仕事よりも家庭やプライベート重視にシフトしてきており、転職に対しても抵抗を感じなくなってきています。かつて「石の上にも三年」と言われた”常識”も若者世代には通用しなくなってきているのです。一方で同調査によると、仕事をお金を稼ぐための手段として捉える若者は約85%にも上っており、仕事のやりがいよりも条件面での相談のほうが心に響くと考えられます。
一方で、どの時代でも個人としての目的と所属部署の目的は必ずしも一致するとは限りません。むしろ大企業になればなるほど、個人と所属部署の目的が一致しているということ自体が珍しいのではないでしょうか。例えば、厚生労働省『平成20年版 労働経済の分析』によると、仕事のやりがいは1978年以降約30年余りにわたって低下を続けており、個人が仕事に対して持つ満足度は低い状態にあることがわかります。まずは以上のような前提を理解し、認めることが必要です。
ジョブローテーション制度を活用してみる
それでは目的にズレのある個人と所属部署をどのように調和させてパフォーマンスを向上させればよいのでしょうか。多くの会社で採られているのは、ジョブローテーションの制度です。多様な種類の業務に触れさせることで従業員の成長を図り、キャリアアップした段階で俯瞰的な視点を持てるようにすることがジョブローテーションの狙いの一つです。
今の所属部署に不満を持っていたとしても、数年後に異なる環境にチャレンジできるとわかればその場は我慢して次の部署に希望を託す人も多いでしょう。特に打算的でありながらも、リスクを避けて安定を求めたがる若者層にはプラスに捉えられるはずです。
ジョブローテーションが解決策とならないケースもある
すべての会社がジョブローテーション制度を採用すれば、個人と所属部署の目的を一致させられるかというとそんなことはありません。ジョブローテーションはあくまで様々な部署に挑戦する機会を与える制度であり、個人と所属部署の目的調整という観点ではむしろ消極的な制度です。また人員に恵まれる大企業では採りやすいものの、労働力に余裕のない中小企業や専門性の高い業種ではジョブローテーションは不向きです。
ご質問頂いた方も「人事異動は年に1回、希望部署に必ず配属される確約はない」とお書きいただいた通り、希望が必ず叶えられるわけではないものの人事異動の制度は確立されており、どうしても所属部署や所属部署の業務に合わないという従業員は異動できるだろうと推察されます。
まずは個人の目的の洗い出しから始めよう
では、今度は積極的に個人と所属部署の目的を調整することを考えてみましょう。まずは個人の目的、願望、目標、現在のスキルなどを聞き出すことから始めます。この際、いきなり普段関わりの薄い人事部に聞き取りを行わせても信頼関係がなく、あまりうまくいきません。できれば直属の所属長など普段から関わりのある人に聞き取りをしてもらいましょう。
一方で、所属部署での聞き取りは必ずしも現実を100%反映しているとは言えません。関係性が近いからこそ言いにくいこともあるからです。現場での聞き取りを踏まえて人事部が2回目の聞き取りを行うことができると理想的です。この際、所属部署に対する不満や理想のキャリア像についても聞き取りを行いましょう。
必ずフィードバックを行う
これも大企業で起こりがちなのですが、人事制度が整っており、ある意味ルーティーンワーク化してしまっているとせっかく行った聞き取り調査も意味をなさなくなってしまいます。毎年聞き取りだけ行われて、人事部からは何も返答がなく、やっていて意味があるのかよく分からないとなると、自然に現場の人たちは手を抜いてしまいます。
上記のようなマンネリ化を防ぐためにも、大企業の場合は人事部、中小企業の場合は経営層(できれば社長ご自身)がフィードバックを行うと良いでしょう。そしてこの際、会社としての考え方と従業員の個人としての考え方を比べて、歩み寄るような姿勢を見せられると尚良いでしょう。個人の目的を洗い出す際もそうですが、丁寧なコミュニケーションを行うことで会社は自分のことを大切に思ってくれているのだと納得させられるのです。
人事部以外の立場から見た育成
企業の中で人材育成を担う人事部以外で、例えば自分の部署の部下がやる気がないといったような場合、どのように解決を図れば良いのでしょうか。
個人の目的を把握することは、部署内での育成を考える場合も最初に行うべき取り組みです。まずは現在の職務で個人の目的に通じる部分が本当に存在しないのかを再度考えてみましょう。少なくとも採用時にはお互いにメリットが有ると判断して、会社側としては内定を出し、個人側としては就職するに至っているわけですから、過去には何かしらの合意点があったはずなのです。
また仕事として割り切って考えてもらうのも最終手段ではありますが、一つの方法です。先に紹介した通り、多くの若者は仕事をお金を稼ぐ手段として捉えています。もちろんそこにやりがいが加わるに越したことはありませんが、労働というのは企業が給与という形で対価を払い、従業員が労働力を提供するという一種の契約に基づいた経済活動でもあります。対価を受け取っている以上、自身が成長できるように仕事にしっかりと向き合うことは従業員としての義務なのです。もしも「個人と所属部署の目的が一致しないから、やる気が出なくて頑張れないです」と主張する部下がいれば、それはお門違いだと指摘してあげることも必要かと思います。
前提を理解した上で、できるかぎり個人と丁寧に向き合う
今回の話を整理します。大きく次の3点を挙げています。特に重要なことは丁寧なコミュニケーションを行うことです。
(1)育成対象になっている個人の考え方を理解できているのか再度確認しましょう。
(2)ジョブローテーション等の制度で個人に活躍の機会を与えましょう。
(3)丁寧なコミュニケーション、そして時にはドライな叱咤激励も必要です。
以上です。最後までお読み頂きありがとうございました。
文:岩下 廉(株式会社ポムスタディ 代表取締役社長)
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