THE OWNER特別連載「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」第19回目は「スタートしたばかりのニッチ市場向けD2C企業が認知を獲得するにはどういう手段があるのか」という経営者のお悩みについてお答えします。

▼経営者様からのご質問はこちらで受け付けております!
https://the-owner.jp/contents/the_owner_questions

【今回のご質問】
弊社は、DtoCで24.5cm以上限定のレディースシューズブランドを展開しています。まだスタートしたばかり、かつターゲットも狭い分野において、認知が獲得しきれていません。小さい企業で、かつ予算も限られた中で、認知を獲得するためにはどういう手段を選択しますでしょうか?

大き目サイズの女性靴というニッチ市場でD2C(消費者直販)モデルのブランドを立ち上げたばかりのシューズメーカーということですね。企画・販売のみ=製造委託型の可能性もありますが、ここでは製造販売型と仮定します。店舗の有無は書かれていないので分かりませんが、ここでは無店舗という前提で考えてみましょう。

お尋ねの件は、昔ですとメディアに採り上げられるなどの幸運がないと難しかったテーマですが、ネット時代の今ではこうしたロングテール市場に対しても実践的な方法が考えられるようになっています。

以下にA. 短期的な売上につなげながら行う方策、B.中期的な顧客創造の方策、C.長期的なブランド確立の方策、といった具合に「狙い」の時間的フレームを分けてお伝えしますが、それぞれが独立しているのではなく、互いに関連し合っていることに留意してください。

日沖 博道(パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長)
日沖 博道(パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長)
【略歴】アーサー・D・リトルでシニアマネジャー、日本ユニシスで統括パートナー、アビームコンサルティングでディレクターを務める。経営コンサルティングと事業会社経営(ベンチャー企業、合弁企業など)を交互に経験し独立、2012年より現職。
【学歴】一橋大学 経済学部卒、テキサス大学オースティン校 経営大学院修士(MBA)
【専門領域】事業戦略、マーケティング戦略、ビジネスモデル、BPRとBPM
【最新著】『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』
【パスファインダーズ社】少数精鋭の戦略コンサルティング会社として、新規事業の開発・推進・見直しを中心としたコンサルティングを提供。
URL:https://www.pathfinders.co.jp/

A. 短期的な売上につなげながら行う方策:検索連動型広告

経営者のお悩み相談所
(画像=THE OWNER編集部)

ニッチ商品のプロモーション手段としてお薦めなのはターゲティング広告です。とりわけ短期的な売上に直結させるには、Googleなどで打ち込む検索キーワードに合わせた広告が配信される「検索連動型広告」が有力です(キーワードターゲティング広告、リスティング広告などとも呼ばれます)。情報を探している購買意欲の高い消費者に向けているため誘客効果が高いのですが、その分だけ費用感としても高くなっています(だから懐事情とCPA=成果獲得単価を睨みながらコントロールしてください)。

この種の広告の成否の鍵は検索キーワードの設定がほぼすべてです。だからターゲットとする消費者がどういうキーワードを使って検索するのかをよく考えてみてください。ここの部分を広告代理店まかせに丸投げすると、費用が割高になると共に想定ターゲットとズレかねません。そしてあまりに一般的なキーワードを使うだけだと、ターゲット外の消費者に対する露出の割合が増えるので広告代も割高になってしまいます。しっかりと考えて絞り込みましょう。

そしてこのタイプの広告をクリックした場合に消費者が飛ぶLP(ランディングページ)の内容はかなりストレートなもの、つまり商品そのものの情報と価格などのオファー情報になって構いません(ただし低価格ばかりをアピールする戦術を採ると安物買いの消費者しか興味を示さなくなるので、それは避けましょう)。キーワード検索をしている時点で消費者の購買意欲は相当高いと考えてよいからです。

なお、この短期アプローチで説明した検索連動型広告は「今、欲しがっている人たち」を狙った集客方法なので直接的である反面、ターゲットとなる消費者はどうしても限られますし、広告を見た人も似たような商品と比較して買おうとすることが多く、価格や納期などの条件面で魅力的なオファーをしているところに軍配を上げやすい構造なのです。

