本記事は、阿部淳一郎氏の著書『ロジカルティーチング ガツガツしていない若手社員を伸ばす技術』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
「◎キロのダイエットをする」という目標が失敗に終わる理由〘期待価値理論「期待」〙
まず、「具体的な経験をする」の部分です。本人にとって意味のある経験を積ませる際に大切なのは、「どんな目標の設定をさせるか」という点です。しかし、「部下・後輩に、適切な目標設定をしてもらうのが、なかなか難しい。形式だけのものになってしまう」といった声をよく聞きます。
ところで、「目標」といえば、年始に「今年の目標」を立てる方も多いですね。ただ、「達成したためしがない」という方も多いのではないでしょうか。目標が達成できない理由のひとつとして、立てた目標が「◎◎ができたらいいな」という願望にすぎないものになっていた、ということが考えられないでしょうか。
目標は行動の積み重ねで達成できるものですから、「行動を引き出すもの」として機能させる必要があります。そのために効果的な方法は、「到達目標(何を目指すのか)」→「行動目標(何をするのか)」→「今日の実行タスク(今日、どうするのか)」という3階層に分けて書くことです。(図34)
たとえば、同じように「10キロ減量する」という目標でも、図のように「そのためにどんな行動をし、今日、具体的に何を実行するか」まで落とし込んで記載すれば、行動を引き出しやすくなるのではないでしょうか。
このフレームを活用していく際に、まず設定するところは、「達成目標」の部分です。ポイントは、「書き方」「難易度」「意義」の3つです。一つひとつ掘り下げていきましょう。
まず、「書き方」からです。心理学者のエドウィンロック博士は、研究の成果から目標を設定する際には、「具体的で期限が設定されたものにする」ことが大切だと提唱しています。「◎月×日までに、1000万円の売り上げを立てる」といった形です。これはスムーズにできますね。
「これならやり切れる!」と思える仕事量にする〘達成動機タイプと失敗回避タイプ〙
次に「難易度」です。ポイントは、「目標は高く!」ではなく、「これならやり切れる!」と本人が感じるところに置く必要があるという点です。
J.W.アトキンソン博士が提唱する期待価値理論では、目標設定は「これならできそうだ!」と達成の可能性が高いと本人が感じる難易度であることが大切だ、と述べています。ポイントは、「本人が」という点です。
ここで知っておくと役立つのが、人は達成動機型タイプと失敗回避型タイプに大きく分かれるという点です。
前者は前向きなタイプで、「成功して誇りを得ることを大切にしたい」という傾向が強い人のこと。このパターンの人は「『この目標は50%の確率でクリアできそうだ』と本人が感じるところに目標を設定すること」が効果的であることが分かっています。つまり、ある程度の背伸びが求められる難易度に設定すると、有効に機能します。
一方、後者は後ろ向きなタイプで「恥をかくのがイヤだから失敗だけはしたくない」という傾向が強い人のこと。このパターンの人は、「『この目標は100%の確率でクリアできそうだ』と本人が感じるところに目標を設定すること」が効果的です。比較的ハードルが低いところから徐々にハードルを上げていく育成スタイルが求められるのです。
この見極めをせず、ただただ高い目標を強要すると「強烈なストレス」を相手に与え、早期離職やメンタル不調を促進する可能性が高まります。
若手の高い離職率が問題になっていた、ある不動産販売企業の若手の営業社員たちにインタビューしたところ、多くの上司が以下のように目標を設定していました。
▼支店長が無茶なレベルの目標を強制する ▼高い営業目標を一方的に割り振る
これでは、離職者が増えるものも当然でしょう。色々な事情があると思いますが「相手に合わせる」が原則になります。
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