本記事は、金原章悦氏の著書『働きやすい会社の仕組みのつくり方』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています
売上は伸びる一方、「ブラック化」が加速する
●社会保険加入のために会社を設立
お店が成長していくと、長く働く社員が何人もいる状態になります。その中には、近い将来、結婚を考える人もいます。あるとき、一人から聞かれました。
「厚生年金や健康保険といった社会保険に加入できないんですか? 」
結婚して家族を持つにあたり、会社の内部体制がどうであるかは、働く側にとって重要な要素です。
つねに人手不足の状態だったので「社会保険がない」という理由で従業員に辞められるのは困る。ただ社会保険へ加入しようとしても、どうしたらいいかわからないのが実情です。お客様に美味しいお好み焼や鉄板焼を提供することや、お客様を喜ばせることばかりに頭が行き、「経営」については、まったくのド素人でしたから……。
税理士さんへ相談し、「社会保険に加入するには、会社を設立する必要があります」と言われ、会社を設立。
1997年3月のことでした。社名は「株式会社テイル」です。
●機関銃を撃ちまくり
経営はド素人でしたが、売上や集客には人一倍関心がありました。
月に一度、お店の営業終了後、事務所にて売上の見込みなどをチェックする会議を開き、各店長から報告させ、一人ひとりが話すたびに「売上が低い! もっと上げろ! 」。機関銃のごとく延々と言葉で責め、売上目標を達成させるために、言葉を撃ち続けていました。
当時、店長になりたてだった現在ブロック部長の蛯原祥平はこのときのことを振り返り、「死刑台に順番に並ばされるような気持ちだった」と言っています。店長会議以外でも、顔を見れば「もっと売上を上げる努力をしろ!」と怒鳴り散らす私に、現在、ナンバー2である小西誠などは、ストレスで胃や肺に穴が開いてしまったくらいです(それも2、3回)。今の時代だったら、こうした私の対応は、完全にパワハラ認定です(笑)。
ここまで厳しいノルマを店長に課した理由は、当時の私は「儲けたい」という思いが人一倍強かったからです。店舗数が増えるに従い、売上はさらに伸びていき、さらに、独立のときにした借金も完済でき、儲ければ儲けるほど、懐も豊かになり「お金を稼ぎ続ける」ことの虜になっていたのです。
だから、店長たちに「もっと売上を上げろ」と言い続けていた。今思えば卑怯者で情けない人間だったと反省するばかりです。金の亡者でした。
●昇給なし。給与、賞与も社長の都合で決まる
厳しい売上ノルマと社長からの言葉責めに加え、当時の労働工数は月300時間。これだけでも十分にブラック企業ですが、当社のブラックさを示す最たるものといえば、「給与」。そもそも、それぞれの給与を決める明確な基準がなかったのです。
私が行っていた給与の決め方は、「日給」を決め、それに掛けることの30日。たとえば、日給が5000円であれば、「×30日」で、毎月15万円を給与として支払う。しいて言えばこれが基準です。
中途社員であれ、パート・アルバイトであれ、面接のときに「お給料はいくらほしいですか?」と聞き、相手が提示した金額が妥当であれば、「じゃあ、それで決まり」。相手の言い値で採用していました。その人の能力や評価を反映したものではなかったのです。
さらに、一度、給与の総額が決まれば、上がることはない。どうして上げるのか、当時の私には「昇給」という発想や知識さえありませんでしたし、昇給させる方法もわからなかったからです。
賞与は「寸志程度」を支給していました。支給の基準は一切なく、退職させないように額を決めていたのが実情です。
この人は重要な戦力なのでこのくらいやってもいい、辞めるかもしれない人にはこのくらい、といった具合に、すべて金原の卑劣な「鉛筆ナメナメ」での決定でした。
●私を目覚めさせたある社員の一言
とどめは、私が会社の財務状況について平気でウソをついていたことです。利益が上がっていても、「借金が多い」とウソを並べ、給与や賞与をできるだけ低く抑える。
なぜ、ウソをついたか? 理由はお金を貯めたいだけ。社員には少ない給与で頑張ってもらい、自分はいい車に乗ったり、いい服を着ていた。とんでもない社長でした。本当に申し訳ない。猛省しています。
こうしたウソは社員たちには当然バレていて、「こんな会社、次の給与をもらったら辞めてやる」と、多くの社員たちが考えていたと思います。ウソを平気でついている社長の下で働いても、やりがいなど生まれるわけがありません。実際、給与を払うたびに社員が辞めていきました。
「また社員に辞められてしまう……」「誰が辞めていくのか」と、給料日が近づくたびに私はビクビクしていた。
当然だと思います。ある日、現在取締役を務める、小西誠からこう言われました。
「社長、僕は一所懸命働いています。仕事も好きです。今、僕には結婚したい相手がいるのですが、結婚しても大丈夫ですか? ここで働いていて将来はありますか? 」
彼の言葉にハッと気がつきました。
私に私の人生があるように、社員一人ひとりにもそれぞれの人生がある。そんな大切なことを無視して、私は彼らを「虫けら」くらいに思い、扱ってきた。大変なことをしていたと気づかされたのです。
彼の言葉をきっかけに、「こんなことをやり続けていてはいけない」と深く反省し、「働いてくれる人たちが、安心して働き続けられる会社にしなければならない」と思うようになりました。
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