本記事は、谷本真由美氏の著書『世界のニュースを日本人は何も知らない2 - 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。

教育資金,子育て,費用
(画像=ohayou/stock.adobe.com)

日本でオンライン教育が進まない理由とは

教育内容に関して考えてみましょう。

私の子どもが通う学校の授業を一緒に受けてみた感想ですが、進学校でかなり勉強熱心なのにもかかわらず、オンラインラーニングだから特にすごいというわけでもない。日本の書店で販売されている問題集を買ってきて家で自習すれば、もっとレベルが高いことをできるのではないかという印象でした。

また動画教材も、正直いってNHKの「Eテレ」で流している子ども向けの教育番組を見たほうが効率的なのではないかと思いました。理科や社会などをテーマにした昔の番組は特によくできていました。芸術や工作だって「できるかな」の再放送でも見ていたほうがずっと役立ちます。

大学で20年以上教員を続けており、学部から大学院博士課程まで幅広く指導してきたイギリス人の家人も私と同じ感想です。私は20年以上前に修士の一部をオンラインで取得していましたし、家人はオンラインのクラスも教えていたことがあります。遠隔教育を世界で最初に始めた The Open University の内情もよく知っています。

コロナ禍の教育に関しては、日本ではなぜか「オンラインで実施」ということがクローズアップされていますが、目的と手段を取り違えている人があまりにも多いように思われます。オンラインはあくまでも道具です。オンラインでやることが重要なのではなく、もっとも大事なのは教育効果やその内容なのです。

これはIT業界にいる人間ならよくわかっていることです。重要なのはシステムを取り入れることではなく、「システムを使って何をやるか」「どんな効果を生むか」です。効率的に仕事や勉強ができるならコンピュータやシステムを使わず、紙と鉛筆と口頭でも十分です。費用対効果をきちんと吟味し、活用するのがITの正しい使い方です。

日本でオンラインラーニングの導入が急ピッチで進まない理由として、実は、日本にはわざわざオンラインラーニングのシステムを使わなくても代用できる教材や問題集が豊富にあるということが指摘できます。スタディサプリや進研ゼミ、Z会など、民間企業が提供している遠隔教育も良くできていますし、非常にリーズナブルです。

ところがアメリカやイギリスの場合、書店に並ぶ問題集の数や種類が日本よりもはるかに少ないし値段も高額です。残念ながら品質もイマイチです。私は日本へ帰るときは子どものために問題集を大量に購入します。日本では100円ショップで売っている問題集でさえ素晴らしく質が高いからです。

そして、見逃してはならないのがさきほども例に挙げたNHKの教育番組です。アメリカやイギリスでは、これほど体系的に整った番組を公共放送で放映していません。イギリスの公共放送であるBBCの子ども向けチャンネルは、お楽しみ的な内容ばかりです。日本の場合、英語番組も豊富にあって本当に驚きます。

そのほか、イギリスやアメリカには日本と違って子ども向けの塾がありません。日本だと相当な田舎以外、街に何か所も塾や習い事の教室があって、費用も安く通学するのに便利です。ところがイギリスにもアメリカにもそういう塾がないのです。

大規模なチェーンの予備校もありませんから、学校が休みになっても塾のカリキュラムや家庭教師に頼ることはできません。だからアメリカやイギリスでは、親が学校側に「オンラインラーニングをやれ」と圧力をかけるのです。

先生がサボりたいからオンライン

さらに重要なポイントがあります。

日本では学校の先生が熱心なので、オンラインや動画の授業でも手抜きをしません。

その一方でイギリスの先生たちは手抜きをしたいからデジタル化したいのです。普段から「YouTubeで動画を見せておしまい」という授業もかなりあります。進学校ですら、ネットで無料配布している計算のプリントやらパズルを生徒にやらせて終了、ということもあります。

オンラインラーニングであれば、これらのリンクをシステムに掲載して完了です。これが日本で絶賛されていた「先進的」なオンラインラーニングの実態なのです。

これについて家人は激怒しています。大学だと、コピペしたり他校の教材を流用したりすれば盗用や剽窃(ひょうせつ)になるので、教材はイチからせっせとつくります。ところが幼稚園や小学校の教材は、大学の授業とは比較にならないほど内容が簡単なのに先生は手抜きしまくりです。他国のほうがオンラインラーニングの導入が「進んでいる」ようにみえるのは、なんらかの裏事情があるからだということは知っておいたほうがよいでしょう。

ちなみに「日本は技術が遅れているのでオンラインラーニングの導入が進まない」と言い張る人が多数いますが、日本の技術はまったく遅れていません。システムを学校に導入していないだけです。システムを導入するのは難しい話ではなく、通信インフラはモバイル通信でも十分ですし、クラウドの既存パッケージも大量にありますので、お金を払えばいいだけです。

そもそもオンラインラーニングには大した技術はいりません。GoogleドキュメントやLINEなど無料ツールの組み合わせで十分です。事実、イギリスではそんな感じです。

世界のニュースを日本人は何も知らない2
谷本真由美
著述家。元国連職員。1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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