富裕層を中心に美術品投資への注目が高まっている。世界の大富豪が美術品を高額落札したニュースが報道され、個人投資家が美術品を購入し、値上がり益を得ているケースも多くなってきた。
もともと美術品を好む人やコレクターはもちろんのこと、税制改正によって節税メリットに着目して美術品投資に興味を持つようになった人も増えてきた。美術品が投資対象として再注目され、その価格上昇に熱い視線が注がれている。
そこで本記事では、美術品投資に興味をお持ちの方に向けて、美術品投資の最新事情からメリットとデメリット、そして具体的な投資方法について解説する。
1. 美術品投資とは?
そもそも美術品投資とは? 最初にその疑問にお答えしよう。
1.1. 投資対象はさまざま 美術品投資とは?
美術品投資の対象となるのは、主に絵画やオブジェ、さらに骨董品(アンティーク)などの作品だ。著名な作者による作品や、賞の獲得などで一躍脚光を浴びた作者による作品、さらには古いことが価値を持つ骨董品など投資の対象は実にさまざまだ。
1.2. 芸術嗜好のある新興富裕層などの富裕層マネーが流れている
歴史的に世界の大富豪たちは美術品の収集を好む傾向がある。それは美術品に対する強い愛着だけでなく、世界的な名作を所有することへのステータス意識もあるだろう。
19世紀、日本の浮世絵が欧米で大ヒットし、西洋絵画に影響を与えたことがあるが、このように異文化に初めて触れた時の好奇心も手伝って、新たなジャンルの美術品が注目されることもある。
今の時代においても、芸術を好む新興の富裕層たちに美術品を収集する動きが起きており、美術品のマーケットに富裕層マネーが流入している。株式会社ZOZOの創設者である前澤友作氏がジャン=ミシェル・バスキアの作品を123億円もの価格で落札し、話題になったことがあるが、こうしたことが珍しくない状況が生まれている。
1.3. 海外のファミリーオフィスの運用先に美術品投資が数%含まれる
実際のところ、富裕層たちはどの程度、美術品に投資をしているのだろうか。その傾向をうかがい知ることができる1つのデータがある。それはスイスの金融機関UBSが発行した「グローバル・ファミリー・オフィスレポート」の2020年版だ。このレポートによると、ファミリーオフィスの運用先として「美術品・アンティーク」が3%含まれている。「金・貴金属」も同じ3%なので、少なくともこのデータでは貴金属と美術品が同格と見なされていることが推測できる。
2. アート市場の盛り上がり
さらに、美術品投資の最前線であるアート市場が大いに盛り上がっている事実を知っていただこう。
2.1. アート市場の盛り上がり1:2010年ごろから動き
2010年頃からのアート界ではコンテンポラリーアートが注目を集めていた。代表的なアーティストとしては草間彌生、村上隆などがいる。こうしたアーティストたちの活躍もあり、今の動きにつながる美術品ブームが到来した。そのなかでも顕著なのが、イギリスのアーティスト バンクシーの活躍だ。数々の作品が高額落札されている“彼”だが、オークション中にシュレッダーが作動して作品の下半分が切り刻まれた「愛はごみ箱の中に」は約28億8,000万円もの高額落札になったことが改めて耳目を集めたこともあった。
2.2. アート市場の盛り上がり2:2020年の世界の美術品取引市場の売上高
先述のUBSが発行している「ジ・アートマーケット2021」で発表されたデータによると、2020年に世界で取引された美術品の総額は501億ドル、日本円にして5兆円以上の規模だ。美術品のマーケットがかなり大きな規模であることがおわかりいただけると思う。そしてこの規模は、これからも拡大していくことが必至だ。
2.3. アート市場の盛り上がり3:取引経路別の売上高
次に、どんなルートで美術品が流通したのか、取引経路についても見てみよう。最も多いのはギャラリーやディーラーで、約58%を占めている。それに次ぐのが公開オークションで約35%である。この2つだけで取引セクターの90%以上になる。多くの美術品はこうした流通経路で取引されていることが分かる。
注目したいのは、取引経路におけるオンライン取引の隆盛だ。UBSのレポートでもオンライン取引の拡大に言及しており、2021年は全取引のうち38%がオンラインで取引されたと報告されている。この傾向は今後も続くと結論付けており、取引経路のシェアでは今後オンライン取引が主流になっていくと考えられる。
3. 美術品投資のメリット
美術品投資のメリットについて、特に富裕層の方々にとって意味のあるメリットを中心に解説しよう。
3.1. 美術品投資のメリット1:展示効果
言うまでもなく、美術品は「飾り」「鑑賞する」ものだ。そもそも美術品投資を始めたのは美術や芸術への造詣が深い人たちであり、自分が愛する作品を所有したい願望から投資という概念が生まれた。
自宅や自社オフィスなどに飾って、愛する作品を毎日目にするのもよいだろう。また、それを所有している満足感に浸るのも楽しみ方の1つだ。
3.2. 美術品投資のメリット2:節税効果
