プライベートバンクが超富裕層に「私募」で提供する金融商品の代表格は「私募投信」と「仕組債」だ。投信協会の統計データによれば、2021年4月末の投資信託純資産残高(時価)は総額で約273兆円、これを多いとみるか、少ないとみるかはそれぞれの立場で色々と変わるとも思う。だが、「公募投信」と「私募投信」の比率については意外に思われる人が多いかも知れない。

実は残高比較をすると「公募投信」は約163兆円(投資法人を含む)、「私募投信」は約110兆円で概ね6対4だ。「私募投信」とは「一部の関係者のみが知っている投資信託」と換言することができるが、その残高がメディアの広告や金融機関の店頭ポスターなどで目にする投資信託(公募投信)の約3分の2に相当する。ちなみに、4月末のデータを見ると「私募投信」の総額約110兆円の内、約108兆円が「株式投信」なのに対し、「公募投信」のそれは約137兆円となっている。4月の残高の増減で比較すると「私募投信」が約1.3兆円増加した一方、「公募投信」は僅かに及ばず約1.0兆円の増加だ。これらの数字から「私募投信」の規模感を何となくでも掴めるのではないだろうか。

誤解無きように言えば、これら全部が「富裕層向けにプライベートバンクが組成している」ということでは決してない。プロ私募と言って、資金の出所が適格機関投資家と呼ばれる専門家が扱っているものがたくさん含まれている。通常、当然そちらのほうが残高は多い。プライベートバンクなどが個人の超富裕層に提供する「私募投信」は、プロ私募に対して少人数私募と呼ばれるものが多いが、専門的すぎる話になるので割愛させていただく。ただ覚えておいて欲しいのは、「私募投信」というのは決してニッチな隙間産業ではないということ。金融機関が案件として持ってきたとしても、決してそれ自体は如何わしいものではないということだ。時々「私募」と聞いただけで毛嫌いされる方もおられるが、箱組自体は資産運用業界に一般的に存在するものである。

なぜ「仕組債」を忌み嫌う人がいるのか?

私募投信,とは
(画像=Graphs / pixta, ZUU online)

もうひとつ「私募」の金融商品の中で、プライベートバンクが超富裕層向けに提供しているお得意の商品の代表格が「仕組債」だ。ただこの「仕組債」というのも、お客様によっては「私募投信」とは比較にならない程に「忌み嫌われる金融商品」であったりする。英語では「Structured Bond(ストラクチャード・ボンド)」と呼ぶが、「仕組み」という語感の問題なのか、商品チームが提案に含めた段階で「仕組債は駄目」と言われる場合がある。個人的な感覚では「なぜ劣後債は大丈夫なのに仕組債は駄目なのか」と思ってしまう。劣後債のほうが余程リスクが測り難い。信用リスクだからだ。

なぜ「仕組債」を嫌う人がいるのかといえば、実は種明かしは簡単で、それは過去に「大損をした経験がある」か、もしくは営業マンとして「(お客様に)大損をさせた経験がある」かのどちらかだ。すなわち良い思い出がないということ。突き詰めると「私募投信」や「仕組債」という金融商品を「嫌われ者」にしてしまったのは他ならない金融機関自身だ。そして、どちらにも共通しているキーワードが「デリバティブ取引」ということになる。