旬の上場企業・団体のトップをゲストに招き、様々な切り口から成長戦略や競争環境などに迫る日経CNBCの番組『トップに聞く』。生放送でのやりとりを通じ、投資家向け説明会とは一味違った投資材料をお届けする。

今回は板金や成型、機械加工技術に強みを持ち、家電や自動車などの試作品製作を手がける菊池製作所。 「ものづくりのソフトバンクグループを目指す」と話す創業者の菊池功社長を招き、日本のものづくり系スタートアップの有望性や同社の向かう先について聞いた。

菊池 功(きくち・いさお)
株式会社菊池製作所代表取締役社長
福島県出身。1970年に東京・八王子で独立。76年に菊池製作所を創設。金属、プラスチック製品や金型の試作、製造販売に当たる。

※ 以下、『トップに聞く』8月30日放送の収録内容を書き起こしてお届けします。

司会:今日は、菊池製作所社長、菊池 功さんにお越しいただきました。菊池さん、よろしくお願いいたます。

さて菊池製作所、まずは株価の推移を見ていきます。

上昇ラインの推移を見ていきますと、こちらの通り。2014年のときに非常に大きく上昇しています。このときの材料としましては、菊池製作所がロボット開発で有名な東京理科大学の小林宏教授とマッスルスーツを開発・販売するベンチャー「イノフィス」を設立したことがきっかけとなりました。

このマッスルスーツというのは、今でこそかなり有名になりましたけれども、菊池さん、このときはどのようなきっかけで設立するにいたったのでしょうか。

菊池製作所
(画像=日経CNBCより)

菊池社長:東京理科大学の小林先生とは、ある展示会で初めてお会いしました。それをきっかけに小林先生とともにこの商品は必ずや社会に貢献できると直感しまして、会社を設立いたしました。

菊池製作所
(画像=日経CNBCより)

司会:どのような製品かと言うと、こちらの写真にあります通り、2つのタイプがあります。左側が当初から開発・製造しているものでして「Every」というものです。これは肩に背負うような形で腰に巻きつけるものですが、かなり重いものを持ち上げるといったことができるのですね。

菊池社長:そうですね。マッスルスーツは腰の負担を和らげるロボットです。

司会:そうすると、介護の現場や物流現場、倉庫や工場の中などで使われるということですかね。

菊池社長:そうですね。最初は介護関係で使われていたんですけど、だんだんと工事現場や農業関係など一次産業でたくさん使われるようになりまして、今では2万台ほど出荷されております。

司会:そして、最近出荷、製造され始めたものがこの右側にある「GS-ARM」で、こちらは手を挙げて行う作業に向いているということですね。

菊池社長:そうですね。どうしても、手を挙げてやる仕事は肩辺りに負担がかかるんですね。このロボットを使いますと非常に負担が軽くなります。

司会:そしてそもそもは、東京理科大学の小林教授と共同で会社を作ったということですけれども、菊池製作所としてはこの試作品、大量生産、実際のものづくりの部分を全て請け負うということになりますよね。

菊池社長:そうですね。ものづくりは当然のことながら、他にもマーケット作りやサービス、営業ですね、そのようなものができるように一緒に立ち上げました。

司会:ちなみに、こちらのお値段はどれくらいなのでしょうか

菊池社長:今現在は、13万6,000円です。

司会:比較的、手に入れやすい価格ということなんですね。

菊池社長:最初は70万円くらいしたんですね。

司会:そうだったんですね。そこも普及していくきっかけになったかもしれないですね。

菊池社長:大分、手頃なお値段になったと思うので、皆さんに使っていただきたいと思います。

司会:そして現在、他にもですね、ものづくり系スタートアップに多数出資しているところでして、現在は21社に出資をしているということです。その中でも象徴的なのがこちら「ACSL」。旧社名は自律制御システム研究所と言いますが、こちらは千葉大学発のベンチャーということですよね。

ドローンを作っているということですけれども、この会社は2018年に東証マザーズに上場したということですから、菊池製作所としては上場のときに上場益も手に入ったということなんですね。

こういった事例がこれからも増えてきそうですけれども、このドローンについては、どういったところが強みというか、目をつけられたところなんでしょうか。

菊池社長:最初はですね、千葉大の野波先生と50%・50%で作った会社です。当社は50年来、加工のコア技術をしっかり積み上げてきた会社ですから、その技術を活かすために一緒に会社を作りました。

