本記事は、浜口隆則氏の著書『生き残る会社をつくる「守り」の経営』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています

多くの社長が間違った戦略を持ってしまう5つの原因

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(画像=rufous/PIXTA)

では「なぜ多くの経営者が守りの重要性に気づかないのか?」を見ていきましょう。

何千人もの経営者と接してきて「5つの原因」があることに気づきました。

●原因1:攻守の切替えができない

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(画像=『生き残る会社をつくる「守り」の経営』より)

上の図は、会社が発展していく状態を表しています。

時間の経過とともに「会社がどのように軌道に乗っていくか」と言うと、最初はなかなかうまくいかないわけですが、どこかのタイミングでうまくいくようになって急激に良くなっていきます。その後は、安定軌道になっていきます。こういう展開になることが多いです。

前半の時期はゼロから全てを築いていかないといけないフェーズです。顧客も売上もゼロから始めて開拓していかないといけません。ですから、このフェーズでは攻める必要があります。つまり攻めを戦略の基本にして良いフェーズです。そうしないと突破することが難しいです。

しかし、後半の時期は築き上げた成功度や規模を安定して継続するフェーズに入っていかないといけません。ですから、このフェーズでは守りが戦略の基本になってきます。攻撃よりも守備が大事になってくるのです。

前半のゼロから軌道に乗せるまでを「攻めの姿勢」で苦労しながら頑張って実現させるので、その方法論が社長に染みついてしまいます。社長の「成功体験」として強く記憶に刻まれてしまいます。

ですから、多くの社長は前半から後半に移行したときに「攻守の切替え」ができないのです。ずっと攻めの戦略でやってきたので、急に守りを戦略にできないわけです。

攻めていくことで成功体験を得てしまうので、守りが重要なフェーズになっても「攻めることが重要」だと思い続けてしまいます。結果として、ディフェンスが重要になっているにもかかわらず「ディフェンスができないまま」という状態を生んでしまいます。

●原因2:大企業・ベンチャーの戦略に惑わされる

戦略は前提条件によって変わってきますから、取るべき戦略が、会社の資本力によって違うはずです。

大企業のように資本力があれば、攻めて失敗しても許容範囲が大きいです。しかし中小企業のように資本力が弱いと、1回失敗しただけでも倒産してしまう可能性があります。ですから、資本力が弱い中小企業が取るべき基本戦略は、攻めのほうではなく「守り主体」であるべきです。

下図のように縦軸に会社の「資本力(≒リスクの許容範囲)」と横軸に「取るべき戦略」を使って資本力と戦略の関係を可視化してみます。中小企業は資本力が低いですから下のほうにあります。大企業は資本力が高いですから上のほうにあります。

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(画像=『生き残る会社をつくる「守り」の経営』より)

大企業は資本力が強いです。そして、ベンチャー企業のようなスピードで成長しようとはしていませんが、株主の圧力もありますから、ある程度の成長はしたいと考えています。また全体ではないですが、一部は新しいことに挑戦していますから、上の図の「大企業」の場所に位置しています。

ベンチャー企業は上の図の「ベンチャー」くらいの位置を宿命づけられています。お金をたくさん集めて「できるだけ速いスピードで成長する」ということを期待されて投資されているわけですから、急成長という戦略を取らざるをえないわけです。

私もベンチャー企業に投資をしているので実感できますが、ベンチャー企業は攻め続けることを期待されています。投資家から集めたお金を使って、リスクを取ってでも短時間で成長拡大することを期待されています。だから、攻めます。乱暴な言い方をすると、半分、失敗を覚悟で突っ込んでいきます。これは株式会社が生まれた構造・原理そのものですから悪いことではありません。急成長をするためにはリスクを取らないといけませんが、そんな莫大なリスクを経営者個人が一人で負うことはできません。ですから、経営と資本を分けて、資本は投資家から集めてリスクを分散して、経営者はリスクを覚悟で突っ走っていきます。

このように大企業とベンチャー企業は成長戦略を取っていきます。というか、取らないといけない会社なのです。

しかしながら、中小企業は違います。「どの位置に存在すべきか?」と言うと、資本力が低くて、成長よりも生き残りの戦略を取るべきですから、右ページの図の左下のような位置にいるべきです。

資本力が低いという前提条件があるということは「失敗に対する許容量が低い」わけです。ですから、最初に考えるべきことは「生き残る」ということです。急成長させるということは、それだけリスクが高くなっていくということですから、資本力が低いのにもかかわらず急成長のリスクを取るということは無謀だということがわかります。

それにもかかわらず、大企業やベンチャー企業が攻めの戦略でガンガンやっていると、目立ちます。こんなことをやった、あんなことをやったと、攻めの戦略でやったことをメディアなどで目にする機会も多くなります。

ですから、どうしても大企業やベンチャー企業がやっていることを見る機会のほうが多くなって影響を受けてしまいます。そういった資本力を背景にした攻めの戦略が「全ての企業における正しい戦略」だと勘違いしてしまうのです。

成長を余儀なくされた会社群によって惑わされてしまうということです。

中小企業が右上に行ってはいけません。もちろん、アクセルを踏んで成長を目指す期間も必要でしょう。しかし、基本的には、資本力の高い会社と資本力の低い会社では取るべき戦略は違うはずです。

