本記事は、阿部淳一郎氏の著書『ロジカルティーチング ガツガツしていない若手社員を伸ばす技術』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
企業側が求める能力に対する学校教育現場の実情
経営者・管理職の方が若手に求めるものに「主体性」があります。
次のデータは、経団連に加盟する企業に対して「新卒採用において、重視する選考ポイント」を質問したアンケート結果です。(図8)約64%の企業が、「主体性」を挙げています。
しかし、次のような調査データがあります。(図9)
新人の中で「マニュアルには載っていないことが発生した際にどう対応したいと考えているか?」という質問に対して「できるだけ自分で工夫する」と答えた主体性の高い人の割合は約26%。
つまり、4人中3人は「何か困ったことがあるときには、先輩や上司に聞くので、教えてほしい。まずは自分で考えろといった指導は避けてほしい」といった受け身の姿勢であることが分かります。
これも現場感としては同感です。
とはいえ、この結果は、当然のように私には思えます。彼ら・彼女らが通ってきた小学校・中学校・高校の多くは、「言われたことをきちんとこなす」というスタイルの指導になっているからです。
もしかすると学校教育に詳しい方の中には「いやいや、今は文部科学省も生徒の能動性を鍛えようという方針で色々と手を打っているだろう」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、文部科学省が音頭を取っていることもあります。
アクティブラーニング(教員による一方通行の授業ではなく、生徒たちに調べさせたり考えさせたりする授業スタイル)やプロジェクト・ベースド・ラーニング(地域の特産品を考える等、地元企業や行政とプロジェクトを組み、その経験の中から学ばせる学習法)などがそれにあたります。
最近では、このような能動性を高める取り組みをしている中学校や高校も増えてきました。
しかし、「座組みがあること」と「きちんと機能していること」は必ずしもイコールだとは限りません。機能している場合もあれば、機能していない場合もあるのが実情だというのが私の実感値です。
というのも、私は、中学校や高校で、こういったプログラムを外部講師として担当することがあります。その際に担当教員に対して「先生は、どういった目的で、この授業を企画されたのですか?」という質問を必ずしています。
その返答には、教員によって「温度差」がかなり存在するように感じています。
もちろん、「~という能力を身につけてほしいと思っています。それは、~という理由からです。そのためにはこの授業を通じて云々……」と、きちんと、生徒の能力開発に視座を置いた返答をされる先生はおられます。
世の中には、思いを持った素晴らしい先生方がたくさん存在します。
「どうすれば生徒たちが、将来、活躍できるだけの能力を身につけられるのか? 旧態依然のやり方にしばられない新たな手法はないか?」と所属する学校の枠を超え、議論・実践をしている教員グループも存在します。
しかし、残念ながら、全ての先生がそういった前向きな姿勢を持っているとはいえないのもまた実情です。
「先生は、どういった目的で、この授業を企画されたのですか?」と質問しても、「教育委員会から指示がきていて、やらなければいけないんですよ」こういった答えしか返ってこない、これ以上のことはまったく考えていない教員も、かなり多くの割合でいるというのが、私の現場感です。
こういった先生方が求めているのは「報告を教育委員会にあげるための、実施したという事実」のみ。生徒の未来に目が向いているようには、私には感じられません。
外部講師に丸投げで、授業に顔を出さない先生すらも存在します。
とはいえ、致し方ないとも思います。
文部科学省が2021年に実施した「♯教師のバトンプロジェクト」をご存じでしょうか。教員になりたい若者を増やすため、現職の教師から、自分や学校が前向きに取り組んでいる姿をTwitterとnoteで発信してもらおうという取り組みです。
ところが、文科省の意図に反して、発信された現役教員からの投稿は、前向きなものはほとんどありませんでした。
「長時間労働」「休憩が取れない忙しさ」「部活動の負担」など、趣旨とは逆の思いを訴える投稿が大半を占め、SNSで大炎上し、テレビ等のメディアでも多く取り上げられました。
学校の先生方の多くは過酷な労働環境の中に身を置いています。この環境下で何のサポートもなく「専門外の新しい取り組み」を求められたところで、きちんとした対応は難しいと感じる先生方が大半だよな……。
これが、私の現場にいる人間としての感じることです。
だからこそ上司・先輩が取るべきスタンスは「全ての若者が、学生時代に、仕事をするうえで必要なあらゆる能力・知識・スキルを身につけてきている」といった前提で育成に取り組まないことだと私は考えています。
育ってきた環境は、人それぞれ異なります。能力格差が、あらゆる面で存在する現状をきちんと受け止め、相手にもっと伸ばしてほしい能力があれば、そこをきちんと指導する姿勢が必要です。
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