これはファン作りとしては最適のアプローチとは言えませんよね。しかも「認知度を上げる」というプロセスを飛ばしています。だからあくまで短期的な売上を確保したいがためのやり方と割り切ってください。したがって質問者が既に他のアプローチでそれなりの売上確保ができているなら、この方策は無視して構いません。そして後述するBの中期的な方策が確立した場合も、Aの方策は中止して結構です。

B-1.中期的な顧客創造の方策(1):FB広告による「集客」

中期的には着実に顧客創造するアプローチが必要です。見込み客の「集客」⇒フォローによる「啓蒙」、そして試し買いから始まり少しずつなじみの顧客を増やしていく「販売」にステップアップするプロセスを確立するのです(図を参照)。

経営者のお悩み相談所
(画像=THE OWNER編集部)

まずは(一過性でなく)固定客になってもらうことを狙う集客の仕組みが必要です。ここでは検索連動型広告以外のターゲティング広告を検討しましょう。「サイトターゲティング」「コンテンツターゲティング」「行動ターゲティング」「デモグラフィックターゲティング」などがありますが、どれをどう組み合わせると効果的かといった高度な検討は専門家に任せるべきですし、マーケティング構築の初期段階ではあまり手を広げるべきではありません。ゆえに当面は、これら複数の要素を併せ持つ「フェイスブック(FB)広告」一本に絞るのが妥当でしょう。

FB広告は、FBを利用している一般のユーザーに対し、友人・知人のメッセージやシェア記事などと混じって、その人が関心を持ちそうな広告を表示するものです。そして広告を読んだ人を(別に用意した)LPへ誘導するものです。

FBの凄いのは、この「その人の関心」をAIが適切に判断し、それに広告をマッチさせる精度が抜群に高いことです(もちろんこれは、実名に加え様々な個人情報を登録し関心事をシェアするFBだから可能なことです)。広告主の観点からは無駄打ちが少ないということであり、実際に広告単価は他のメディアに比べ桁外れに割安です。

ただし注意点が幾つかあります。その第一は、FB広告は本来、中小企業の担当者でも直接に出稿できる機能を装備しておりFB自身もそれをアピールしているのですが、実際に素人が広告主として自ら実行しようとすると意外と難しくて、とんでもなく時間が掛かってしまう挙句に挫折する可能性が高い、厄介なものです。

その理由の第一は、FBには悪質な広告主を排除するために厳格なルールが幾つもあり、そのためのAI審査がかなり性悪説に基づく強引なものなので、しょっちゅう広告またはアカウントが停止になってしまいます。しかも停止の理由が非専門家に理解できるようには示されないので広告主として対処困難です。第二に、サイトの使い勝手すなわちUIが非常に悪く、時折サイト内の表示や機能を変え、しかもバグも少なくないので、ネット上の参考記事が役に立たないことが多く、大抵の人が立ち往生します。

ゆえに最初は代理店に頼む(その分、費用が別途掛かります)か、既にFB広告で相当程度経験を積んだ知人にサポートしてもらうのが妥当です。そうした場合でも丸投げではダメで、後述する戦術は自分で考えて「こうしたいんだけど」と相談しながら進める必要があります(現実問題として、大手の広告代理店ですらFB広告コンテンツに関しての知見は多くありません)。

もう一つ重要な注意点としては、FB広告のコンテンツやそこからリンクさせるLPのコンテンツは、検索連動型広告の場合とはまったく違う狙いと内容にする必要があります。後者は「売り込み」のためのもの、前者は「筋の良い見込み客を集める」ためのもので、両者は別物です。

どういうことかというと、検索連動型広告の場合と違って、FB広告の視聴者は商品を買いたくてFBを利用している訳ではないので(むしろ友人・知人の近況報告的なものを見に来ていますよね)、いきなり商品そのものや価格などのストレートな情報をぶつけても、広告をちらと見ただけの人にはピンと来ずにスルーされます。

だから「暇つぶし」に来ているFBの利用者が「おや?」と興味を催して広告をクリックしてくれるだけの工夫が必要です。例えば「ラージサイズの靴選びで失敗しがちなポイント」みたいに、気になってついクリックしてしまうフレーズがいいですね。