自社に見合った戦略を取ることが重要ですから、中小企業はガチガチに守るくらいで良いと思います。

大企業やベンチャー企業は全体の1%以下しか存在していません。

ですから、世の中の99%の会社は守りを重視すべきなのです。

●原因3:成功者のポジショントーク

3番目の原因は、2番目の原因と少し似ています。ビジネスにおける成功者が様々なことを言います。メディアに出たりする経営者も皆さんの周囲にもいらっしゃるかもしれません。

成功者が自分の「成功した理由」を語るときには「自分は、こうやって成功した」という何らかの特徴が欲しいものです。できれば、その特徴によって他の経営者とは違うユニークなポジションを築きたいと考えていたりします。ですから、人の関心を得やすい「攻めの戦略」を語ることが多くなります。

自分が望む「ポジションを確立させる」内容を中心に話をするようになるということです。たとえ実際の現場ではバランスに気をつけていたとしても、特徴のある部分の内容に偏ってしまいます。こういった話し方をポジショントークと言います。

成功者は「地道に守っています」とは言いたくないのです。「会社は攻め続けないといけない」という攻めの姿勢のほうが見栄えがするのを知っていますし、メディア受けもします。ですから「攻め続けている」という姿勢を保つことが多いです。

それを見たり聞いたりしてしまうので、多くの経営者は攻めこそが成功への道であるという考えを強化してしまいます。本質的に正しいか正しくないかではなく、世の中に出て目にするか目にしないかの違いで影響を受けているということです。

一方で、「守り勝ち」をしている経営者は地味です。メディアにも出てきません。しかし、何千社もの実情を見ていると、そういう経営者こそが本当の成功者であることがわかります。

●原因4:「強者=攻め」という思い込み

これまで見てきた3つの原因が相まって「攻めが戦略の基本として正しいのだ」という考えが強化されていきます。

それが強いメンタルブロックになっていきます。「強者=攻め」という強い思い込みになってしまうのです。「強者というのは攻めるものだ」という思い込みです。

経営者は「会社を強くしたい」と考えていると思います。そうやって会社の強化を考えるときに「強くあるためには攻め続けることが重要だ」「攻めの姿勢でいることが必要だ」ということが刷り込まれてきているので「強くする=攻めないといけない」という発想から抜けられなくなっていきます。

結果として「守ることは弱者のすることだ」と思うようになってしまいます。

そして、守りを疎かにするようになってしまうのです。

●原因5:一時的な成功で油断してしまう

社長に対してアドバイスしていることの一つに「欲のコントロール」があります。

中長期的に経営を成功させ続けるためには「欲のコントロール」が重要になってきます。欲はプラスにも働きますが、暴走してマイナスにも働くことが多いからです。特に、一旦成功して軌道に乗った社長は「欲が暴走する」こともあるので注意が必要です。

一方で、満足し切ってしまうことにも問題があります。特に、低いレベルで満足して慢心してしまうのは良くありません。「満足欲」という欲を簡単に満たしてしまうのは「ほどほど」であればプラスに働きますが「行き過ぎる」とマイナスに働きます。

経営を継続していくためには、長く続く道のりのところどころで満足感を味わうことも大事なことではあります。しかし満足し切ってしまうと、そこから積極的に何もしなくなってしまいます。

「一時的な成功で油断している」状態になります。

満足してしまい、何となく「このままで大丈夫だ」などと考えていると、守る必要もないので、ディフェンスの必要性を感じなくなってしまうのです。

私たち経営者が守りを意識できなくなってしまう原因を見てきました。これらの原因によって「守りの重要性」に気づきにくくなっているわけですが「守りの重要性」は厳然として存在します。

最も危険な状態というのは「問題に気づいていない」ときです。ですから、気づくことができれば、最悪の状況からは抜け出せるわけです。多くの経営者は、元々は優秀な人が多いですから、この盲点のような「実は守りが重要」ということに気づけば、会社の生存率は一気に上がるはずです。

ただ、守りに関しても、ムダな試行錯誤を繰り返して多くの失敗を重ねてしまうと時間も資源も無駄に使ってしまうことになります。

生き残る会社をつくる「守り」の経営
浜口隆則(はまぐち・たかのり)
会計事務所、経営コンサルティング会社を経て、1997年に「日本の開業率を10%に引き上げます!」をミッションとするビジネスバンク社を20代で創業。シェアオフィスのパイオニアとして業界を牽引していくなかで多くの会社が失敗する現実を見て、高収益事業だったシェアオフィス事業を売却して経営者教育を始める。数千社という会社経営の現実を見てきた経験から生み出された「経営の12分野」「社長力の10分野」「幸福追求型の経営」などのプログラムを提供する〈プレジデントアカデミー〉は累計参加者が3万人を超える「社長の学校」となっている。早稲田大学でも教鞭をとり「ビジネスアイデアデザイン」「起業の技術」「実践起業インターンREAL I&Ⅱ」などユニークな講義で人気に。著書に『戦わない経営』『社長の仕事』『起業の技術』(かんき出版)などがあり、海外でもベストセラーに。大企業の社長から若い起業家まで多くのファンに支持されている。横浜国立大学教育学部卒業、ニューヨーク州立大学経営学部卒業。株式会社ビジネスバンクグループ 代表取締役、スターブランド株式会社 代表取締役、PE&HR株式会社 社外取締役。現在も複数事業を経営する実践者であり続けている。

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