シンカー:信用サイクルとリフレ・サイクルが堅調であれば、企業活動が刺激され、新型コロナウィルス問題が終息に向かう2022年度以降の設備投資サイクルの上振れに期待感が出てくる。実質設備投資のGDP比が設備投資サイクルをきれいに示す。労働需給逼迫などによる生産性と収益率の向上の必要性、第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発、そして新型コロナウィルス感染拡大後の新常態への適応などの投資テーマがある。コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進するかもしれない。2022年度から2023年度にかけては、バブル崩壊後になかなか打ち破ることのできなかった実質設備投資のGDP比の17%弱の天井を打ち破る動きが起こるだろう。その低く固い天井は、日本企業の長期的な成長期待と収益期待が低いままであったことを表していた。設備投資がけん引役となり、企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、景気を緩慢なU字型から強いV字型に進展させるだろう。設備投資サイクルが天井の突破に向けて動き出すことで、企業の長期的な成長期待と収益期待がついに上昇したことが意識される。30年来の転換点だ。デフレ構造不況からの脱却の機運で、景気拡大と株価上昇は加速していく可能性がある。松本史雄チーフストラテジストが、「CO2価格トン5千円也で、設備投資はブーストする」と題するポストコロナの議論をしている。「広義の脱炭素関連投資を増加させている業種に属し、セクターを上回る研究開発費を支出している企業は、長期的な競争力向上と株価アウトパフォームが期待される」と主張している。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

図:設備投資サイクルを示す実質設備投資GDP比

設備投資サイクルを示す実質設備投資GDP比
(画像=内閣府、日銀、岡三証券 作成:岡三証券)

日本株モニター:ポストコロナを議論(松本史雄チーフストラテジスト・曹昭仁ストラテジスト)

「CO2価格トン5千円也で、設備投資はブーストする」

日経調査によれば2021年度の民間企業設備投資は前年度比約10.8%増加する見通し。環境関連投資が917億円で同約35.9%増の計画となっている模様だが、設備投資に占める比率は0.35%に過ぎない。環境投資に関する過去の統計を参考にすると過少集計の可能性があり、我々は、環境投資の割合は設備投資の3〜4%、研究開発費の8%程度と推測している。2019年度の国民経済計算とCO2総排出量を前提にすると、環境目的の研究開発は1,248円/CO2トン、同設備投資は1,478円/CO2トンだったと試算できる。カーボンプライシングの考え方では、CO2削減コストがCO2価格を下回る投資や研究開発は実施される。CO2がトン5千円の世界では、環境対応の研究開発費が2019年度比で4.5兆円、設備投資が同4.3兆円増加する可能性がある。日本で大気汚染問題が深刻化した1970年代には環境投資額が設備投資の18%近くに達していたことを勘案すると試算には一定の妥当性があろう。我々の見方が正しければ、日本の民間設備投資は実質GDP比17%を超える可能性が指摘でき、弊社チーフエコノミスト会田の強気なマクロシナリオをサポートしよう。厳しい環境規制へ対応するための研究開発投資が日本の自動車産業の国際競争力を飛躍的に向上させたことも注目できる。広義の脱炭素関連投資を増加させている業種に属し、セクターを上回る研究開発費を支出している企業は、長期的な競争力向上と株価アウトパフォームが期待される。

・本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投 資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。

岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来