そしてLPでも、そうした「元々商品を買うつもりがない」のについ広告をクリックした人に対し、いきなり売り込みをしてはいけません。そんなことをしたら訪問者は即、逃げ出してしまいます。そりゃそうですよね。待ち合わせ時間までの暇つぶしにウインドーショッピングをしていたら、店員から「その品、お似合いですよ。今ならお買い得です」などと売り込みされるようなものですから。

ではこの場合のLPは何が目的でしょうか。ずばり、メルマガ会員として登録してもらうことです(この必要性は次項で解説します)。これとてもハードルが高いように聞こえますよね。だから単に「いい商品ですからメルマガ会員として登録してください」と呼びかけるだけではダメです。いかにLPに来た訪問者が興味を持っていること(もしくは不安に感じていることの解決策など)をこちらが伝えることができるか、がポイントになります。

例えば「大き目サイズの女性が失敗しがちな靴選びのポイント」を幾つか教え(FB広告のメッセージとマッチしていることは重要)、「他にも靴選びのポイントを知りたい方は無料のメルマガ会員になってください」と呼びかけるのです。しかも会員になれば「靴選びで失敗しがちなポイント」を整理した資料をダウンロードできます、といった具合に登録の特典を用意すると効果的です。

こうした広告戦術のベースは常に、顧客ターゲットを正しく見定めていることです。本件の商品ブランドは立ち上がったばかりとはいえ、ニッチゆえに顧客ターゲットはかなり明確に絞れているはずです。「24.5cm以上限定のレディースシューズ」というざっくりしたものだけではなく、自社の商品はどういう女性生活者がどういう場面で履くシューズなのかという「ターゲット顧客のプロファイル」はきちんと整理され、それに合わせて「ペルソナ」(架空の特定ユーザー像)も定めていらっしゃると思います(もしまだ両者を確立していないのなら早急に実施されることをお薦めします)。

ではそんなペルソナがどういった状況で新しい靴を欲しがるのか、しかも靴選びでどんな悩みや不安を抱えているのか、その心理を想像してください。それに合わせてFB広告のメッセージやボディコンテンツも、LPでのコンテンツも決まってきます。

話が長くなるのでここでやめときますが、是非よく研究してみてください。さらに具体的な詳細に興味ある場合は、私が事務局長を務める羅針盤倶楽部にご入会いただくと研究対象として実践でき、アドバイスを差し上げることもできます。

B-2.中期的な顧客創造の方策(2):メールマガジンによる「啓蒙」

商品ブランドの固定客作りのために重要なのは、集客された見込み客をフォローして啓蒙するというステップです。そのための実際的な手段がメールマーケティングです。つまりLPでメルアドなどを登録してもらったメルマガ会員に向け(もちろん、A.の方策によって自社の販売サイトで購入いただいた新規客にも、メルアドを取得してメルマガ会員になっていただくべきです)、定期的なメルマガで自社の商品の背景やよさを丁寧に伝えてファンになってもらう、というプロセスが大切になってきます。

一方的な価値観の押し付けや、ましてや売り込みではなく、あくまで自社の商品、そのブランドの価値(造りがしっかりしている、健康にもよい等)や愛着の湧くポイント(デザイナーや職人の思いや仕事に対する姿勢など)などの情報を丁寧に、しかも親しみを込めて伝えていくのです。できれば時にはストーリーも交えると感情に訴えやすく、飽きさせないですね。

きちんと情報を伝えてあげることで、見込み客(および新規購買客)はあなたの商品・ブランドに対する理解を深め、メルマガ発行者に対する親しみを感じ、商品に対する興味を覚えるようになっていきます(顧客プロファイルと合致している、という前提ですよ)。

ある程度メルマガを続けて見込み客への啓蒙が十分とあなたが判断できる段階まで来れば、「販売」へのアクションを起こして構いません。例えばメルマガ会員向けキャンペーンとして、会員特別価格やおまけ的なものを付けるなどのオファーを提示してお試し購入を促すことが典型的です。

こうしていったん販売にまでこぎつけてもそこで終わらずに、購入していただいた顧客とまだ未購入のままの見込み客を区分しながら、メルマガでの情報提供を続けて、さらなる理解と親しみの深化を目指すことが重要です。

