本記事は、浜口隆則氏の著書『生き残る会社をつくる「守り」の経営』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています
守りの3大分野Ⅱ:〈分散させる〉
「分散」の定義と重要性
守りの3大分野の「備・散・流」の中で、多くの会社が最もできていないのは「分散」です。
「多くの会社ができていない」と聞くと「難しいのでは?」と感じてしまうかもしれませんが、意外と簡単にできる可能性もあります。なぜなら、分散ができていないのは「やっていないだけ」の場合がほとんどだからです。しかしながら、守備の予防的な観点からは特に「分散」は強力な力を発揮しますので、ぜひ取り組んでみてもらいたい分野です。
経営における「分散」は反対の意味の「集中」と対比して考えるとわかりやすいです。「集中」は少ない領域に保有する全てのリソースを投下しているような状態です。反対に「分散」は保有するリソースをバラバラの領域に分けて投下することです。
分散の意義は「すべての卵を1つのカゴに盛るな」という表現で想像してもらうとわかりやすいと思います。すべての卵を一つのカゴに入れて持っていたら、その一つのカゴを落としてしまうとすべての卵が割れてしまう可能性があります。
ですから、1つにまとまっていて楽な面もありますが、一度にすべてを失うリスクもあるということです。逆に、2つ以上のカゴに分けていた場合は、1つのカゴを落としてしまっても、他のカゴの卵は無事です。2つに分けて持たないといけないという面倒はありますが、すべての卵を一気に失うというリスクを回避できます。
このように厳然と存在するリスクを想定して、そのリスクを回避しようとすると「分散」は避けて通れない手段です。ですから、分散はリスクヘッジの基本中の基本と言えます。
多くの会社では分散ができていない
経営者が会社の「守り」を考えたときには「分散」を考えるべきです。
しかし、私たちが最も頻繁に聞く経営セオリーは「集中」ではないでしょうか? 「選択と集中」という経営戦略です。もちろん、集中する戦略にも理はありますし、重要ではあります。特に起業時などの力が弱い状態のときに、ゼロから軌道に乗って安定する状態まで立ち上げていかないといけないときなどは、自分たちが持っている限られた資源を集中させて狭い領域に注ぎ込んだほうが、パワーが出て成功する確率が高まります。
しかし、上昇し続けないといけないような時期が終わっている段階の会社は、安定軌道を継続していくために「集中」よりも「分散」を考えていくべきです。「選択と集中」は良い戦略でもありますが、集中した領域に何かが起こってしまったら「全てが終わってしまう」というリスクがある玉砕覚悟の戦略とも言えるからです。
経営を取り巻く環境は「変化することが常態」です。そんな変化の激しい環境の中で、特定の一点に集中して事業を行っていたら、その一点に何かが起こってしまったら、それで一気に廃業に追い込まれる可能性があります。
集中すると、そのメリットを享受すると同時に、リスクも高くなっているものなのです。このような「選択と集中」の負の部分を、もっと考えるべきです。ですから、実際に実行するかは別としても、一度、「分散」を真剣に考えてみてください。
分散ができていない会社は、ピンチに弱い
分散の重要性を確認しましたが、それでは、なぜ多くの会社ではリスクヘッジのための「分散」ができていないのでしょうか?
分散すると効率が少し下がってマイナスにも働きますから、成長している時期などは集中したほうが効率的です。ですから、集中戦略を取り続けてしまうことが多いです。そのようにして、気づかないうちに「ピンチに弱い体質」のまま経営を続けてしまいます。
このように最も大きな障害は「必要性を理解していない」ということです。世の中で広く流布されている「フォーカスする」という戦略が過大に評価されてしまっています。ですから、多くの経営者は集中することに意識が向きがちで、分散への転換ができなくなっています。
分散は全方位的ですから、集中戦略よりわかりにくくて面倒です。また、分散を進めて安全性を高めるために、今の利益を削らないといけない部分があります。分散を進める領域によって程度は違いますが、効率は少し下がることが多いです。一つのことに集中したほうが効率的なのは当然です。それを2つ以上にすれば、効率が落ちるのも当然です。
このような「わかりにくさ」「面倒」「効率の低下」などがあるので「分散を進める」という先憂後楽ができなくなるのです。
会社が社会という外部環境に存在していて、外部環境の変化をコントロールできない限り、社会の変化がプラスにもなればマイナスになることもあります。会社を守っていくためには、マイナスのときに耐えられる体制にしていかないといけません。
集中は上げに強いが下げに弱いです。 分散は効率に劣るが下げに強いです。
下げの局面でも強い会社を作るために「分散」を経営に取り入れていきましょう。
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