本記事は、谷本真由美氏の著書『世界のニュースを日本人は何も知らない2 - 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。

国際交流
(画像=PIXTA)

アメリカとイギリスは他人の失敗を許さない

この内輪もめの構図は、たいへんイギリス的だと感じます。

政府も軍も政治家も、「俺が! 俺が!」と利権や名誉争いに必死で、みんなで協力しよう、人命を守ろうという気がまったくありません。

真面目な大学研究者が「協力しましょう」と申し出ているのに、わざとそれを妨害する。開発を進め、うまくいかなければ「やっぱりやめた」とあっさり捨てる。

実に自己チューで、自分を正当化することを恐れておらず、厚顔無恥、説明責任もありません。そして、他人に責任を押しつけまくります。ダメになれば後任者に丸投げし、自分は給料やボーナスをもらってさっさと逃げる。

こうしたことはアメリカやイギリスの職場でよく見かける光景です。日本人のように、謝罪する、責任をとる、腹をくくる、そういった対応がないのです。

日本では、誰かが間違いを犯して謝罪すれば、世論は間違いを責めることをせず、謝罪したことを「誠実でよい」と褒めます。非常に寛容で、喧嘩をしても水に流します。

ところが英語には「水に流す」という表現すらありません。アメリカやイギリスは謝罪したことを「お前の失敗」「失態」「弱いやつ」として責めに責め、証拠を集めて損害賠償を請求したり、社内なら失脚させる材料にしたりします。こんな面倒くさいことを、大学や普通の職場で執拗にやるのです。

小中学校でも、親はすぐに学校を訴えます。子どもの素行の悪さや成績の悪さをすべて学校の責任にするために、わざわざ弁護士を雇って学校を訴えるのです。ですから学校側は普段から言質(げんち)や証拠をとられないように、報告書や書類ばかり作成しています。

「海外は失敗に寛容」とよく言われますが、これは、実は大きなウソッパチです。特にアメリカとイギリスはその反対です。失敗には厳しいので常に気を許せません。新興国だともっと厳しいですが、それは足の引っ張り合いが凄まじいからです。

その一方、こういう自己チューな部分には良い点もあります。

とにかく自分が得をしたいので、誰もが熟考することなく行動に出ます。失敗しても謝罪する気がないので、イケイケドンドンでやってみるのです。万事がこの調子なので、イギリスは他の欧州国や日本と違い、民間の団体が非常に活発です。

政府が何かをする前に、大学のような研究機関やベンチャーがさっさと行動を起こしてしまうということも少なくありません。何かに気がついた個人が「とにかくやってみよう」と、いろいろ挑戦してみるわけです。

おもしろいのは、日本と違ってイギリスの大学は国立が大半なのに、大学のなかにいる人の気質がベンチャー企業の人に近いことです。ですから今回のように、アプリ開発も非常に迅速でした。こんな事態が新型コロナ対策でも垣間見られ、今回の一件では内輪揉めにつながってしまったのです。

よくいえば個人主義、悪くいえばワガママ

私は感染症の専門家でも、文化人類学の専門家でもありません。あくまで人々の生活を観察して感じたことにすぎませんが、やはり感染が抑えられている東アジアと、爆発している欧州では、人々の考え方や生き方に大きな違いがあります。

ひと口に欧州といっても国や地域により異なりますが、とはいえ日本を含めた東アジアに比べると、哲学的なレベルでの違いが浮き彫りになっています。

それは、人々が他人に言われたことに従わないことです。これを美しい言葉で呼ぶなら「個人主義」となり、東アジア風な言い方をすれば「ワガママ」となります。

私は、普段からこの違いを感じてきました。私の専門分野は、内部統制、IT、ガバナンス、プロセス統制です。簡単に説明すると、会社のなかで人々が仕事のやり方やルール、手順を整えて守っているかどうか確認するという仕事です。

これは仕事をきちんと行い、間違いや不正がないようにするためにとても重要です。会社が繁盛し、皆がより多くの給料をもらい、お客様に満足してもらうためにも必要なことです。

ところが、こういったルールや手順をつくっても、欧州の人々は先ずそれらを無視することが前提になっています。なぜなら、彼らは人に命令されることを大いに嫌うからです。特に、自分より下と考えている女性や外国人の言うことはほとんど聞きません。ルールに書いてあることに、意味不明な難癖をつけて会社の人々を困らせます。

まるでそれはゲームのようです。彼らはあらゆる抜け穴を探してルールを破ります。

そして必ず嘘をつきます。

そのため、こちらはルールを破った際の罰則を恐ろしいほど厳しくしなければなりません。会社の携帯電話を持ち出して業者に売り飛ばした場合は罰金120万円を科す、という感じです。

ルールを破る人ばかりなのでシステムや抜き打ちの監査を定期的に行い、監視をする仕組みもつくらなければなりません。監視する人が内部の人だと緩くなることがありますから、利害関係がない外部の方にお願いすることもあります。

そういう「ルール」をつくる仕事や、監査をする仕事、監視する仕事、誰が何をやっているか文書やシステムに起こして記録する仕事が、欧州やアメリカでは無数にあり、いずれも給料が高めです。それらは人に恨まれる仕事だから給料が高いのです。

「ルールは破って当たり前」という国民性

ところが日本をはじめ東アジアだと、「ルールではこうなっているんですよ」と言えば、誰もが「はい、そうですか」と言って、あっさりそれに従ってくれます。特に、日本の場合はほぼ100%です。

さらに日本だと「禁止」と書かなくても、「自粛」や「お願い」と記しておけば、きちんと守ってくれる人がほとんどです。自己チューな人が多そうな中国や韓国でも、全体的な傾向はやはり日本と似ています。

これは新型コロナの対策でも、まったく同じです。欧州では、多くの人は政府の要請やお願いを無視して、イタリアでの死者が中国を超えたにもかかわらず、バーベキューパーティーを楽しんだり出歩いたりしています。

「他人にウイルスをばらまかないためにマスクをしてください」「マスクは手づくりのものでもかまいません」と言っても絶対につけません。手も洗わず、至近距離でツバを飛ばしながら会話をする。こうした自己チューは、自由を愛するイタリアでは特にひどい状況です。

私はかつてイタリアに四年間、住んでいました。彼らの自己チューぶりは芸術や食の分野ではたいへん良い方向に働くのですが、公衆衛生の方面では正反対です。

ルールを破ることが生きがいのような人たちですから、政府や人に言われたことには逆ギレして守りません。自分の行動が社会に及ぼす影響はまったく考えていません。自分の快楽や幸せが一番ですから他人などどうでもいいと思っている人も多いのです。

家族に死人が出て、やっと自覚するのです。でもそれでは、時すでに遅し。そうした自己チューな国民性が現在の悲惨な状況を招いている一因なのです。

世界のニュースを日本人は何も知らない2
谷本真由美
著述家。元国連職員。1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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