本記事は、金原章悦氏の著書『働きやすい会社の仕組みのつくり方』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています
社員への姿勢を180度変えた小山社長の言葉
「金原さんは社員のことを、大事にしていませんよね」
私は創業者で「会社勤め」をしたことがありません。18歳で飲食業界に飛び込み、20歳で独立。お好み焼・鉄板焼の「師匠」はいましたが、「社長」という存在のもとで働いた経験はありません。だから、「社長業」についての知識も知恵もない。
このように社長の仕事とは何かを知らない人は、世の中にはたくさんいると思います。「社長」でいながら、「社長業」についてまったく理解していない自分に不甲斐なさを感じ、「社長業」を学びたいとずっと思っていました。
小山社長は、コンサルタントですが、ダスキンという現業を持った現役の経営者でもあります。そんな人は、小山社長だけです。本物の社長は、どんなことをしないといけないのか? 初めて本気で学びたいと思いました。
武蔵野に入会するとさまざまな研修があります。その中で最初に研修を受けたかったのが、小山社長の「かばん持ち」です。1日36万円で3日間、総額108万円で小山社長を独り占め。たくさんの質問ができ、悩みを打ち明け、仕事のこと、プライベートなこと、人生・家族・お金・ドロドロのことなど、何から何まで相談ができるプレミアムな研修です。
この「かばん持ち」研修のときに、小山社長からこう言われました。
「金原さんは、会社のために汗水をたらしている社員のことを、大事にしていませんよね」
社員を「大事にする・しない」なんて発想がそもそもなかった当時の私は、何を言われているのかまったく理解できません。そこで咄嗟に、「いえ、そんなことはないと思いますが……」と答えました。
すると小山社長から「じゃあ金原さんは、社員の名前を全員、フルネームで書けますか?」と尋ねられました。
この小山社長からの問いかけに、私はハッとしました。当時の社員は18人くらいでしたが、社員全員の名前をフルネームで書けないどころか、下の名前すら知らないのが実情でした。
呆然としました。小山社長がおっしゃる通り、社員を大事にしていませんでした。心の奥底では彼らを会社や私のために都合よく働いてくれる「働きアリ」にくらいしか思っていなかった。こうした私のスタンスは、当然、社員たちにも伝わります。「この会社のために頑張ろう」という気持ちにはなれないのは事実だと思います。
武蔵野へ入会して、どんな素晴らしい仕組みや制度を導入しても、取り組む人たちに「気持ち」が入っていなければ、うまく機能しません。
そうさせてしまった大きな原因は、社長である私の「社員を大事にしていない」姿勢や態度そのものにあったのです。「かばん持ち」の研修でそのことに気づかせていただき、感謝しています。
社長の言葉・行動1つで、社員はいかようにも変化する
小山社長のアドバイスを素直に実践
私自身が本気で会社を変えていく決意があるのならば、私が自分自身を変えていくしかありません。つまり「社員を大事にする社長になる」。
しかし、「大事にする」といっても、その方法がわかりません。
そこで私は、小山社長に質問しました。
「では、どうやって社員を大事にしたらいいのでしょうか?」
小山社長の答えは、こうでした。
「社員とのコミュニケーションを重点に置くこと。それと、怒っては駄目です。傾聴力を持って。そして、社員の話は最後まで聴くこと」
私はこの言葉をしっかり手帳にメモし、会社に戻ったらすぐに実践することを決意しました。
まず行ったのは、会議等で私が話す時間も量もぐっと減らす、です。
それまで、私の出席する「会議」といえば、私の独壇場です。スタートと同時にひたすら話し続ける。社員の誰かが何か発言すると、すぐにその発言を遮って、機関銃のごとく話し、撃ち続ける。弾がなくなっても撃ち続けていました(笑)。
これとは逆のことを実践したのです。会議中はじっと黙って、社員たちの発言を聴く。そして、最後の5分だけ口を開き、そのときの議論についての最終決定をする。会議全体の発言量を10とすれば、これまでの私の発言量はほぼ10。それを1とか、多くても2くらいに減らしました。
また、会議以外での社員たちとの会話の仕方も変えました。
社員の話は一切聞かず、こちらが一方的に話し続けていたのをやめ、社員たちから私に報告させる仕組みに変えました。どんな内容であろうと、まずは耳を傾け、最後まで聴く姿勢を貫くことにしたのです。
こうした「傾聴」の態度が体に馴染んできたら、さらに一歩進めて、最後まで聴いて、それに対して私がどう思うかを伝えるようにしました。その際、基本的には相手の考えや思いを否定しません。どんな意見・提案であれ、相手が何を考えているかを理解するように努め、「なるほどな。そういう考えもあるな」と受け入れ、その上で、「それを実現するには、どうしたらいいと思う?」と、社員たちに実現に向けて思考をさらに深めさせ、考えさせ、発言させるように促しました。
このような会話のやり方を社員たちと意図的に行っていきました。
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