C.長期的なブランド確立の方策:動画マーケティングなどによる「愛顧化」

顧客になってからもさらなる理解と親しみを深めてもらう、その先にあるのが「愛顧化」のステップです(再び図を参照)。つまり1~2度購入した「ただの顧客」から「なじみの上客」に進化してもらうのです。ブランドを本当に愛して何度も指名買いしてもらう、さらにはSNSで高い評価をして好意的な書き込みをしてくれる、友人・知人に薦めてくれる、といった行動を呼び込むのです。

そのためにはブランドとしての価値が何なのかを徹底的に掘り下げて、それを「具象化」、「見える化」する必要があります。大抵の場合、それを最も効果的に実現できるのが動画マーケティングと呼ばれるやり方です。

ここでは仮に質問者の商品ブランドの価値が、例えば「造りがしっかりしている」「健康にもよい」ことであり、それを実現するポイントになるのが「職人の高い技術と丁寧な仕事」だとしましょう。これらのことを具体的に現わすものとしては、例えば靴の構造において何かユニークな特徴があるとか、材料にこだわりがあるとか、職人の経歴が凄い/変わっているだとか、何かしら伝えられるポイントがあるはずです。そしてそれをできる限り素人にも分かる表現で「見える化(映像化)」するのです。

例えば構造を説明する画像、実際に行っている職人の作業、そしてそこに込められた職人の思いを吐露するナレーションなどで構成する動画を作成するたびにYouTubeなどにアップし、自社のホームページ(HP)でも同じものを載せるのです(この両者は互いにリンクさせておくとよいでしょう)。

そしてそれらをメルマガの中で時折紹介することで、メルマガ会員を啓蒙する教材にもなりますし、ブランドの価値の源泉を見込み客/顧客のいずれにも理解・納得していただくツールにもなります。こういった一連の流れを訴求価値ごとにシナリオ化しておくことで動画マーケティングは完成します。

「愛顧化」のステップにおいて動画マーケティング以外にお薦めなのは、むしろアナログな手法です。例えば購入時に商品と一緒に同封されたチラシを見ると、商品への愛情が溢れる手書き文字のメッセージが盛り沢山、なんて素敵ですよね。チラシはいちいち手書きでなくともコピーでOKです。また、一度でも購入いただいた顧客に宛てて新作の商品を紹介するはがきを送る(そこにあるQRコードをスマホで読み込むと製作過程などの動画が見られる)、というのも意外と嬉しがられるものです。こうしたアナログなメッセージを送ってくれる企業からのメルマガは結構読んでもらえるので相乗効果的なのです。是非、ご検討ください。

さらに顧客がある程度増えて、質問者の会社の働き手も増えて、余裕が出てきたら是非考えていただきたいのが、顧客同士および顧客と企業とのつながりを感じられる「コミュニティ化」です。

例えば、自社の商品であるシューズを履いておしゃれをしているユーザーの自画像を写メしてアップしてもらえる場をHP上に作るというのはいかがでしょう。そして当人のコメントも会社からのコメントもできるようにし、HPを見た人からも「いいね」をし合えるようにするのです。それにより、アップしたお客の商品ブランドへの愛着がより増すのと、メルマガ会員である見込み客が「このブランドはお客を大切にし、お客と一緒に楽しんでいる」と感じてくれれば最高ですよね。

短期的な取り組みから始め、中長期のブランド確立までの戦略を描くべし

ではここまでの話を整理しましょう。次の3点が主旨です。

1)短期的な売上を確保しながら誘客する方策としては、ターゲット顧客むけのキーワードをしっかりと絞ったうえで検索連動型広告を当面実施する。

2)中期的な顧客創造の方策として、FB広告で集客しメルマガで見込み客を啓蒙することでブランドに対する理解と親しみを促した上で、お試し購入につなげる。

3)長期的なブランド確立の方策として、ブランド価値を徹底的に掘り下げて、「具象化」「見える化」した形に落とし込む。具体的には動画とメルマガを連動させたりアナログ手法を駆使したりの工夫を凝らす。

以上です。取り組む気になっていただけたでしょうか。

文・日沖 博道(経営コンサルタント・パスファインダーズ株式会社 代表取締役社長)

(提供:THE OWNER