本記事は、阿部淳一郎氏の著書『ロジカルティーチング ガツガツしていない若手社員を伸ばす技術』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
その「いじり」はハラスメントの可能性あり〘リモートワーク・ハラスメントの防止〙
コミュニケーション量を増やす施策は、すぐにできる些細な工夫です。しかし、こういった些細なことがコミュニケーション総量を増やしていくのです。
ただし、留意点もあります。
相手との関係に「線を引く」という点です。たとえば、テレワークにおいて、悪気なく、ちょっとした「いじり」のつもりで、次のようなことを言ってしまうことはないでしょうか。
▼「若いのに、いい部屋に住んでいるな」 ▼「ベッドは○○色なんだね」 ▼「ゲームと漫画ばっかりじゃないか」 ▼「部屋着だと、いつもと雰囲気が違うね」 ▼「化粧の手を抜いてないか?」
こういった上司・先輩の「いじり」は、プライベートと仕事をきちんと線引きしたい人にとっては、とても不快に感じる可能性があります。
ハラスメントは、仕掛ける側がどういう考えだったか? ではなく、相手がどう感じたか? が基準です。悪気はなかった……とか、愛情表現のつもりだった……というのは、仕掛ける側の都合です。たとえ、こういった意図での会話でも「リモートワーク・ハラスメント」になってしまう可能性も考えられます。これでは信頼関係はつくれません。
もちろん、プライベートの友人との会話の中では、こういった会話もあるでしょう。しかし、(会社のカルチャーにもよりますが)上司・先輩は友達でも家族でもありません。この認識に「ズレ」がある上司が非常に多いように私は感じています。
「親しき中にも礼儀あり」
プライベートに踏み込みすぎないという点には注意しましょう。
ポジティブな発言の割合を一定以上にする〘ゴッドマン率〙
2つ目はポジティブな発言や態度を8割以上にするという点です。
あるメーカーの工場で勤務する若手社員の方々は、リーダーAさんに対して、とても不信感を抱いていました。Aさんは口を開けば、会社に対する不満や部長や役員の陰口、仕事やそこにいないメンバーの悪口……といったことばかり言う方なのだそうです。
確かに、こういった否定的なこと「ばかり」口に出す上司に対して、良い感情は持てないでしょう。人間関係がうまくいくときのポジティブな発言とネガティブな発言の比率を統計調査した**ゴッドマン率という公式があります。
この統計によると、「上司部下の関係においては、コミュニケーションの8割以上をポジティブな内容にすると信頼関係はつくられやすく、それ以下になると、つくられにくくなる」とのこと。
つまり、発する言葉の2割以上がネガティブである上司・先輩との間に信頼関係をつくろうとは思わないのです。
Aさんは、「口を開けばネガティブな話ばかり」ですから、部下たちとの間に信頼関係が構築されていないのも、当然といえます。
この公式における「ネガティブ」とは、たとえば次のようなものです。
▼非難例「ちゃんと教えたのにできていないじゃないか」
▼侮辱例「まあ、○○さんには無理かもしれないけど」
▼自己弁護例「私はこの仕事だけをやっているわけではありません。きちんとした書類をつくってくれないから、私の時間が取られて、こんなに忙しくなるんです」
▼逃避例「……(相手を無視)」
こういった発言が多いと信頼関係は育はぐくまれません。
とはいえ、「こういった言動は良くない」と分かっていても、ついついこういったコミュニケーションをしてしまいがちです。なぜなら、人には自己奉仕バイアスという「うまくいかないときは、他人のせいにしてしまいがち」な脳のクセが備わっているからです。
もちろん、人間ですから、不平不満を持つのも当然です。それを一切口に出さずに、会話の全てをポジティブにするのは、あまりに無理があります。だからネガティブな言葉を出してもよいのです。大切なのは比率です。仕事は、つらいことや不平不満があるのが当然です。
とはいえ、指導するポジションにつく以上は、ポジティブな言葉の比率を高めようとすることは、やはり必要ではないでしょうか。
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