司会:これは、全く会社の影も形もないときから、共同出資をしたということで、当時は50%・50%だったんですが、現在も持ち分は薄まっていますけれども、出資関係というのはあるということですね。

菊池社長:そうですね。今でも大株主になっています。

司会:そしてビジネスモデルについて見ていきます。

先程もお話がありました通り、菊池製作所はおよそ50年の歴史を持っていまして、もともとは金型ですとか、家電の試作品づくりのようなところに非常に強みを持っていらっしゃいまして、最近では家電だけでなく自動車だったり、さまざまな量産にいたるまでのことをものづくりとして支えるというビジネスモデルを築いていらっしゃいました。

そして最近では、産学官連携ネットワークというところからロボットを中心に新しいビジネスを創出する、このような形でビジネスが発展したということですね。

菊池製作所
(画像=日経CNBCより)

菊池社長:そうですね。弊社はですね、一括一貫体制をしっかりやってきた会社でございます。そしてそれをベースにしまして、20年前から産学官連携をしっかり現在まで続けている会社でございます。

司会:そうすると、かなり大学の先生とのお付き合いというのも、深く広くということになりますよね。

菊池社長:そうですね。現在は、大学は50校、先生は60数名とコラボして仕事を進めております。

司会:やはり事業のアイデアはあってもなかなか量産に至れるか、実際にできるビジネスモデルなのか、といったところが悩みだと思いますが、この辺りを菊池製作所で引き受けられることがメリットということですかね。

菊池社長:そうですね。学校の先生方は素晴らしいコア技術を持っていますが、それをしっかりとしたものに作り上げる、という点が弱いです。そこで我々が一括一貫体制を持っている会社ですから、先生方のバックアップをして製品を作り上げるという形で進めてきました。

司会:アイデアがあってから実際に作り始めるまでの時間は大体どれくらいなのでしょうか。

菊池社長:長いものだと15年近くやっても世の中のマーケットに出ないものもあります。早いもので3年くらいで出るものもあります。

司会:ということですから、先程のACSLのように、最初からお金も出すし、経営のかなり細かい部分にも関与すると、そういった形でスタートアップを助けるやり方が多いわけですよね。

現在では、このプラットフォーム構築ということで、さまざまな関係先を繋ぎながら、新しいビジネスを立ち上げるお手伝いをしているということになりますが、こちらにありますように「ファンド、VC」とありますが、ファンドも菊池製作所として組成したということになりましたね。

菊池製作所
(画像=日経CNBCより)

菊池社長:おかげさまで、ロボットファンドを立ち上げさせていただきました。

司会:これはそのうち規模としては、何十億という規模になっていくんですか。

菊池社長:現在は30億円でございます。

司会:まだまだ資金を出したいという方はいらっしゃるんですかね。

菊池社長:これからもまだ対応していければと考えております。現在は30億円で考えております。

司会:そして、先程のお話にありました通り大学・研究機関とのパイプというものも強みになっているわけですけれども、先程の21社に出資している以外の会社との繋がりもあるわけですよね。今、大体どれくらいの会社と業務的な提携関係にあるのでしょうか。

菊池社長:現在ですと、大分増えまして120社ほどになっております。

司会:そして、その120社ほどを繋ぐのがこの「WORLD ROBOTEC」という仕組みになりますけど、これはネット上で誰でもアクセスできるECサイトのようなものですよね。

そこにさまざまなものづくりロボット製品が並んでいるということになりますが、こちらにずらっと代表的なものを出していただきました。どんなものが引き合いとしては強いですか。

菊池社長:特に、水中ドローンはこれから非常に社会貢献できる商品だと思っています。

司会:こちらはどのような用途で使われるものなんでしょうか。

菊池社長:日本は島国ですから、周りはずっと海に囲まれています。これから養殖漁場の管理とか、魚の生育状況の管理、これからは海上風力発電の基礎的なものの管理などにも凄く威力を発揮すると思っています。

司会:こちらは既に製品化は済んでいるということなのでしょうか。

菊池社長:はい、済んでおりマーケットに出ております。

司会:そうなんですか。この130社くらいと取り引きし、製品を並べているということなんですけれども、お客さんからしますと「複数の全然違う会社のロボットを合わせて使いたいです。」といった声もあるんですかね。

菊池社長:そうですね。現在は200点くらいになっていますから、その中で使用シーンによってはお互いのコア技術を融合して、新しい製品を作り上げるということも、私たちのこれからの大きな課題になってくると思います。

