本記事は、谷本真由美氏の著書『世界のニュースを日本人は何も知らない2 - 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。
欧米の若者たちに広がる「FIREムーブメント」
日本ではまだあまり話題になっていませんが、アメリカをはじめ欧州でもミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた人)をはじめ、若い人の間でFIREムーブメントが広がっています。
FIRE(ファイヤ)とは Financial、Independence、Retire、Early の頭文字をとったもので、日本語に訳せば「経済的独立」「早期引退」となるでしょう。つまり朝から晩までせっせと働き、ストレスにさらされながら生きるライフスタイルを捨て、倹約をしながら貯蓄率を高め、リタイア後は投資を活用して悠々自適に暮らすということです。
現在、アメリカや欧州ではそんな生活の実現を目指している若者が多いのです。なかには年収3000万円でも米と豆だけを食べ、収入の70%を貯金する人もいるそうです。一方、年収400万円ぐらいでも毎日節約し、投資をうまく活用することで早期引退に成功した教員の例もあります。このようなムーブメントが先進国で盛んになっているのは、やはり格差拡大や雇用不安が原因です。
消費中心のアメリカ社会
このFIREムーブメントが最初に起こったのはアメリカです。この事実はたいへん注意深く考える必要があります。
アメリカは若い国であり、本来、若年層においては消費が盛んな国であるはずです。これまでのアメリカは日本に比べて全体的に家計の貯蓄率が低く、個人の信用を使ってたくさん借金をし、たくさん消費をするというのが基本の経済構造でした。
なぜアメリカの家計貯蓄が低かったかというと、アメリカという国が若い国であり、将来的に富を生み出す源泉をたくさん持っているからです。
これまでの若者は、お金を使うことに対し、まったく躊躇(ちゅうちょ)していませんでした。そして、そのような傾向は若者だけでなく、多くの世代に共通していました。「アメリカンドリーム」という言葉もあるとおり、国民全体が未来志向で消費することを恐れなかったため、ほとんどの人が貯蓄よりも消費することに熱心で、それほど貯蓄には重点を置いてこなかったのです。
貯蓄重視の欧米社会
一方、欧州には古い国が多く、階級社会も強固に残っていますからアメリカのように消費性向が高くはありません。全体的に貯蓄を重んじ、個人の信用を使って借金をすることは、アメリカほど多くありません。
また、欧州の人たちは概してたくさんモノを買うよりも「値段は高いが長く使えるもの」を好んで購入するという傾向があり、アメリカ人に比べればモノを使い捨てることもほとんどしません。
アメリカでは、比較的お金がある家でも使い捨ての安い紙皿や紙コップなどをどんどん使いますが、欧州の場合は陶器の食器を大事に使います。ファストフードの店でも、ナプキンやプラスチックの食器など、大盤振る舞いするアメリカと違い、そうしたサービスはほとんどありません。
昔に比べれば欧州でも使い捨ての文化が広がってきましたが、ここ最近、環境保護ムーブメントが活発になってきたこともあり、土に還るプラスチックや再生材料を使った紙の食器などが使われるようになりました。イベントでも間伐材でつくられたフォークやナイフを使うことが多くなりました。
そしてまた欧州の家はアメリカに比べてコンパクトで、所有する車も一般的に小型であり、かなりの省エネ社会です。
このように、もともと欧州ではアメリカと異なり、貯蓄をしたりモノを大事にしたりする下地があったので、現在でもアメリカほどFIREムーブメントは活発ではありません。それでも、そうした生き方に対する共感は確実に広がり、盛り上がりをみせはじめています。
雇用不安が「雇われない生き方」を拡大
FIREムーブメントが広がる背景には、世界一豊かな国であるはずのアメリカで、現在、雇用がかなり不安定になっている現状があります。雇用が不安定になる原因は、単に大企業がどんどんリストラをするからではなく、働き方の構造自体が変わっているからです。
2000年頃にダニエル・ピンクという元官僚の作家が『フリーエージェントネーション』(邦題『フリーエージェント社会の到来』〈ダイヤモンド社〉)という本を上梓し、一時期ブームになりました。
「フリーエージェントネーション」とは、働く人すべてがフリー、つまり非正規雇用になっていく、ということを意味する言葉です。
本の著者は今後、インターネットが発展し、AIがどんどん導入されることでさまざまな仕事が自動化され、どこからでも作業ができるようになるため、正社員として人を雇用していく必要性が少なくなり、必要なときに必要なだけプロジェクト単位で人を雇うようになっていくだろうという予測を立てました。いってみればそれは、誰もが個人事業主になる未来です。
この本が出た当時は「極論に過ぎない」と捉えられていましたが、リーマンショックが起こると、このムーブメントはじわじわと現実化し、実際に多くの人がフリーエージェント(=雇われない生き方)を実践しています。