美術品には、減価償却費による節税効果がある。減価償却費は時間の経過によって価値が減っていく資産について価値の目減り分を損金として経費計上できる仕組みのことだが、美術品は古くなることによって価値が高くなるものもあるため、少々意外に思われるかもしれない。
これまでは取得金額が20万円までの美術品にしか減価償却費の計上が認められていなかったが、平成27年の国税庁の通達により、100万円未満にまで拡大された。これによって「美術品は節税になる」との考え方が広がり、富裕層を中心に美術品を購入することへの関心が高まっている。
3.3. 美術品投資のメリット3:値上がりが期待できる
美術品は時間が経過することにより、価値が高くなることがある。理由はさまざまだが、購入した時よりもアーティストの知名度や人気が高まることによって価格が大きく上昇することは珍しくない。値上がりを期待できるのは美術品投資の大きな魅力だろう。
4. 美術品投資のデメリット
美術品投資のデメリットについても解説しよう。美術品投資特有のデメリットもある。
4.1. 美術品投資のデメリット1:価格のボラティリティがある
美術品につけられる価格は、需給のバランスによって決まる。どんなに自分が素晴らしいと思っている作品であっても、それが高値で売却できるかどうかは市場の需要次第だ。そもそも作品の知名度はアーティストの知名度と同様、時代の状況によって激しく変化する。美術品の価格はボラティリティが高いと言える。
ただし、引き続き所有していると今度は価格が上昇する局面もあり得る。それを読みづらいところが、やはりボラティリティの高さとしてリスク要因といえるだろう。
4.2. 美術品投資のデメリット2:流動性が低い(売りづらい)
美術品には売りやすいものと売りにくいものがあり、また、いま売りやすいものであっても、いつ売りにくい作品になるのかわからない。株のように証券取引所があって、いつでも換金できるものではないので、流動性の低さは留意しておく必要がある。基本的に長期所有を前提とするものと考えるのが一般的である。
4.3. 美術品投資のデメリット3:保管コストが掛かる
美術品を良好な状態に保つには、そのための保管環境が必要だ。作品によっては風や湿度に弱いものもあるため、保管コストが発生することがある。
4.4. 美術品投資のデメリット4:真贋を見抜くのが難しい
美術品には贋作(ニセモノ)が存在する。プロの画商ですら騙されることがある世界なので、投資家が真贋を自分で見抜くのは難しいだろう。著名な作品ほど贋作も流通しやすくなるので、ニセモノをつかまされるリスクには要注意だ。基本的に、信頼できるギャラリーなど、専門家から購入する方がリスクは少なくなるだろう。
5. 美術品投資、5つの方法
美術品投資を実際に始めたいという方に向けて、その具体的な方法を5つ紹介しよう。
5.1. そもそも美術品投資はいくらからできるのか?
作品によって価格はまちなちなので、手に入れたい美術品の価格イコール投資額となる。投資メインで考えるのであれば、減価償却費の計上による節税メリットが得られる上限である100万円に近い価格の作品が、最も効率の高い投資額となるだろう。
5.2. 美術品投資をする5つの方法
実際に美術品投資を始める方法として、主要な5つの方法を紹介しよう。
美術品投資の方法1:美術品オークションで落札する
世界各地で開催されている美術品の公開オークションに参加して絵画などを購入する方法がある。サザビーズやクリスティーズといった欧米のオークションは有名だが、日本国内で開催されているオークションもある。
美術品投資の方法2:アートファンドで購入する
減価償却費の計上による節税メリットを狙ったアートファンドというスキームがある。専門業者の目利きによって購入作品の選定などでアドバイスを受け、購入した美術品から得られる節税メリットが終了したら売却するのが一般的な流れだ。
美術品投資の方法3:ギャラリーの店頭や古美術商で購入
街にある画商(ギャラリー)や古美術商などが販売している美術品を購入する方法だ。目の前にある美術品から選べるため、芸術嗜好の強い人には楽しみもある。
美術品投資の方法4:「カシエ」という美術品のレンタルサブスクを利用する
絵画を身近に楽しめることを目的に提供されている「カシエ」というサブスクリプションサービスがある。この「カシエ」に所有している絵画を提供し、利用者がそれをレンタルすると、レンタル料金のうち35%が報酬となる。
美術品投資の方法5:小口会員権を保有する
絵画の所有権を小口化し、売買ができるプラットフォームがある。高額な美術品であっても小口化することで購入しやすくなり、値上がり益を期待することもできる。たとえばAND ARTというサービスでは1口1万円から美術品を共同保有することができる。先ほど触れたバンクシー作品も取り扱っており、手軽に始めたい方に最適なサービスといえる。
6. まとめ:美術品投資は「投資ありき」だと失敗する
本記事では美術品の「投資」にスポットを当てて解説をしてきたが、あくまでも美術品は観賞用であり、コレクターズアイテムだ。投資メインで資産性にだけ期待をするのはリスクが高いので、観賞用として所有し、楽しみながら値上がりにも期待するのが正しい向き合い方だろう。