司会:では、直近の業績を確認します。菊池製作所、4月期が通期ですので21年4月期が直近の通期決算になります。御覧の通り、売上高は17%ほどマイナスとなりました。

営業損益・経常損益・最終損益に関しては、赤字が拡大という形で着地しています。そして22年4月期、今期ですけれど売上高は3期振り増加に転じる見通しです。一方で利益に関しましては、赤字が縮小するものの3期連続最終赤字という見通しです。

菊池さん、ちょっと決算は厳しい感じなのですが、これはコロナ禍の影響も大きいのでしょうか。

菊池社長:そうですね。本業の試作・金型の量産については、本当に受注量が少なくなりましたコロナの影響が大きく響いております。

司会:ただ、今期に入ってから少し復調の動きというのは出ているんでしょうかね。

菊池社長:そうですね。現在は、上がり気味になっております。

司会:ということですので、もともとの本業はまだ厳しい状況が続くということですけれども、ロボット装置売上高ということになりますと、前期で前の期と比べて50%ほどの増収になっているということで、こちらは非常に現在も伸びが大きいですし、今後も期待できそうですよね。

菊池社長:そうですね。ロボット関係は大きな日本の産業になると思っております。現実的にここ15~16年で仕事をしておりまして、肌で感じるようになってきました。

司会:そうですか。やはりコロナ禍もあってあまり接触しないものだったりとか、人の代わりに現場で働けるようなロボットというのは引き合いとしては強まっているという印象もありますでしょうね。

そして菊池製作所としては「ものづくりのソフトバンクを目指す」というふうに言ってらっしゃいます。こちら非常に興味深いのですけれども、ものづくりのソフトバンクというと、どのようなことになるんでしょうか。

菊池社長:この言葉は、私が作った言葉ではないんですよ。あるマスコミの人が作った言葉なんですけど、私もできれば規模的には全然違いがありますけど、そのような形に将来持っていければ、という方針で進めていきたいと思っています。

司会:ソフトバンクはかつてネット業界に非常に投資をしまして、アリババ集団だったり、Yahoo!JAPANを育てましたが、そういう会社がロボットから投資先に出てくることを期待するということですね。

菊池社長:そうですね。スタートアップの会社さんと事業展開するために、社長さんの話、事業内容の話をよく聞いて、商品が本当に社会貢献できるものなのか、ということをしっかり見極めてそして、しっかりとバックアップをしております。

司会:出資先なのですが、菊池社長を始めとして社内に目利きのチームがいると伺っていますけれども、これからもロボット以外も含めて増えていきますかね。

菊池社長:そうですね。社会に貢献できるような会社・スタートアップ企業があれば、我々もトータル的にこれからバックアップを続けていきたいと思っております。

司会:最近では、画像認識AIソフトの「アウル」という会社にも出資していますので、必ずしもハードウェアベンチャーだけではないということになりますね。

菊池社長:そうですね。やはり1つは、人材とか技術とか、もう1つはマーケットとかサービスとか、トータル的に対応していくのが非常に大事だと思っています。

司会:では、現在の菊池製作所の株価を確認します。現在、23円高の781円となっています。2月中旬に1,000円近くまで買い進められる場面もありましたが、足元では8月19日に年最安値の705円をつけ軟調な展開となっています。

さて、菊池さん、ということでこれからも「ものづくりのソフトバンク」を目指しつつ 出資先を広げていかれるということですが、菊池社長は現役世代でですね、まだまだこれからも現役でいかれると思いますけれども、菊池製作所の後継者問題などは考えていらっしゃるのでしょうか。

菊池社長:そうですね。一番大事なのは「ものづくり」。今以上にしっかりと対応していくということが大事だと思っています。

司会:かなり目利き力も備わってきましたか。

菊池社長:そうですね。スタートアップ企業をトータルバックアップするには、相手の社長さんの人柄というのが非常に大事になってくると思います。

司会:かなり出資先も若手の経営者が多そうですよね。

菊池社長:そうですね。今、私の孫くらいの人が会社を次々に作って、相談にきています。

司会:そうすると、日本のものづくり、こういったロボットに関しては、将来が期待できそうということでよろしいでしょうか。

菊池社長:非常にこれからと思っております。

司会:ここまでは菊池製作所社長、菊池功さんとお送りいたしました。菊池さんありがとうございました。