本記事は、阿部淳一郎氏の著書『ロジカルティーチング ガツガツしていない若手社員を伸ばす技術』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

まずい褒め方はむしろ相手の意欲を削ぐ理由〘褒め方の3点ルール〙

褒める
(画像=mits/PIXTA)

まず「褒め方」です。私は、褒め方の3点ルールと呼んでいますが、大切なことは「結果・プロセス・存在」の3つに目を向けた褒め方をすることです。

仕事に困難はつきものです。心理学者アドラーは「相手に困難を克服する活力を与えることが大切だ」と述べています。

つまり、「褒める」という行為は、困難を克服する活力へとつながる必要があります。ここで考えてみましょう。

たとえば、あなたが自分なりに一生懸命、学業に取り組んでいる中学生だとして、

①テストで90点以上を取れたときは、「よく頑張ったね」と褒めてくれるが、その点数以下のときには猛烈に怒るという親

②テストで良い点数を取れたときには、ともに喜んでくれる。思い通りの点数は取れなかったときでも「結果は良い点ではなかったかもしれないね。

けど、いつも夜遅くまで頑張っていたね。私はその姿を見て、本当にわが子ながら、その姿勢が素晴らしいと思ったよ」と言ってくれる親

どちらの親に対して「困難を克服する活力」をもらっていると感じるでしょうか? 「②」ではありませんか?

「①」は結果にのみ焦点を当てています。結果を出したときにしか褒めないということは、「上の立場の私が自分の関心・基準で設定した『条件』をクリアできたかどうか」が判断軸として存在しています。

つまり、「その条件をクリアできる人には価値があるが、できない人には、価値がない」ということになります。ここには、「あなたという人間そのものは尊重しません」という裏メッセージが潜んでいます。

「困難を克服する活力」は「自分は周囲の人から、ひとりの人間として尊重されている」という認識を持つことが土台です。こういったスタンスで接してくる上司・先輩に対して、この認識は持てないのではないでしょうか。

一方で、「②」は「結果」だけでなく、「プロセス」と「存在」にも焦点を当てています。

例え、今回は結果が出なかったとしても、相手の頑張りや、存在にも目を向けた「良い出し」は、同じ目線から相手を人間として尊重しているメッセージになります。

これなら、「自分は周囲の人から、ひとりの人間として尊重されている」という認識を与え、「困難を克服する活力」へとつながりますね。これを仕事に置き換えてみましょう。

たとえば、あるOA商社営業部のA課長は、部下たちからの評判があまり芳しくない方でした。Aさんは、部下に対して、「結果(売上目標の達成)が出せたときは、よくやったと褒めるが、出せなかったときは、徹底的につるし上げる人」でした。

部下たちは「A課長は、上から目線で、結果にしか興味がない、人を大切にしない人」という捉え方をしていました。

結果、生まれたものは、「仕事=課長に怒られないための作業」という認識です。これではパフォーマンスは高まりません。A課長は、褒めること自体はしていますが、結果にしか焦点を当てていないため、うまく機能していないのです。

一方で、同じ会社の営業部の別の課を率いるB課長は、部下からの信頼が厚い方でした。

B課長は、「結果が出せたときは一緒に喜ぶ」。

結果が出せなかったときも、「今月は売上数字が目標に達しなかったね。そこはきちんと改善しよう。ただ、今月は、新規開拓の電話を、400本もかけたのか(プロセス)。私はすごくガッツがある人だなと思ったよ(存在)」

こういった褒め方をしたうえで改善策に入る方でした。

部下たちは「B課長は、同じ目線で、きちんと向き合ってくれ、人を大切にする人。B課長の下でなら、頑張ろうと思える」という捉え方をしていました。

これは、B課長が、結果・プロセス・存在に目を向けているがゆえに、きちんと「困難を克服する活力」へとつながっています。

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(画像=『ロジカルティーチング ガツガツしていない若手社員を伸ばす技術』より)

ちなみに写真は、ある小学校の1年生クラスに掲示されているポスターです。きちんとプロセスや存在にも焦点が当たっています。素晴らしいですね!

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(画像=『ロジカルティーチング ガツガツしていない若手社員を伸ばす技術』より)

普通に褒めるよりも効果的な裏技〘ウインザー効果〙

褒めるアプローチとしては、「他者の声を使う」という方法も効果的です。

たとえば、あなたが上司から「A社(取引先)のBさんが、メールのレスが早くて助かると◎◎さん(あなた)のことを褒めていたよ」「この間の打ち合わせ。C部長が、◎◎さんは多面的な側面から考えようとしていて、その姿勢がとても良いねと言っていたよ」こういったことを言われたら、素直に嬉しいのではないでしょうか?

それどころか、むしろ、直接、上司に言われるよりも嬉しいと感じませんか?

この、「第三者がこう褒めていた」と伝えられると、直接褒められるよりも嬉しさが増すことをウインザー効果といいます。

時折、このアプローチを使うことも有効です。ただし絶対にやってはいけないことがあります。それは「第三者が、裏でこう否定していた」という、いわば「陰口のつげ口」をしてしまうアプローチです。

「A社(取引先)のBさんが、メールのレスが遅くて困ると◎◎さん(あなた)のことを裏で愚痴っていたよ」「この間の打ち合わせ。あの後、C部長が、◎◎さんは考えが浅くて困ると、皆に言っていたよ」と言われたら、悪い意味で強烈なインパクトを与えられませんか?

パワフルな方法だからこそ、「褒める」際にのみ使う必要があるのです。

ロジカルティーチング ガツガツしていない若手社員を伸ばす技術
阿部淳一郎(あべ・じゅんいちろう)
若手の採用・育成・定着に強い人材開発コンサルタント。株式会社ラーニングエンタテイメント代表取締役/保健学修士。大手社会人教育企業などに勤務後、2004年起業。以後、一貫して「意識が高いわけではない若手をメンタル不調にさせず、無駄な早期離職を減らし、どう活躍してもらうか」をコンセプトに、心理学を土台にした手法を活用し、大手企業~中小企業・行政・中小企業支援団体等にて、採用・育成・定着・就職支援等に携わる。登壇実績2000本以上。30社以上の企業にてコンサルティング実績。起業時から多くの大学にて学生の就職支援にも携わり「若者が会社では絶対に言わない仕事に対する本音」にも精通。一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会の参事も務め、パワハラ予防にも詳しい。『これからの教え方の教科書』(明日香出版社)など著書5冊。マイナビニュースや月刊人事マネジメントでの連載、日本経済新聞、読売新聞などメディア登場も多数。東洋学園大学兼任講師(キャリア形成論担当)。早稲田大学教育学部卒。筑波大学大学院(行動科学/ストレスマネジメント領域)修了。

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